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1.見知らぬ洋館-赤い涙(改稿バージョン)1

1.見知らぬ洋館


 学校への近道の急な坂を自転車で上っていた昂は、その坂の中ほどに今まで見たこともない家が忽然と建っているのを見つけた。いくら昨今建築技術が向上したと言っても、一朝一夕でそんなものが建つとは思えないし、その建物は昨日今日出来上がったような新しいものではなく、建ってからおよそ百年は経つのではないかというような古めかしい洋館だった。

(まぁ、どうでもええか。俺が住んでる訳やないし)
昂はそう思いながらそこを自転車で通り過ぎようとした。
 その時、庭に続く扉が開けられ、そこから自分と同じくらいの年恰好の少女が現れた。彼女は昂を見ると、ご丁寧に45度の角度でお辞儀をして、
「おはようございます。今日はよい天気ですね」
と言った。昂は自転車を停めて空を見上げた。確かに空は泣いてはいないが、そんなに上天気と言うほどでもない。それから昂は徐に挨拶の主の少女を見た。
「お、おはようございます…」
(か、かわいいやん…)
白く陶器のような肌に、長いまつげ、黒目がちな瞳、まるでアンティークドールが実体化したかのようなその容姿に、彼はつっかえながら挨拶を返した。しかし、少女はそれに対して見向きもせず、黙々庭にと水を撒き続けている。
(は?!自分から声かけたんそっちやろ。声かけたまんまでスルーかよ)
「なぁおたく、最近引っ越して来たん?この辺家なかったと思うんやけど」
(そう、昨日まではなかったはずや…)昂はそう思いながら少女に尋ねた。
「私はずっとここに住んでいますが。ただ、3か月以上前の事は分らないのです。お兄ちゃんに引っ越ししたとは聞いておりませんので、それまでも住んでいたとは思われますが」
昂の質問に少女はこの辺の方言ではない極めて標準的なアクセントで、事務的にそう答えた。(記憶喪失やったらしゃーないなぁ)昂はそう思ったものの、何だか釈然としない。ならばと、彼は奥の手を使うことにしたのだが…

「う、うそやろ?!」
思わず、彼の口からそんな言葉が出た。彼女を瞠る彼の瞳孔は開いていたかもしれない。
なぜならその少女の感情が、テレパスの彼に片鱗すらも感じられなかったからだ。

 記憶を失う三か月以前のものはともかく、たったいま現在の感情すら見えないのはどうしたことか。動機は彼女自身が忘れてしまっている三か月以前の記憶を引き出すことが出来るかも…などという、ちょっとした“助平心”からだったのだが。それだけに最初から、深層心理まで覗きこむようにぐっと意識を集中していた、なのにである。普段は他人の感情に振り回されることになるので、意識して読まないようにしているくらいなのだ。それでも、多感な時期の少年少女たちからは、そんな彼の努力すらもふいにしてしまう程、感情を爆発させてくることが多いというのに。
少女はどう見ても中学生以下ではない。あるいは自分と同じ高校生か…
(そんならこの娘、俺とおんなじ能力持ってるんか?)
相変わらず少女が水を撒き続ける中、昂はその場にフリーズして立ち尽くした。
 

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赤い涙(改稿バージョン)2

「樹、樹?どこに居るんだ」
その時、洋館の中から少女を呼ぶ声がした。
「ここです」
その声に反応して一人の20歳くらいの青年が出てきた。
「駄目じゃないか、断りもなく庭に出ちゃ」
青年はそう言いながら、どうも樹と言う名前らしい少女の頭を優しく撫でた。
「お兄ちゃん、今は水やりの時間だと思われますが」
そんな兄を見上げて樹はそう答えた。お兄ちゃんと呼ぶ割には、その受け答えは何か会社での報告を思わせる。
「あ、そう言えばそんな時間か。それでも、外に出るときにはそう言って出て欲しいな。心配するから」
そんな樹に、彼女の兄はまるで幼い子に諭すようにそう言った。記憶がなくなった経緯はわからないが、自宅前に出るのも心配するのは少々過保護なのではないか、(そんなことしたったら、樹ちゃん窮屈やないか)昂は少し憤慨しながら、今度は兄の心を覗いてみようと試みた。しかし、樹同様兄の方も全くと言って読む事が出来なかったのだ。
(もしかしたら、俺の能力の方が消えてしもたんかも…)
昂は、日頃からこの能力について苦々しく思っているにもかかわらず、焦っている自分がいるのを感じた。

 そして、尚も意識を集中させると、彼らとは別の方向から“声”が飛び込んできた。
(あかん、遅刻しそうや!!お母さん、朝ごはんなんか要らんのに…)
そしてその“声”のする方を見ると、近くの女子高の制服をきた生徒が、自転車を漕ぎながら血相を変えて坂を上っているのが遠くに見えた。
(あの子の“声”はあの距離で聞こえてくる。やっぱり俺がおかしなった訳やない)
 昂はホッとして再び兄妹の方を見て…ギョッとした。いつの間にか樹の兄が自分に気づいて自分の事を睨んでいたからだった。普段は殺気の方が先に自分のところにやってくるので、それからその方向を確認する感じだから、顔を見るまで睨まれていることに気付かないのは初めての経験だった。
「君は誰だね、ここで何をしている」
続いて彼にそう言われた。それで昂はペコっと首だけで会釈すると、
「あ…俺、I高2年の根元昂です」
「それで、そんな高校生が一体ここで何をしてるというのだ」
相手は明らかに迷惑そうにそう質問してきた。
「あの…妹さんが俺に挨拶してくれたから、いつ引っ越してきたんかなぁと思て、妹さんに聞いてたんです。ここに家なんかなかったと思うから」
「失敬な!僕たちは生まれた時からここに住んでいる!!何を証拠にそんな言いがかりを付けるんだね」
そんな昂の言葉に相手は明らかに狼狽えた様子でそう叫んだが、甲高い叫び声とは裏腹に、感情の方は些かも伝わってはこなかった。
やはり、同じ能力者…しかも自分よりは数段上のレベルなのかもしれない。

