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運動会のご案内-ボクのプレシャスブルー1

ボクのプレシャスブルー

運動会のご案内


 私たちが結婚をして十年の今年、下の子供の治人が小学校に入学した。
「お父さん,ただいまぁ」
「お帰り治人。あ、そこに宮野のおばちゃんからもらった饅頭があるから、手を洗って食べなさい」
「はーい。宮野のおばちゃん、今度はどこに行ってきたの?」
「どこだっけ、ああ長野だ。『牛に引かれて善光寺参り』って言ってたから。」
 この宮野さんと言うのは、私が主宰しているパソコン教室の生徒で、老人会の顔役だ。その老人会のイベントで、ああ今月はここ、来月はあそこと国内を飛び歩いているのだ。そして、その度にご丁寧に毎回手土産を提げてやってくる。しかし、『牛に引かれて善光寺参り』と言いながら上機嫌だったぞ、あのばあさんは。

「あ、お父さん忘れてた。はい、これ」
饅頭を食べ終わると治人はランドセルから一枚の紙を取りだした。それを見て私の顔が歪む。
それは、運動会のパンフレットだった。

 ウチの子供たちの小学校では何年か前から運動会は春に行われるようになった。それまでの三学期制から二学期制に移行したからというのが表向きの理由だが、本音は昨今中学受験が増えたので、そうした六年生の児童のための配慮のようだ。
 私は徐にそのパンフレットを開いて中身を確認する。……ああ、やっぱりあった。私は午前の部中ほどにある、一年生が保護者と参加する競技を見てため息をついた。

 その時、つかつかと入ってきた人影に、私はそのパンフレットを奪われた。
「すっかり春の行事にされちゃったよな、オレらの頃は秋だったのに」
そう言いながら、私に許可もなしに土産の饅頭にも手を出しているのは、純輝だ。こいつは私の妻さくらの死んだ元婚約者の甥という微妙な立場をものともせず、その上自身が四歳でさくらが私と結婚しているというのに、未だにさくらを密かに狙っている、ある意味強者だ。
「純輝」
「よしりん、コレなかなか旨いな。いつものばあちゃんの土産?」
その証拠に、私はこいつより三十歳も年上だというのに、何気にタメ口だ。
「俺は君にまだやると言ってないぞ」
「あ、いただきます……ごちそうさま」
純輝は片手で手刀を切って、そう言うと私に向かってニッと笑った。実はこういうふざけた野郎だったのか、高広は。周りから純輝が高広とそっくりだと聞かされるたび、私は複雑な思いに捉われる。

「あ、コレね。子供が乗っているそりを親が引っ張って走る競技か。いいよ治人、オレが出る」
そして、治人は純輝に親子競技のパートナーを打診していた。
「純輝! 君は治人の父親じゃないだろ!!」
「じゃないけど、さくらちゃんの息子はオレにとっても息子みたいなもんだし、どう考えたってよしりんムリじゃん。普段走り回ってるさくらちゃんを走らせるなんてことできないし、ならオレが出るしかねぇじゃんよ」
「ムリなんかじゃない! 競技には俺が出る!!」
そうだ、治人の乗ったソリは片手で引っ張るものだ。杖をつけば動ける。私は純輝の『どう考えたってムリ』という言葉に大人げなくむきになってそう言い張った。
「ダメ、お父さんはダメ! ボクは純兄が良いの!」
すると治人が目にいっぱい涙をためながら、私の参加を拒絶したのだ。
……そうか、治人。やっぱりこんな父親は嫌だよな……私は、息子の言葉にがっくりと肩を落とした。



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ボクのプレシャスブルー2

「おい治、それはねぇんじゃね?」
「だって……」
純輝が慌ててフォローに入るが、治人はまだ何か言いたげだ。そうだよな、子供たちにとって私は自慢できる父親ではない。