(せやけど、失敬なとかちょっとおっさんくさいしゃべり方やな)
昂がそんなことを思って、少し頬を緩ませた時、
「それより君、制服姿のようだが、学校には行かなくていいのか」
樹の兄は相変わらず不機嫌そうにそう言ったので、昂ははめている腕時計を見た。
「あ…」
もうすぐ授業が始まる時間になっていた。
(そう言うたら、さっきの女の子遅刻するって言うてたもんなぁ。あの子の学校の方が、ウチより近いし。やばっ、今から行っても完全に遅刻やん)
「早く行かないと、遅刻するんじゃないのかい。早く行きたまえ」
樹の兄は苦々しげに昂を追いたてた。
「あ、ああ…どうも…」
昂は再度軽く会釈すると、去り際、
「なぁ、君…何樹ちゃんって言うの?」
と尋ねた。
「私の名前ですか。私の名前は笹川樹です。お兄ちゃんの名前は笹川京介です」
と、抑揚なく兄の名前まですらすらと昂に告げた。
「樹、見ず知らずのこんな奴に…僕の名前まで教えなくていいんだ!!」
すると樹の兄-笹川京介は、樹に向かって苛立った様子で声を荒げた。
「お兄ちゃん、聞かれた質問には答えるのが正しいのではないのですか」
それに対して、樹は兄をそうたしなめた。相変わらず感情のこもらない言い方ではあったが、それでも昂には樹が自分の味方についてくれているような気がして、なんだか小気味良かった。

そして、昂は樹に手を挙げてまた自転車を漕ぎ始めた。
(そうか、笹川樹ちゃんかぁ。かわいかったなぁ…)
昂の目には、その場を去った後も樹の顔がずっと焼きついていた。

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感情の坩堝-赤い涙(改稿バージョン)3

2.感情の坩堝



 学校が近付くにつれ、大量に流れ込む雑多な人々の感情。京介・樹兄妹の心を読もうと全開にしていたまま鍵をかけるの忘れてしまっていた昂は、坂を下りて街中に入って一気に流れ込んできたそれらに一瞬目眩がするほどだった。慌てて自分の心にシールドを張る。そして、のろのろと自転車を走らせると、やっと学校の正門が見えてきた。案の定、校門は少し隙間を残して大部分閉められている。

「すいません、遅れました。」
門の前で待ち受ける生徒指導の教師に、昂は頭を下げた。こういうときはヘタな言い訳などしない方が良い。却ってそんなものは相手の気持ちを逆撫でするだけだ。小言を待っていると、その教師は昂に、
「根元、珍しいな、今日は遅刻か。ん?おまえ具合悪いんか、顔色悪いぞ」
と言った。敢えて読もうとはしなかったが、裏腹の気持ちなどないだろう。確かに、今朝は必死であの兄妹の心を読もうと神経を集中させていたから、かなり疲労しているのかもしれなかった。
「大丈夫です。」
昂はそれだけを言って、自転車を押しながら駐輪場に向かおうとその教師とすれ違ったその時、
「安田!遅れてるんはわかってんのやろ、ちょっとは走らんか!!」
昂は、同じ教師が耳元で怒鳴る声に飛び上がった。
 見るとそれは、同じ中学からきた安田一成だった。一成は昂と目が合うと、
(けっ、ええ気なもんやな、理数科クラスの優等生は。遅刻したって怒られもせんのか。)
という“声”を浴びせかけて、昂を睨んだ。教師の罵声に、一瞬シールドが外れてしまったのだ。
 彼も中学時代は優等生と呼ばれる一団の中にいた。だが、この地域一番の進学校ではその優等生たちが集まって、やはりそこで優劣が競われる。子供の頃からさんざちやほやされ親からも期待されてきた彼は、同じような秀才集団の中で霞んでしまうしかない自分を持て余している。
(アホな、好きで優等生やっとんのと違うんやに)
それに対して、昂は心の中で一成に吐き捨てた。そう、好き好んで優等生面しているのではない。目立たぬようにするには、そこそこの優等生でいるしかないのだ。
(ワザと間違うんも、結構技術が要るって知っとんのか)

 昂にとって定期試験の問題はダダ漏れ状態に等しい。そこだけを集中して勉強すればいいし、答えがまるまる教師の頭に浮かんでいることも多い。その中で際立って成績が良くなり過ぎないようにチョイスして毎回解答欄を埋める。
 あまり成績が良くなり過ぎると、都会の国立大学への進学を勧められる。この田舎町のI市でさえ、いっぱいいっぱいの自分の精神状態が、あの大都会で保つとはとても思えない。
昂はそんな苛立ちを振り切るように頭を振った。その仕草に、教師は目眩を起こしたのだと勘違いした。
「お前ホンマに大丈夫か?」
と、心配して彼に駆け寄った。
「根元、お前マジで調子悪そうやぞ。教室やのうて、保健室に行った方がええんちゃうん」
(一時間くらい授業さぼっても、お前には何でもないやろ、優等生!)
一成からはそんな裏表の声が同時に聞こえた。
「ホンマに大丈夫です。教室行ったら。すぐに座るから」
昂はそう答え、逃げるように駐輪場に向かった。





赤い涙(改稿バージョン)4

  教室に着いた昂は、後の扉を開け、
「遅れてすいませんでした。」
と自分の席に急いだ。クラスメートもちらりと彼を見ただけで、誰も声をかける者はない。しかし、“声”が昂の心に充満する。
(疲れた顔しとる。こいつ遅まで勉強しとったんやろな。でないとあんな成績取られへんもんな。)
(こっちも負けてられへん)
みなポーカーフェイスのまま、心の中では闘志をむき出しにしているのだ。遅れてきたおかげで一斉に自分に向けられた意識は、今朝ほどからの少々能力を使いすぎて弱ってしまっている彼のシールドを簡単に破壊してしまった。
「ぐっ…」
昂はその大きな負の感情の塊に、吐き気を催した。
「根元、大丈夫か?」
「大したことないです。」
教師の言葉に、昂は机で自分の体を支え、そう答えた。
「大したことないって、真っ青やないか」
「いいえ、大丈夫です」
そう、こうやって注目を一身に集めていることがそもそもの原因なのだから。通常通り授業を始めてくれて、自分への注目がなくなれば、自然に治る。
「大丈夫って顔やないに。保健係、根元を保健室に」
その声に、保健係の竹下が挙手して立ち上がった。
(めんどいなぁ、根元も朝っぱらからそんな具合悪いんやったら、出て来んと家で寝とったらええやろな。)
竹下からはそんな、そんな“声”が聞こえた。昂はそんな竹下に軽く手で座るように促すと。
「保健室くらい、一人で行けますから」
と言うと、さっと一人教室を出た。

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赤い涙(改稿バージョン)5

 教室を出た後、ため息を一つ落とすと昂は保健室に向かった。
「すいません、気分悪いんでちょっと寝かしてください」
保健室の扉を開けた昂は、椅子に座っている養護教諭、加藤尚子にそう告げた。
「理数科の子やね」
「二年の、根元です」
「で、君も徹夜組なん」
尚子は軽くため息をつきながら、昂にそう聞いた。
「いえ…」
「まぁ、とにかく熱だけ測って」
そういうと、尚子は抽斗から体温計を取り出した。昂は黙ってそれを受け取ると、着ていたブレザーを脱いで、二つあるベッドの手前のベッドに座った。奥のベッドには既に先約がいて、カーテンが閉められていたからだ。どうせ単位に引っかからない程度で、受験に関係ないか科目に仮眠を決め込んでいる輩がいるのだろう。
昂が閉められたカーテンをぼんやりと見ていると、
「私から言わせたら、あんたたちちょっと勉強のしすぎなんやに。もっと遊びない」
尚子はそう言って笑った。

 その時、カーテンの奥から不意に“声”が飛んできた。
(そんなこと言うんやったら、尚子先生が俺と遊んでくれるんか?)
奥のベッドの主は、どうもこの加藤尚子が目当てだったようだ。彼は心の中で尚子を裸にし、傅かせ弄び始めた。本来、妄想するのは個人の勝手なのだろうが、聞こえてしまう昂はたまったものではない。たとえ想像の世界でも、他人の“濡れ場”になんか関わりたくはない。昂はそうしたところで聞こえなくなるはずもないのに、無意識に耳をふさいで蹲っていた。
「どうしたん?震えてるけど、寒いのん?」
昂の様子を見て、心配した尚子が昂の顔を覗き込んだ。その時、体温計が計測終了を告げる電子音を鳴らした。
「熱はないみたいやけど。後で出てくるかもしれんわね」
昂から体温計を受け取った尚子は、熱のないのを確認してそう言った。

「俺、やっぱり帰って寝ます」
一旦は横になったものの、昂は再び立ちあがって、ブレザーを着こんだ。尚子が昂を心配する様子を聞いて、件の先約からはカーテン越しに、昂を罵倒する声と、昂に見せつける形で尚子を凌辱する“声”が鳴り響いていた。このまま、欲情の垂れ流しに付き合うのはまっぴらごめんだ。
「じゃぁ、しんどいんやったら、お家の人に迎えに来てもらう?」
続いてそう言った尚子に、昂は頭を振った。
「ウチ両方とも仕事やし、自転車やから…」
確かにそれはそうなのだが、こういう理由では迎えに来てもらいたくないのだ。

 昂の母は、昂がテレパスだということを知っている。そんな彼を母は怖がっている。小学生の頃、彼のシールドはまだ未熟で他人の感情に振り回されて体調を崩すことがよくあった。
『この子は人の心の中まで見ている』
『私の心も見ている、怖い』
迎えに来た時必ず浴びせかけられる、そんな怯えた彼女の“声”をもう聞きたくはない。
「一時間目が終わったら担任に連絡するから、それから帰りね」
そんな昂に尚子はそう返した。
(まだしばらくは、この空気の中におらんなあかんのか…)
昂はベッドの縁に座ってため息をついた。

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ガラス越しの家族-赤い涙(改稿バージョン)6

ガラス越しの家族


 一時間目終了後、担任に了承を取り付けた昂は、自宅に向かった。

 途中、行きと同じく笹川家の前を通り過ぎる。ひっそりとはしていたが、そこにそれはちゃんと存在していた。
(やっぱり俺の勘違いやったんかなぁ。そやな、今まであそこにあんなかわいい娘が住んでるなんて知らんかったから、家自体カウントしてなかっただけなんや)昂は、樹の顔を思い出して、少しにやけながらまた自転車を走らせて帰途についた。
 
 家に着いて制服から私服に着替えていると、机の上に置かれた携帯が鳴った。着信元を見る…母からだった。
「あ、何なん?」
「今どこ?もう、帰ってるの?先生から電話もうたんやけど。大丈夫なん?」
「うん、家で今着替えた。吐き気がしてただけやし、薬飲んだから心配しやんでええよ」
昂は飲んでもいない胃薬を飲んだと母に告げると、母の声が安堵に変わる。
「そう、お母さん今から家帰らんでええ?」
「うん、そんな大したことないから。ほんなら俺、もう寝るから。帰って来ても起こさんとってな。たぶん寝不足やから、寝たら治ると思うし」
「わかった。ほなお休み」
「お休み」
そう言って、昂は電話を切った。ごくごく普通の母子の会話。電話ではこうして普通に接することができるのに、直接目を合わせては話せない。怖がっている母の心に昂は歩み寄れない。いや、歩み寄っていると気づかれたら最後、母はそこから逃げ出すだろう。それが解かっているから、歩み寄る努力ができない。

 それにしても、何だか今日は本当に疲れた。思った以上に力を使い過ぎているのだろう。ベッドに横になった昂はそのまま眠りに落ちて行った。

 それから数十分後、昂の部屋に彼の母が入ってきた。彼女が熟睡している息子の頭を、涙を流しながら優しく撫で続けていたことを、彼は知らない。

 昂は夢の中で広大な草原にいた。彼の頬を優しい春の風が撫でていく。その風に煽られて露が一滴、また一滴と彼の顔に当たる…そんな夢だった。



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消えた?-赤い涙(改稿バージョン)7

消えた? 