 私は、十八年前の交通事故で九死に一生を得た。その時私は、首から下は折れていない所はないんじゃないかと言うくらい骨折していた。特にひどかったのは右足。粉砕骨折で、自身の骨だけでは再生することができず、チタンを入れてある。そのために、私の右足はほとんど曲げることができない。
 実のところこれまでの運動会の際には、長時間立っていることも応援席に直に座ることもできない私は、車椅子を持ち込んで対処している。
 一見、ディレクターズチェアやパイプ椅子など、簡易的な椅子でも良さそうなものだが、そういう不安定なものでは座ったが最後、誰かの介助なしには立つことができないのだ。ということは、座ったが最後全く動けなくなるということだ。
 その際、大人は気遣って目線を外してくれるが、子供たちは容赦なく奇異なものを見る目で見つめる。そんな不甲斐ない父を子供たちは恥ずかしいと感じても仕方がない。
「純輝…すまん、やっぱり君が一緒に走ってやってくれ。俺じゃ、確実にビリだからな」
「よしりん……」
「治人、純兄と一緒に一等賞取れよ」
私が治人の頭を撫でながらそう言うと、治人は悲しそうな顔で、黙ってこくりと頷いた。

「ちょっ治、ちょっとこっち来い」
すると純輝がそう言って治人を表に連れだした。一人になった私は夕食の準備を始めた。
 さくらは大学生の今、看護師の頃のように夜出かけることはまずないが、授業に実習にと帰ってくる時間は遅い。必然的に家にいる私が家事をすることになった。そんな「主夫」の生活も、子供たちにはどう映っているのだろう。そう考えながら剥いた玉ねぎは、いつもより目にしみた。

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ボクのプレシャスブルー-ボクのプレシャスブルー3

僕のプレシャスブルー 


そして運動会当日、空は抜けるような青空で絶好の運動会日和と言ったところだ。誰もが運動会が中止になったなんて誤解を挿む余地のないくらいの好天。
 だが、それなのに開会式が終わっても純輝は姿を現さなかった。刻々と保護者参加の競技の時間が近づく。治人は不安そうに何度も何度も辺りを見回していた。
 そして、あと三つばかりでもうその競技になると言う時、私の服のポケットが振動した。私はポケットから携帯を取り出す。
「今、どこだ。もう始まるぞ。」
私は電話の相手―探している当の純輝に憮然とそう言った。
「……ゴメン、オレパス。今朝から腹調子悪くてさ、トイレからマジ出らんねぇんだ。よしりん、やっぱ出てくんねぇ?」
「俺がか?」
純輝はため息交じりの荒い息でそう返す。今頃言ってくるなと怒鳴ってやりたかったが、掠れた痛みを堪えた声で言われて、私はかろうじてそれだけは抑えた。急な体調不良は誰にだってあることだ。
「最初は出るつもりだったんだろ。」
「ムリだ。治人に嫌がられる」
私がそう返すと、純輝は、
「えっ、治は嫌がってねぇよ。とにかくよしりんが……あ……ダメだ。そいじゃ切るから。」
と言うと一方的に電話を切ってしまった。
 治人が嫌がっていない? どういうことなんだ。確かにあの時、私の参加を拒絶した治人を純輝は表に連れ出したが、そこで何を話したのだろう。
 さくらはと見ると、ビデオを抱えてベストショットで治人と純輝をとらえようと移動をしていて、車椅子に乗っている私には彼女をつかまえて、代わりに出てもらうだけに時間はもうない。
 
 程なく親子競技の召集がかかり、私は車椅子を邪魔にならないところに停めて、杖をつきゆっくりと待機する場所に向かった。同じように児童席からそこにきた治人の顔が既に歪んで涙目になっている。
「純兄は?」
「急に腹が痛くなったんだと。治人、ビリにしかなれないけど、父さんでも良いか」
私の言葉にさらに治人の顔が涙で歪む。ああ、本当に嫌なんだなと思った時、息子の口から思いがけない一言が私の耳に響いた。
「お父さん、ムリしないで。歩けなくなっちゃうよ。ボク、コレ出ない。」
治人の眼から涙が一つ二つとこぼれる。
ああ、純輝が『治は嫌がってねぇ』と言ったのは、こういう意味だったのか。
 実のところ私の身体は、十八年経った今でも雨が降り続くと痛みで動きが悪くなる。梅雨直前のこの時期に、私にムリをさせたりしたら歩けなくなってしまうんじゃないか。治人はそんなことを心配していたのだ。
「大丈夫さ。走ったくらいじゃどうもならないさ」
「ホントに?」
「ああ」
私が頷くと、治人は何かを思い出したようにパッと明るい顔になった。
「そうだよね、お父さんはプレシャスブルーなんだから、大丈夫だよね」
「ああ、そうだよ」
私は治人の口から出てきた言葉の意味は解からなかったが、頷きながら相槌を打った。治人の顔に満面の笑みが広がった。

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ボクのプレシャスブルー4

「すいません、座ったら立てないもんですから、このままで良いですか」
「え、ええどうぞ」
私は実行委員のPTAの役員にそう断りを入れて、立ったまま順番を待った。少しずつ前に進んで……私たちの順番になった。他の二人の保護者が勢い込んでダッシュしてそりの紐を掴んで走る中、私はそれでも自分の中ではトップスピードで「走る」そんな私に、治人はそりの紐を掴んで私の手の中に置くと、そりに座り込んだ。
 一歩、また一歩と前に踏み出す。営業時代は足で稼いだはずなのに、その足は今、鉛のように重い。そんな右足に自身で渇をいれながら、少しずつだが確実に進んでいく。その様子に場内が息をひそめた。競技中の音楽だけが華やかに鳴り響く中、私は黙々と治人のそりを引いて「走る」。
 
 しかし、折り返し地点を過ぎて、日頃運動らしい運動をしていない私は、息が完全に上がってしまっていた。肩で息をしている私に、治人は立ちあがった。
「ダメだ、治人座ってろ!」
「お父さん、もういいよ。お父さんが壊れちゃうよ……」
治人は泣きながら、それでも渋々またそりに座った。
「大丈夫だ、男が一旦引き受けた仕事を投げ出したりできるか。それに、父さんはそのプレシャス何とかなんだろ」
「プレシャスブル……」
「じゃぁ、心配するな」
私は治人にウインクすると、また前に向かって「走り」出した。すると治人は、
「お父さんガンバレ!」
と大声で私の応援を始めた。
「そうだ、治人のパパガンバレ!」
そして、前の方からも声援が響く。見るともうとっくにゴールしていて良いはずの同走者が、ゴールの一歩手前で立ったままでいた。その治人の同級生の少年も真っ赤な顔をして一緒に私を応援してくれていたのだ。やがて、それは大きな応援の波となって私に打ち寄せてきた。会場の皆が私にエールを送り始めたのだ。
「ガンバレ、ガンバレ」
という声に導かれて、私はゴールテープを切った。そのすぐ後、他の二人がゴールに飛び込む。会場から大きな拍手が送られた。
「皆さん……」
「松野さんは文句なく一番ですよ」
父親と言うには少し若そうなロン毛の同走者がそう言い、もう一人が頷く。そんな私に、実行委員が折り紙で作られた金メダルをかけてくれた。
「ありがとうございます」
私は礼だけを言って最後尾に並ぼうとした。

しかし、そこには車椅子を押した純輝の姿があった。
「よしりん、お疲れ。かっこよかったよ。これ以上負担かけられねぇだろ。だから、持ってきた」
彼は笑ってそう言った。

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ボクのプレシャスブルー5

 私の後にはもう二組しか残っていなかった競技はあっという間に終わり、私は純輝の持ってきてくれた車椅子に乗り込むと退場門から観客席に移動した。その際にも、拍手が沸き起こる。私は気恥ずかしくて赤くなりながらトラックを後にした。