それから、昂は毎日樹と顔を合わせるようになった。樹の出てくる時間は本当に正確で、毎日同じ時間に水を撒く。昂はそれに合わせて家を出るようになった。
(俺、何やってんのやろな)
通りすがりに挨拶するだけなのに、昂は毎朝、ドキドキしながらきっかりその時間に笹川家の前を通れるように行動している自分に、自分で呆れていた。
 相変わらず樹の心は全く読めない。しかし、全く読めないという事実が却って昂の恋心をかきたてていたのだ。
 昂にも今までに気に入った女の子が全くいなかったわけではなかった。だが、気に入ると、自分に対する思いがどうなのか知りたいと思うのは人情というものだ。そして、その娘の心の中を覗いてしまったが最後、昂の気持ちは急速に褪めていく。誰もが完璧な人間などいない。そんなこと解かりきっているはずなのに、自分への気持ちではなくてもその娘の中にある裏腹を見てしまうともう駄目なのだ。

そして、ある土曜日、本来ならば公立高校は休みのこの日に、昂は同じ時間笹川家の前を自転車で訪れた。
 果たして樹は、曇り空で今にも泣き出しそうだというのに、いつも通り庭の草花に水をやっていた。
「おはよう」
「おはようございます」
樹は昂の言葉に相変わらず無表情に挨拶を返した。
「雨、降りそうやね」
(他に何か言うことないんかい、俺!)
さんざんきっかけの言葉を道中考えていたにもかかわらず、昂の口から出たのはそんなありきたりの天候の挨拶だった。
「はい」
樹の方も、怪しい空模様を肯定したにも拘らず、草木に水をやる手を止めない。
「な、君いくつなん?」
「17歳だと聞いてます」
続く昂の質問に、樹は他人事のようにそう答えた。
(記憶ないんやから、それもしゃーないのか)
「へぇ、同い年やん。ほんなら学校はどこなん」
「学校? 学校って何ですか」
通っている学校を聞かれた樹は小首を傾げてそう答えた。
記憶がないとしても、いやなくなったのなら余計に周りは躍起になって彼女のそれまでの歩んできた道を彼女に説明するはずである。それどころか、樹の言い草はまるで学校の存在自体を知らないといった風だった。
「あ、ゴメン。記憶がないんやったら、どこの学校に行ってたかも忘れとるわな」
「謝らなくてもいいです。事実ですから」
ただ、そう言った時、樹が初めて照れて笑ったように昂には思えた。

「樹、雨が降ってきそうだ。こんな日は水を撒かなくていいから、早く中に入りなさい」
その時、京介がそう言いながら庭に出てきた。
「はい」
樹はその声に頷くと、自身の兄の許に歩いて行った。そして、京介はそんな樹の肩を抱き、家の中に入ろうとしたのだが、目線の先に昂を捉えた。彼はあからさまに不快だという表情をしてこう言った。
「また君か。今日は何の用だね」
「あ、あの…今日は通りかかっただけで……」
昂はしどろもどろになってそう返した。
「通りかかっただけ、か。まあ良い」
それに対して、京介は鼻で笑ってそう言った。
 その時、昂の頬に雨粒が当たった。彼は暗さをます空を見上げた。
「やっぱり降ってきたか。早く中に入らなければ」
京介はそう言うと、そそくさと樹の肩を抱いたまま家の中に入って行った。
(そんな言うほどの雨ちゃうやん。やっぱ俺、京介さんによっぽど嫌われてるんやな)
その態度に、京介が雨を理由にして自分を樹から遠ざけようとしているのだと昂は解釈したのだ。
 そして、その場に一人残された昂は、しばらく所在なく立っていたが、別にどこに行くあてもなかったので、そのまま元来た道を引き返して行った。

 週が明けた月曜日……昂はいつもの時間に笹川家の前にやって来て驚いた。
笹川家の前と言う言い方は正確ではないかもしれない。何故なら、土曜日まであったその家は今、忽然と姿を消してしまっていたからだった。
(俺、夢見てたんやろか……)
 昂は、家のあったと思しき場所に、呆然と自転車を停めて立ち尽くした。

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夢の中へ……赤い涙(改稿バージョン)8

夢の中へ……


笹川家が昴のまえから忽然と姿を消してから二週間が過ぎた。昴自身もようやくあれは夢を見ていたのだと思えるようになっていた。
(そうや、夢やったから樹ちゃんの“声”も京介さんの“声”も聞こえへんかったんや)
昴はそう自分を無理やり納得させた。
とは言え、家のあった場所に来るとどうしてもそこに目が行ってしまう。まったく形を成さないただのシミでも、特定のイメージを与えられればもはやその形にしか見えなくなってしまうのと同じように。
忘れよう。それが出来ないのなら学校までの最短コースではあるが、ここを通るのを止めようかと、逡巡しながら結局は毎日ここを通ってしまう。
(せやよな、やっぱりな……??あ、あるやん!!)

だがその日、忘れようとしていたあの洋館がまた忽然と姿を現していたのだった。しかも、昴が来たのを中から見ていたのかもしれない、彼が笹川家の前に自転車を停めると、程なくして京介が中から現れた。
「やあ、根本君と言ったかな」
そう言った京介は、これまでの態度とは打って変わって、気味の悪いくらいの笑顔で昴を迎えた。
「京介さん……」
「嬉しいな、樹だけでなく、僕の名前も覚えていてくれたんだね」
片手を挙げての歓迎に、昴は少し首をすくめながら黙って頷いた。
「実は、今日はお願いがあるんだ。妹に…樹に会ってやってくれないかな。君に、会いたがっている。」
そして、今まで遠ざけようとしていたはずの京介からいきなり『会ってほしい』と言われて昴はますます驚いた。
「樹ちゃん、何かあったんですか?」
「樹はあの日から体調を崩していてね、外に出ることができないんだ」
「樹ちゃんが、病気……」
昂の眼に樹の白すぎる肌が浮かぶ。
「元々、あまり身体はあまり丈夫じゃない。それでもだましだましここまできた。でもそれももう……いや、何でもないよ……」
京介は昂の顔色が変わったのを見てとって語尾を濁したが、昂にはそれがどういうことなのか判った。
「だから、樹の言うことはできるだけ叶えてやりたいんだ」
「解かりました…でも……」
 昂は京介の頼みに頷いて一旦笹川家の中に入ろうとしたが、立ち止った。おかしい、これは罠かもしれない。
 確かにこの二週間、笹川家は存在していなかった。行き帰り何度も確認したのだ、間違いはない。それなのに『樹が病気』のひと言で簡単に家に入り込んでも良いものだろうか。
「でも…何だい?」
「いいえ、何でもないです。行きましょう」
首を傾げる京介に、昂は頭を振ってそう答えた。もし昂がそれを口に出したとしても京介は断固否定するだろう。
 それに、それが事実だったとしても、それはそれで良いのではないかと思ったのだ。