「純輝、やってくれたな。仮病か」
だから、観客席に着くや否や、私は純輝に文句を吐いた。
「人聞きの悪いこと言わねぇでくれよ。すっきりしたから、飛んできたのにさ」
それに対して、純輝はしれっとそう答えた。
「家からここまで何Kmあると思ってんだ」
「オレ、家で唸ってるって一言でも言ったか? ここのトイレで唸ってたんだよ」
「まぁ、良い。そう言う事にしといてやる。純輝、ホントにありが……」
「良い訳ないでしょ! 純輝、何て事してくれるの!!」
 だが私が渋々という感じで彼にお礼を言おうとしていたその時、反対側でビデオ撮影をしていたさくらが私たちの許にすっ飛んで来て、いきなり平手で純輝の頬を打ったのだ。
「痛ってぇ!」
「さくら!」
「純輝、芳治さんが競技中に転んだらどうしてくれるつもりだったの? 転んで補強してある部分がズレでもしたら、手術しなきゃなんないんだからね。あの時の手術から十八年も経ってるのよ、その部分にはもう肉がしっかり巻いてて、ちょっとやそっとじゃ元に戻せないんだから。最悪、二度と歩けなくなるかもしれないのよ!」
「ウ、ウソ……さくらちゃん、ゴメン。オレ、そんな大変なことになるなんてちっとも思ってなくて……」
ぶるぶると唇を震わせて怒るさくらに、純輝は塩をかけられた青菜のように一気に萎れた。
「転ばなかったんだから、良いじゃないか」
慌てて私がフォローに入るが、さくらの怒りは治まらない。
「良くないよ。もし転んだらって思いながら、ビデオ撮り続けた私の気持ちにもなってよ」
「さくらちゃん、ホントゴメン!」
涙目で怒り続けるさくらに、純輝は手を合わせて謝る。
「謝るのは私にじゃないでしょ!」
さくらにぴしゃりとそう言われて、純輝は首をすくめながら、
「よしりん、ゴメン」
と小さくつぶやいた。
「良いよ、こっちこそありがとう。久しぶりに走れて気分爽快だった」
私は笑顔でそう返した。走ると言う動詞が当てはまるかどうかも確かではないくらいの走りだが、久々に全力を出し切って「走る」ことが出来たのは本当に爽快だった。

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昼食-ボクのプレシャスブルー6

 運動会は午前の部を終え、私たちは昼食を取る場所を探した。
「ああ松野さん、良かったら一緒にどうですか」
声をかけてくれたのは、先ほどのロン毛の同走者だ。引っ張っていた少年と二人でコンビニらしきお弁当を持って陣取っている。
「治人、一緒に食べよ」
治人がその少年の言葉に、私の顔を覗き込む。
「ご一緒させていただけますか」
その言葉に、息子と少年との顔がぱっと華いだ。
「どうぞ。私は悠馬の父親の伏見と言います」
若そうだが、やはり父親だったか。私自身が二度目で、息子の父親としては歳を取り過ぎているのも事実だが。兄とまでは言わずとも、小学生の子を持つほどの年齢にはとても見えない。
 早速純輝が隣にシートを敷き、持ってきた弁当を取り出す。
「どうぞ、たくさんありますから、ぜひつまんでください」
「うわっ、すげぇ」
「えへへ、お父さんが作ったんだよ。」
取り出した弁当に色めいた悠馬に、治人は自慢げにそう言った。
「へぇ、松野さんが作られたんですか」
それを見て伏見が目を瞠った。
「私はこんな身体ですからね、嫁を働かせて主夫をやってるんです」
そう言った私に、
「芳治さんだってちゃんと仕事してるじゃない、『髪結いの亭主』みたいな他人聞きの悪いこと言わないでよ。それに今は仕事だってしてないし」
と、さくらは口をとがらせた。
「お母さんはね、今大学生なんだよ。赤ちゃんが生まれるお仕事をするために、学校に行ってるんだ」
そんなさくらに治人は胸を張って補足する。
「赤ちゃんが生まれるお仕事?! ボクんちもね、ちょっと前にね、妹が生まれたんだよ! 千春って言うんだ。めちゃくちゃかわいいんだよ」
悠馬も負けじと生まれたばかりの妹の自慢を始める。
「それはおめでとうございます」
「あ、いえ、ありがとうございます。」
私のお祝いの言葉に、伏見は頭を掻きながら答えて、
「明後日帰ってくるんだよね、パパ」
と言う悠馬の言葉に優しく頷いた。

 治人と悠馬はさっさと食べ終わると、
「遊んで来て良い?」
と二人で走って行った。その時、
「治人のパパって、カッコいいな」
「そうだろ? だからボクのお父さんはプレシャスブルーだって言ったじゃん」
という会話が風に乗って私の耳に届いた。