 樹の体調が悪くなったと同時に家が消え、そして今現れた。まるで樹の思念がこの家自体を作り出しているかのようだ。その樹が今、自分に会いたがっている……
 彼女の作りだした幻なら、たとえそこに罠が仕掛けられているとしても、飛び込みたいと昂は思った。

 そして昂は京介に導かれるまま、夢の中へと歩を進めたのだった。

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赤い涙(改稿バージョン)9

「さぁ、こっちだよ」
京介は笹川家の玄関を開けて、昂を手招いた。
「あの……」
「やっぱり、何か?」
「一つだけ聞きたいんですけど……樹ちゃんは何で記憶がなくなったんですか」
「ああ、そのことか……聞けば君は後悔するかもしれないよ」
「けど、知りたいんです。」
「樹は三か月前、一度死にかけたんだ。何とか一命は取り留めたんだが、昏睡から目覚めた時はもう、全ての記憶を失っていたんだよ」
京介は沈痛な面持ちでそう説明した。
「そうやったんですか。病気した上に記憶がなくなるなんて、辛かったやろな」
「僕は却ってそれが良かったと思っているんだ。たとえあったとしても、樹の場合この窓から外を眺めている記憶しかないだろうから」
事情を聞いた後、ぼそっとそう言った昂に京介はそう返した。(記憶があってもなくても、同じ)昂はその言葉に胸が締め付けられるような気がした。

「樹、根元君が来てくれたよ」
京介は精一杯の作り笑いを浮かべてから、徐に樹の部屋のドアを開いた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
樹はベッドには横たわってはおらず、その横の椅子に座っていた。
「寝てんでええのん?」
「ええ、起きていても寝ていても、状況にさほど変化はないです」
思わず口を次いで出た言葉に、樹は相変わらず報告口調で答えた。自身の間近に迫った死をも受け入れている同い年の少女の達観した横顔を、昂は胸が詰まる思いで見つめた。
「それでも、あんましムリはせん方がええのんちゃうん?」
昂が樹にそう言うと、彼女は、
「根元さんは私が寝ていることを希望するのですか」
と聞き返してきた。
(別に、希望はしてないけど……)
「うん、できたら。その方が安心するかな」
希望はしていないが、一日でも長く生きてほしい。そのためには、少しでも身体を休めていた方がいいだろうと昂は思った。
「では、そうすることにします」
昂の答えを聞いた樹はベッドに横になって、自身に毛布をかけた後、
「これでよろしいですか」
と尋ねたので、昂は黙って頷いた。

 それから、昂は毎日樹を訪ねた。あのまま本当に寝たきりになってしまった樹のために、長時間一緒に居ることはしないのだが、毎日数分でも彼女の部屋に足を向けた。
 そして、はじめはほとんど無表情だった樹は、訪ねる度に表情が豊かになり、時々昂の話に声を立てて笑う様にまでなった。
 
 夏、少しの温度変化も体に障るのだろう、樹の部屋は一定の温度に保たれていた。しかし、その温度が少々低すぎるような気がしたのは、昂の気のせいだろうか。樹に、
「樹ちゃん、寒ない?」
と尋ねても、
「いいえ、寒さは感じません」
という答えが返ってくる。
 それに、時々妙な“声”も聞こえるのだ。どうも樹が人間らしい表情をすると聞こえてくるような気がする。大抵は遠すぎて内容までは分らないのだが、初めて声を立てて笑った時にははっきりと
(すごい、予想以上の成果だ)
と聞こえた。声の質は京介に似ているが、京介とも違うような気がする。
 やはり何かの罠が仕掛けられているのかもしれない。
 しかし、昂にはそれはもうどうでもよくなっていた。一つでもたくさん樹に良い思い出を作ってもらって、短い彼女の人生に彩りを添えてやりたい。ただそれだけになっていた。

 「根元、最近終わったらとっとと帰るけど、何かええことでもあるんか? 女か?」
学年が変わってから、授業が終わると息せききって帰ってしまう昂に、クラスメイトがそう言って茶化した。
「ま、な……」
昂は否定しなかった。
「ほー、毎日やりまくりかい。」
そんな昂の返答に、相手は卑猥な想像を始める。
「そ、そんなんちゃうわい。ただ、しゃべるだけや」
昂は慌てて否定した。
「まぁ、ええがな、隠さんでも。」
そう言っても相手は全く信用していないようだ。先程来からの想像を続け、おまけに
(おまえ、そんなやったら成績下がるぞ。お前が下がったら俺が上がるからええけどな)
とまで考えている。
そんな彼の“声”も今の昂には気にならなかった。
(コレって恋愛ボケしてんのかもな)
昂はそう考えて苦笑した。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

冷たい雨-赤い涙(改稿バージョン)10

 冷たい雨


木枯らしが町に吹くようになった頃、昂は風邪を引いた。症状は軽かったが、樹にもし移しでもしたら、彼女の命を縮めてしまうことになりかねない。そう思った昂は、完全に治るまで彼女に会うのは遠慮することにし、その旨を京介に伝えた。
「ああ、樹にそう伝えておくよ」
京介は、玄関先でそう返した。