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ボクのプレシャスブルー7

「それでさ、そのプレシャスブルーってのは一体何なんだ?」
 二人が離れたのを見計らって、私は純輝にそう尋ねた。すると、純輝はもちろんのこと、楓や伏見までもが吹き出したのだ。どうやらその存在を知らないのは私とさくらだけらしい。
「よしりん、まさか何にも知らないで、『俺はプレシャスブルーだ』とか言ってた訳?」
「治人が言うのに頷いてただけだ、俺は」
腹を抱えて笑う純輝を睨みながら私はそう言った。
「時空戦隊プレシャスファイブ。確か今やっているSINOBI戦隊忍レンジャーの二つ前のやつですよね」
戦隊? ああ、あの色とりどりの全身タイツで飛び跳ねる子供番組か。
「伏見さんはよくご存じなんですね」
「ええ、悠馬と一緒に毎週欠かさず……ってか、俺の方が率先して見てますよ。あれってね、大人が見てもって言うか、大人が見てこそ面白いんです。子供に十年、二十年前のパロなんて解かりませんからね。大人が見るのを想定してそういうのを組み込んであるんですよ。言わばスタッフのアソビです。俺、そういうの見つけるとワクワクするんですよ」
「わぉ、悠馬君のお父さん、同志! あれはやっぱ大人が見るもんですよね」
とそれに純輝が食いつく。
「大人ってなぁ、君はまだ中学生だろうが」
「だけど、小学生のガキんちょじゃもうねぇから」
私の言葉に、純輝は剥れる。だが、私から言わせれば、こいつはまだまだひよっこのガキだ。そのまま純輝は喜々として伏見と戦隊モノの魅力について大いに話に花を咲かせ始めている。そんな話を聞いていると、私もそのプレシャスブルーと言う奴を見てみたくなった。伏見が、
「そう言えば松野さんってどことなくプレシャスブルーに似てますよ。顔もそうだし、泰然自若とした雰囲気とか……」
などと言うものだから余計に。するとそれを察したのか、
「あ、家にプレシャスファイブのDVDあるよ。純兄が録画してくれた」
と楓が言う。
「どうせ、自分が見たいから録画したんだろ、純輝。自分の家で見ろ、家で」
「あの面子がオレに見たいモノ見せてくれると思う?」
私の言葉に純輝は首をすくめてそう答えた。
「ま、それはそうだがな」
純輝は五人兄弟の二番目。確かに、あの家で好きなDVDを見るのは至難の技だろうな。
「あれっ、純輝君って治人君のお兄ちゃんじゃないんですか?」
 その時、会話を聞いていた伏見が不思議そうに尋ねた。
「あ、オレはここんちの子供じゃないですよ。オレはさくらちゃんの前の旦那です」
それに対して純輝は笑いながらそう答える。
「お前まだ、それを言うか?!」
「言うくらいタダじゃんかよ」
私たちにはいつもの会話だが、尋ねた当の伏見にはますます謎が深まってしまったのだろう。口を開けたままの顔に、戸惑いと聞いてしまった後悔が見える。
「あのね、この子は私が主人と結婚する前に付き合ってた人の妹の息子なんです」
それで慌ててさくらが事情を説明するが、さくらも自分は解かっているために幾分説明不足だ。
「オレはそのおっ死んだ彼女の恋人の生まれ変わり……なんて言ったら、伏見さん信じます?」
「……」
純輝は伏見の顔を覗き込んで尋ねたが、伏見はどう返答して良いのか解からずにこたえあぐねている。
「冗談ですよ。オレ、その伯父さんにすごく似てるらしいんです。だから時々ネタにするだけですよ」
純輝はその様子を見て、笑顔でそう付け加えた。

本当はネタだなどとは思ってないクセに……私は純輝の横顔を見ながらそう思った。

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ヒーローの条件-ボクのプレシャスブルー8

 帰宅後、楓に「時空戦隊プレシャスファイブ」を探してもらい視聴した。ウチに残っているのは中盤過ぎから以降の回だ。純輝も最初は何気なく見ていてはまったに違いない。
 なるほど、プレシャルブルーと言うキャラクターは分った。しかし、ストーリー面で少し引っかかる部分があり、そう言えばパソコンではこうした動画を視聴できたということを思い出し、パソコンを開いて動画サイトにアクセスする。
 そして、私は食い入るように何話も見て、最終回では涙まで流していた。純輝が同じ戦隊モノの中で特にこの作品に思い入れを感じる理由が解かったからだ。おそらく私がプレシャスブルーだと治人に言ったのも彼だろう。
 
 時空戦隊プレシャスファイブは、歴史を改ざんする悪者と戦う時空警察の物語。
 かのプレシャスブルーは不治の病に冒されている。そのことがリーダーのプレシャスレッドにばれて、彼はブルーにメンバーから外れるように言うのだが、ブルーはその時、
「人間誰だって明日は無事かどうかは判らないじゃないか。頼む、俺に最後まで任務を全うさせてくれ」
と、頑として譲らなかった。その気迫に負けたレッドはそのことを他の誰にも告げず、全員で敵を壊滅させる。
 そして、奇跡が起こる。今まで不治の病だったその病気の原因が解かり、手術と投薬で助かることが解かったのだ。今まで敵が捻じ曲げていた歴史が修正されたことによって、治療法が見つかったというオチ。ブルーはみんなに見守らながら手術室に消えていき、生還するという話だった。

「よしりんも最近プレシャスファイブにはまってるってきいたけど。やっぱしあれって、大人がみるもんだろ」
運動会からしばらくしたころ、純輝がニヤニヤ笑いながらそう言ってきた。
「治人に俺がプレシャスブルーだって言ったのは君だろ」
そんな純輝に私は唐突にそう尋ねた。
「いきなり何だよ」
「しかし、俺から言わせればあれは高広君のような気がするけどな」
だからこそ、思い入れたんだろう? 私はそう心の中で言いながら前に立つ純輝を見つめた。
「ううん、あれは……やっぱよしりんだよ」
それに対して純輝は苦々しくそう返した。
「ヒーローは生還できてこそヒーローじゃん。」
そして、彼はぽつりとそう付け加えた。
 

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ボクのプレシャスブルー9

「治さ、お父さんに肩車してもらってる奴のことを食い入るようにみてたんだ」
すると、純輝は急に昔話を始めた。

-*-

「治、羨ましいか」
そう言った純輝を治人ははっとして見た後、俯いて頭を振った。
「よしりんはな、不死身のヒーローなんだぞ」
純輝はそんな治人の頭を撫でながら言った。
「よしりんが事故に遭った時、手術に13時間かかったんだってさ。もういつ死んでもおかしくない状態だったってさくらちゃんが言ってた。」
「そうなの?」
「そんなところから、よしりんは帰って来たんだ。さくらちゃんの旦那で、楓や治のお父さんになるためにさ」

-*-

「オレはただそう言っただけだよ。よしりんのことをプレシャスブルーだって言ったのは、正真正銘治だ。あの、運動会でいっしょに昼飯食った悠馬って奴いたろう」
「ああ、伏見悠馬君」
「あいつな、去年まで草尾って名前だったんだよ」
名字が変わった? そう言えば、そうだったような気がする。と言う事は伏見とは義理仲という訳なのか。私は伏見が妙に若っぽい感じがしたのも、父親になりたてだったからなのかと思った。男はその身で子供を育むことができない分、生まれてから“父親”になる者も多い。子供が親にしてくれるのだ。
「いつだっけかオレが迎えに行ったら、治があいつを殴ったって先生に怒られてんだよ。けどさ、治は絶対に謝ろうとしないんだ。『ボクは悪くないもん! 本当のことを言っただけだもん』って泣いてさ。」
治人が他所様に手を上げていたとは初耳だ。しかも、知らないこととはいえ、私は謝罪もしなかった。
「で、よくよく聞いてみたらさ、治がよしりんの自慢をしてたらしいのな。それ、そん時親父のいなかった悠馬にはキツかったんだろうな、『なんだよ、お前んとこのパパなんてショーガイシャじゃん。おじいちゃんみたいに杖つかないと歩けないクセに!』って言われて殴ったらしい」
子供と言うのは、まっすぐな分、相手の傷口にストレートに入りこむことを言ってしまうものだ。
「でさぁ、そん時治が言ったんだ。『お父さんの足にはね、チタンっていう金属が入ってるんだ。超合金なんだよ、不死身なんだ。お父さんはね、ボクの、僕だけのプレシャスブルーなんだ!お父さんはおじいちゃんなんかじゃないもん。だから絶対に謝らない!!』ってね」
 そう言えば、迎えに行った際、悠馬の母とはち合わせたこともあった。彼女は、言葉少なに保育士に礼だけを言うと、さっさと悠馬を連れて立ち去った。悠馬も母と言葉を交わしている様子はなかった。あの頃、母子は生活することにいっぱいいっぱいだったのかもしれない。そんな中、得々と私の自慢を始めた治人に悠馬は言いようもない苛立ちを覚えたのだろう。
 そして、自分がそんな風に悠馬を傷つけているとは思っていない治人は、私の名誉を守ろうとして、悠馬にかみついたという訳か。しかし、補強のためのチタンが超合金とは良く言ったものだ。
「だからさ、あの昼飯の時、名字の変わったあいつがすごくいい顔してるんでちょっとホッとした。正直、あいつと一緒に走るって分ったとき、ちょっとドキドキしたんだよな。」
プログラムには走る順番が記されていたが、名字だけだった。あの時競技が始まってから悠馬が同走者だと知って、純輝は内心焦ったのかもしれない。