 だが、それから三日後の事だった。
そろそろ三時間目が始まろうという時、昂は校内放送で呼び出された。
「理数科の根元昂君、今すぐ事務室まで来てください」

-*-

「根元です、何でしょうか」
「笹川さんって人知ってる? 君を呼び出してほしいって。樹の事で話があるって言うたら解か……きゃぁ!」
(京介さんが樹ちゃんの事で電話してくる……それってまさか!)昂は樹の事と言われた瞬間、事務員から受話器をひったくっていた。
「もしもし、昂です。樹ちゃんがどうしたんですか」
「根元君、樹が……どこにも居ないんだ。もし、あの体で雨に当たるようなことがあったら……助けてくれ。何か君に心当たりはないだろうか」
京介はおろおろと樹の失踪を告げた。昂は咄嗟に窓の外を見る。既に小雨が降り始めていた。
「待っててください。今行きますから!」
昂は受話器を放り投げるように事務員に戻すと、外に駆け出した。
「根元君、今の電話誰? どこから? どこ行くの!」
昂は事務員の矢継ぎ早の質問にも答えないまま駐輪場に走り、自転車に跨ると、一目散に笹川家に向かって漕ぎ始めた。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)11

「ちゃんと君が風邪を引いて、治るまで来ないとは言ってあったんだが……」
京介はそう言うと、唇をかみ締めて項垂れた。
「ああ、樹……本当にどこに行ってしまったんだろう。君には何か言ってなかったかい?ぼくにはもう、あの娘の行きそうなところに心当たりがなくて……」
しかし、そう言われても、一緒に住んでいる兄の京介ですら分からない樹の行き先が、昂に分かるはずもなかった。
 思えば樹とはこの家の内と外のほんの限られた範囲内でしか会ったことがなかった。
(そう言うたら、俺らデートとかもしたこともないんや)
そんな思いに囚われて、昂は無性に悲しくなった。

『昂さんの家はここから見えますか』
その時昂は、最後にここを訪れた時、樹が自分の家を見てみたいといっていたことを思い出した。
「ここからって、窓から?」
「はい」
「この窓は家の方向いてへんから見えへん」
「じゃぁ、庭からは?」
高台にある笹川家の庭からは坂の下の町が一望できたが、昂の家はその範囲から少し南側に位置していた。
「うーん、ギリ見えへんかったと思う」
昂がそう答えると、樹はさびしそうな顔をした。
「あ、ここよりもうちょっと上の……この家のちょっと行ったとこに左に登る坂あるやん? あの上やったら見えるんとちゃうかな。起きられるようになったら、一緒に見に行こう。せや、そうしょう」
昂はそんな樹の顔を見るのが辛くて、あわててそんな風に言ったのだった。
「そうや! 坂の上!!」
昂はそう叫ぶと笹川家を飛び出し、樹に話した笹川家左手にある急な坂道を登り始めた。

 きっと樹は三日も来ない昂を心配して家を探そうと思ったに違いない。自身も病の床にいて、寂しさや不安に耐えているのだ。昂もどんなにか寂しいだろう、辛いだろうと居ても立ってもいられなくなったのではないだろうか。たとえ、そこで昂の家が見えたとしても、どれがそれか分からないというのに……

 昂は息を切らせながら坂を駆け上がった。しかし、ふと後ろを振り返ると、あんなに取り乱していたはずの京介が自分についてきていなかった。
(何でや!)
昂は腹立たしかったが、今はそんなことを言っている場合ではないと思った。一刻も早く樹を見つけないと取り返しのつかないことになってしまう。

 そして昂が思った通り、急な坂道を登り切っていきなり視界が開けた所に樹はいた。
彼女は大きな木の根元にぺたりと座り込み、まっすぐに前を見ていた。
「樹ちゃん!」
昂は樹の名を呼び駆け寄った。しかし、彼女からの返事はなく、近寄って肩を抱いた昂の腕の中に、すんなりとその身を預けた。
「樹……ちゃん?」
昂は彼女の肩を揺すぶってから、はっとして彼女の口元に手をかざした。
「い、息……してへん……」
樹がその目を見開いたまま既に事切れていると知った昂は、樹の肩を抱いたまま同じようにその場にへたりこんでしまった。
(ゴメン……こんなことになるんやったら、風邪移っても俺行った方がよかったんか? こんな寂しい思いさして、こんなことになるんやったら……こんなに待っててくれるって分かってたら、俺……)
「なぁ、樹ちゃん……何か言うてぇなぁ。俺、樹ちゃんに少しでも長いこと生きててほしかっただけなんや。なぁ、何でもええからしゃべって! お願いや、こんなに突然に逝かんといてくれ!」
昂は樹の亡骸を抱きしめて号泣した。

 雨はその降りを増してきている。昂は樹にそれ以上雨がかからないように包み込むように抱きしめたまま、ずっとそうしていた。

京介の正体-赤い涙(改稿バージョン)12

 京介の正体


しばらくして、その細い坂道を一台の車がのろのろと登ってきた。
(くそっ、この時代のはなんて面倒なんだ。怖くてアクセルも踏めん)
車の主はそう“つぶやき”ながら、坂を登りきると、樹を抱いたままの昂の前で車を停めた。
 
 中から降りてきた“つぶやき”の主は初老の男だった。
「ああ、良かった。根元君……だったかな。樹を見つけてくれてありがとう。すぐに家に運んで治療しよう。あ、私は樹の祖父の笹川という者だ。医者をしている。」
 そう言いながら男は樹に被せて運ぼうというのか、後部座席から毛布をとりだして、昂たちに近づいてきた。だが、昂は唇を震わせながら、逆に樹をきつく抱きしめた。
「あかん……樹ちゃんは渡さへん」
「何を言い出すんだね、君は。樹を、こちらに渡しなさい。早くしないと手遅れになってしまうじゃないか」
男はそう言って昂から樹を引き剥がそうとして樹の腕を掴んだその時、昂は叫んだ。
「樹、樹ちゃんに触らんとってください! 京介さん!!」
男の樹にかけた手が一瞬緩んだ。
「それより、メモリーって何ですか、浸水って何ですか!!」
それを聞いた男は少し間をおいてから、ふっと笑った。
「そうか……君は、テレパスなのか。なら話は早い。いかにも、私が本物の笹川京介だ。私の頭の中を読んでもまだ信用できないのなら、君も一緒に付いて来ると良い。早くしないと本当に樹の機能が停止して、バックアップが利かなくなってしまうぞ」
男―本物の笹川京介―はそう言うと、一気に脱力してしまった昂から樹を奪って抱きかかえると、樹を後部座席に座らせて、
「さぁ、君も乗りたまえ」
と、昂のために車の助手席のドアを開いた。