 あれから時々悠馬が遊びに来るようになった。そして、妹を連れて迎えに来た彼の母の表情は、別人とも思えるほど変わっていた。
「悠馬のパパはさしずめプレシャスグリーンってとこかな、よしりん」
相変わらずその時も家に来ていた純輝は、ぽつりと私にそう言った。
 

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オレのプレシャスブルー-ボクのプレシャスブルー10

 その日、私と純輝は揃って「プレシャスファイブ」を見ていた。

「ゴメンな、楓がジューンブライドじゃなきゃヤダって聞かねぇんだよ。欧米じゃないんだから、六月の結婚式なんて雨ばっかりなのにな。女ってどうしてそこに拘んだろうな」
純輝は画面を見つめたまま私の方を見ないでそう言った。彼は最近、私の足の調子が思わしくないことを心配しているようだ。
「大丈夫、たかだかチャペルの中を歩くぐらいで、心配することはないさ」
「だけどさ、バージンロードって布が引いてあんだろ? もし躓いて転んだりしたら……杖は使えないしさ。そもそもクリスチャンでもないのに、女の憧れとかで教会式に拘るなってんだ」
 ああそうか、彼は私が転ぶことを怖れているのか。彼はあの時さくらに平手打ちされて怒鳴られたのがトラウマになっているのかもしれなかった。
「その代わり、楓がしっかり支えてくれるさ。ところで、それは女の子の憧れとか言うんじゃなくて十年前の運動会が原因らしいぞ、楓のジューンブライド願望」
「へっ?」
「あの時俺が治人を引っ張って走っただろ。あれを未だに根に持ってるんだよ。『あたしの時はお母さんだったのに、治人だけずるい』だそうだ。だから、運動会と同じ頃に一緒に歩いてほしいんだと」
「ホントに?! オレにはそんなこと一言も言ってなかった」
「お前に言えば、あれはお前が仕組んだことだから、気を遣うとでも思ったんじゃないか」
私がそう言うと、純輝は頭を掻いてこう言った。
「にしてもさ、よしりん愛されてるねぇ……」
「ああ、そうかもな。俺自身はちっとも男親らしいことしてやれなかったと思ってるのにな」
「そんなこと思ってたの? 泣いても抱いて歩けなくても、一緒にキャッチボールできなくても、そんなこと些細な事じゃん。そんなもん、オレだってしてもらったことねぇよ。ウチの場合は、下に手がかかるし、会社に手がかかるからだけど。な、みんなそんなもんだよ」
私の言葉に純輝はそう言って、何とも晴れやかに笑った。あれから、もう一人生まれたから、純輝は6人兄弟。その上父親は嫁の父親から引き継いだ会社を切り盛りしている。生まれたばかりの事は本人の記憶にはないだろうから、触れ合った記憶は薄いかもしれない。だが、君の父親は嫁の祈りが通じて義兄そっくりに生まれてきた君を、それはそれは大切にしてきたんだぞ。それだけは、解かってやってくれよ。

「たっだいまぁ~」
その時、買い物を終えた楓とさくらが家に戻ってきた。
「何よ、男二人揃ってまたそんなもん見てるの? 相変わらず父子仲良いことで。結婚したらちゃんと家に帰って来てよ」
楓はそう言って新居に必要な物を仕分けして、用意してある箱にしまいながら笑う。まるで私と純輝の方が親子で、自分が嫁にでもくるように。
「バカ、お前がいるから毎日来るんだろうが。そりゃ、いきなり二人ともいなくなったら、よしりんが寂しがるだろうから、時々は来るだろうけど」
「時々って、どれくらい?」
「だから時々!」
まったく……父親にやきもちを焼く娘なんぞ聞いたことがない。その当の父親は、大事な娘を掻っ攫っていくその男にもっと嫉妬しているのをこの娘は解かっているんだろうか。

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ボクのプレシャスブルー11

「純輝、こんなじゃじゃ馬だが、楓を頼むよ。で、今度はどんなことがあっても全うしてくれよ。『その健やかなる時も、また病める時も』だ。俺の場合、(さくらには)健やかなる時なんて味あわせてやれなかったが」
「何言ってんの。私は最初からこの芳治さんしか知らないの。だから、今が当たり前なのよ。昔の営業でバリバリ走り回っていた芳治さんに戻るって言われたら、その方が変。」
すると、さくらがいきなりそんなことを言いだした。
「何か、お父さんがまっすぐ歩いているのなんて想像できないし」
その上、さくらに続いて楓までそんな風に言うので、私は少々複雑な気分になった。
「そうだな、よしりんはやっぱ杖突いてないとダメだって気がするよな」
しまいには純輝までそれに同調する始末だ。

だが、これが、この姿が既に私なのかもしれない。私は私の中で何か霞がかかったものが晴れた様な気がした。

 あの事故がなければ……私は翔子と穂波と(あるいは穂波の弟妹と)平穏な暮らしをしていたかもしれない。たぶん、私は普通に幸せであったろう。
 だが私は事故に遭った。一旦世界の全てを失ったように思った私には今、さくらがいて楓がいて治人がいる。そして、純輝をはじめとする笹本家の面々も。彼らには事故がなければ会う事ができなかった。翔子と穂波を失ったあの事故に遭ったことを良かったとは思えないが、悪かったとも思えない。
 
そんな思いを巡らせていた私に、純輝は一言、
「やっぱり、あなたにさくらを任せて良かった。あなただったから、さくらはずっと笑っていられたし、帰ってきたオレに、楓まで。やっぱり、あなたはオレにとってもヒーロー、プレシャスブルーですよ。それに応えるためにも、オレはこれから全身全霊楓を守りますから。見守っていてください、お義父さん」
女たちに聞こえないように私の耳元で囁いた。

そう、今度は君がヒーローになる番だ、純輝。はらはらさせないで、カッコよく楓やもし授かるならその子供たちを守り抜いてくれよ。私はそう思いながら黙って頷いた。

                -Fin-

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そのままで君はヒーローだから

 時期モノ? 珍しくちゃんと季節に合わせて書いている「遠い旋律」シリーズ、たぶん最終章(自分でも自信はないんだけど)「ボクのプレシャスブルー」をお送りしました。相変わらず、人文の皮を被ったファンタジーです。

 この作品は最初、「交響楽」と時系列がほとんど同じなので、その中で織り込むつもりでした。ですが、伏見にも『泰然自若』と言わしめた芳治の中のコンプレックス、特に子供たちに対してのそれを書くのは、純輝とのバトルとはちょっとベクトルが違うのではないか、そう思って番外編という形で分けさせていただきました。

 でも、今から考えるとこっちの方が本編っぽいかも。私は、芳治が新しい世界を受け入れて愛する様をかきたかったんですもん。


 余談ですが、私の両親は……障害者です。父は芳治と同じくチタンを足に入れております。理由は、事故ではなくスポーツマンの彼が自身の軟骨を全て使い果たしてしまい、激痛に苛まれるようになったからですが。
 布の敷いてあるバージンロードを歩かせるのが怖かったこと、そしてそんな父の事を「超合金だ、カッコいい」と言った五歳児(息子ではなく孫、つまり私には甥)の話は実話です。

 また母はある日突然身体が全く動かなくなりました。原因は骨粗鬆症により、崩れた首の骨が頸椎を押しつぶしてしまったため。二度の手術に耐え、寝たきりだけは回避しましたが、車椅子生活を余儀なくされてしまいました。前々日に大掃除をしていた元気者の母の突然の事態はまさに青天の霹靂で、私たち家族にとっては交通事故とさして変わらなかったと思います。
 ただ、我が家の場合はもう私たち姉妹(私と姉)はその時成人しておりましたが。

 しかし……ついに芳治(私も)純輝があやつの生まれ変わりだと認めてしまった感があります。でも、だからこそ『今度こそ幸せになれよ』って楓を引き渡せたのかも……と、おっさん化した作者は思うのでした。

では、ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。

 

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

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