「助かった、メモリ部分への浸水はない」
笹川家、実は京介の研究室であるその場所に樹を運ぶと、京介は相変わらずつぶやきながら淡々と樹の“修理”を進めていく。その部屋の隅には、遠隔操作されなくなった抜け殻の若い京介が、床にそのまま足を投げ出して座っていた。

 樹はまるで人間にしか見えないが、精巧に作られたアンドロイドだった。そして、若い京介は本物の京介がラジコンのように遠隔操作しているだけの操り人形だった。
 それを京介の心から読み取って、こうして実際に樹の“身体“を開いてそこに人間らしい器官が欠片も発見されないのをその目で確かめても、昂にはまだそれが信じられなかった。
「まぁ、驚くのも無理はない。機械の樹と傀儡の私からは、さすがの君でも何も読めやしなかっただろうからな」
(それに、今の時代、ここまでの技術はない)そう言った京介は、心の中でそう付け加えた。
「何でそんな未来の人間がここにおらなあかんのですか」
昂がぶっきらぼうにそう尋ねた。
「どうしてかって?簡単なことじゃないか。私の時代にはもう存在しないものが、ここにはまだ腐るほどあるからだよ」
(そうだ、樹を作るためにどうしても必要な素材が)
京介は樹の胸の部分をコツコツと叩きながら続けた。
「人間ってやつはね、とんでもなく精巧にできている。それを再現する、しかもこの小さなキャパシティーの中に全部入れてしまうのは至難の業だ。特に脳にあたる部分はめまぐるしく動き続けねばならないから、劣化が激しい。常に、バックアップを取りながら新しい物と交換していかなければ維持できないのだよ。だから、劣化の激しい素材が潤沢にあるこの時代のここに研究室を時間移動させた。
 最初の内は、素材を採取したら自分の時代に帰っていたんだがな、樹に感情のプログラムを施したところ、あの娘がこの家の前の、あの何てこともない花に興味を示してね。しばらく様子を見ようと思っていたところに君が現れた。」
「俺が?」
「私たちは本来はここにはいないはずの人間だからな。面倒なことにならないようにと、しばらくはあっちに帰っていたんだが、樹があの花を恋しがってね。それに……どうも君にも興味を示し始めているようだったし」
京介はそう言いながら樹の胸の“フタ”を閉じた。
「もしかしたら、君とのやり取りで、まだまだ乏しい樹の感情面を養えるかもしれないと思ったんだよ。それで改めて君に接触をはかった……さぁ、これで終わった。」
 そう言って、京介は樹を起動させるスイッチを押した。しかし、樹はピクリとも動かなかった。
京介は慌てて装置を取り付けて解析データーを取り始めたが、結果には何の異常も見当たらない。
「そんなバカな……!」
京介はそう言って頭を抱えた。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)13

「まぁいい、新しく組み直せば良いだけの事だ。」
「新しく組み直す……?」
再び顔を上げて言った京介の一言に昂は自分の耳を疑った。
「そうだ、劣化した部品をその都度交換してきたんだ。そっくり全部挿げ換えたって変わりない。
今回と同じように感情のプログラミングを施して、バックアップデータを入力して……文字通り再生させるんだよ。上手くすれば君との記憶もあるだろう。ははは、それにしてもとんだ怪我の功名ってやつだな、完璧なアンドロイドを生み出す私の夢にまた一歩近づける。君は…今まで通り樹と付き合ってやってくれるだろう?」
驚いて聞き返した昂に、京介はうすら笑いさえ浮かべてそう言った。
「いいえ、お断りします」
だが、昂はそんな京介をまっすぐに見据えてはっきりと断りの言葉を述べた。
「どうしてだ」
京介はよもや断られるとは思ってなかったようである。訝るように聞き返した。
「新しく作られたんはもう、俺の知ってる樹ちゃんちゃうからです」
「は?」
「俺の好きやった樹ちゃんは、さっき死にました。俺はその目で確認したんです」
「バカバカしい! 死んだだって?! 君も見ただろう、樹は入れられたデータの範囲内で処理していくだけの機械だ。人間のふりをしているだけで心などない。それが証拠に君が最初に家に入った日、樹に『寝ていてくれた方が安心する』と言ったろう。樹はそれを聞いて寝たきりになったんだ。命令を忠実に遂行しただけの事、君が命令しなければそうはならなかった」
 その時、それまで霞がかかっていた京介の深層心理にすこし綻びができた。
(そうだ、どこまでいったって樹はジュジュにはならん。それを私が一番よく知っている)
「ジュジュ……さん?」
「―!―」
心を読まれていることを改めて思い出した京介がものすごい形相で昂を睨んだ。代わりに綻んだ所から彼の閉ざされた内側の心があふれ出す。
(ジュジュ、私のたった一人の妹……あれを再生できるなら、私はどんなことでもする)
昂に京介から妹ジュジュに対する切ないまでの想いが流れ込んできた。
 京介……クロード・京介・F・笹川は、日本人の父とフランス人の母との間に生まれた。しかし、二人の間には愛はなく、優秀な遺伝子をかけ合わせるという、如何にも研究者らしい理由で、結合せず人口母体で生まれてきた。
 素晴らしい知能を持って生まれた京介に気を良くして両親は、3年後同じようにして樹……ジュジュ・樹・C・笹川を設ける。
 だが、生まれてきたジュジュには心臓に欠陥があった。

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genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)14

 それは、クロードたちの時代の医療技術を持ってしても、解消することはできなかった。手術の度に弱っていくジュジュ。
 そして、ジュジュは軽い風邪がもとで呆気なく他界してしまう。彼女が17歳の春のことだった。

 以来、クロードは時間移動の禁を犯してまでも、妹“ジュジュ”を取り戻すことに躍起になる。元々『優秀な遺伝子を遺す』事が目的であった彼らの両親は、子供たちの面倒はほとんどサポートロボットに任せて自身らの研究に没頭していた。クロードにとって、ジュジュは唯一の家族と呼べるものだったのだ。
 感情を持ったアンドロイドを作る。
心理学習プログラムの作成はクロードにとってさして難しい物ではなかった。しかし、いざそれを起動させてみた時、思ったほど樹の感情は育たなかった。幼い時から自身もサポートロボットと言う機械に育てられた分感情には乏しかったし、何より樹を機械だと知っているクロードには樹を人間として見ることはできず、つい機械として作業命令をすることになってしまうからだ。
 それに気付かないままクロードは己が人生の大半を過ごした頃、昂に出会った。
 何も知らない昂は生い先短い樹が少しでも笑って過ごせるようにと彼女の“心”にアプローチを続けた。
 結果それが、樹の飛躍的な感情形成につながったのだ。

 そう言われてみれば……昂はまじまじと京介を見た。髪は既に銀に染まってしまっているのだと思っていたが、よくよく見れば元々が銀色に近い色なのだ。寄る年並みだからではない。
 それに、度のきつい眼鏡で“武装”しているが、それを外せばたぶん、色白の日本人離れした顔が現れる。

「樹の感情形成に関わる気がないのなら、私にはもう君と一緒に居る意味はない。帰りたまえ」
京介は絞り出すように昂にそう言った。心の中では、(ジュジュのことも読んでいるのなら、何故手伝ってくはれないのだ)そう思いながら。
「帰ります。けど京介さんはホンマに樹ちゃんには心がないて思うんですか。俺、ちっちゃい時からばぁちゃんによう言われてました。『昂、物にもちゃんと“心”はあるんやに。せやから大事にせんとな、物も悲しむんやに』って。」
「ふん、バカバカしい。如何にも昔の人間の考えそうなことだ」
京介は口ではそう言っていたが、心の中は(期待はしない方が良い。期待するから余計に悲しむことになるのだから)と言っていた。

 胸の詰まる思いで去り際、今一度樹を見た昂は、はっとした表情になってこう言った。
「京介さん、これでも樹ちゃんには心がないって思うんですか。樹ちゃん……泣いてます」
その言葉に京介は慌てて樹の顔を見た。樹の両眼からは一筋ずつ、赤い液体が流れている。
「こ、これは……これは皮膚に損傷があった時、血が出ているように見せかけるための赤い薬液だ。眼のあたりに何らかの損傷があるというだけの事だ。断じて涙なんかじゃない!」
京介は震えながらそう叫んだ。
「泣いてます、絶対。せやったら命令を忘れて俺を探しに行ったことは、どう説明するんですか。京介さんは樹ちゃんに『雨の中外に出るな』って言うてたんでしょ? せやからから俺は……俺は京介さんにどんだけ言われても、もう新しい樹ちゃんとは一緒におられへんのです。そしたら、俺はこれで……」
「根元君!!」
 昂はそう言うと、さらに激しさを増し、嵐となっている雨の中に飛び出して行った。そして昂は激しい雨の中ひたすら彷徨い歩いた。もし、どこかに樹の心が落ちているなら拾って助け出したいそう思いながら……


 
 

 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

祈り-赤い涙(改稿バージョン)15

 祈り


 学校から昂が何者かに呼び出されて姿を消したとの連絡を受けた昂の両親は、血眼になって息子を探した。
 だが、ようやく母親が彼を通学路近くの小高い丘の上で発見したのはもう夜も更けた頃で、長時間京介の深層心理まで読み続けた事の疲労と、雨に当たり続けたのがたたって、元々軽い風邪を引いていた昂は既に虫の息だった。
 慌てて現在地を夫に知らせた彼女は、これ以上雨が息子の体力を奪ってしまわないようにすっぽりと身体を包んで抱きしめた。

 その息子の口からは荒い息とともに、
「ゴメンな……ゴメンな……」
としきりに誰かへの謝罪の言葉が発せられる。
(違う)
「ちゃう、ホンマに謝るんはお母さんの方や、あんたが謝らんでええ」
彼女はそう叫んで、尚更きつく息子を抱きしめた。この時、昂は樹に謝罪していたのだが、樹の存在を知らない彼女は、それが息子が自分が生まれてきたことに対しての彼女への謝罪だと受け取ったのだ。
そう……昂に読心能力があると知った時、化け物呼ばわりして遠ざけたのはこの自分だ。
(罰が当たったんやきっと……)
裁かれなければならないのは自分の方なのに……彼女はそう思って涙にくれた。

「おそらく今夜が峠でしょう。合わせたい方がいらっしゃったら、すぐ連絡してください。」
そして、辿りついた病院でそう言われた時、彼女はついに半狂乱になった。
「お願いです。昂を、息子を助けてください! 今あの子が死んでしもたら……ねぇ、助かると言うてください!! お願いやから……」
「どうしたんや、ちょっと落ち付けや!!」
彼女がそう叫んで医師にしがみつこうとしたのを、慌てて夫が止めに入る。
「お気持ちはお察しします。そやから、我々もできるだけの事はしてるんです。けど、後は昂君の生命力にかけるしかない状態なんです。解かって、頂けますか。」
そんな医師の事実上の「最後通告」に彼女は顔を覆って号泣することしかできなかった。

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genre : 小説・文学

赤い涙(改稿バージョン)16

 結局、昂は一週間生死の境を彷徨い続けた。そんな息子の側を母は片時も離れようとはしなかった。どんなにその疲労が色濃くなっても、周囲が休めと引き離そうとすれば暴れるので、しまいには鎮静剤を投与して息子の横の簡易ベッドに寝かせなければならなかったほどだ。
 
 一方警察は、昂を呼び出したササガワとイツキ言う男を探したが、行方はようとしてしれない。事務員が電話で『樹の事で話がある』という言葉に昂が慌てて反応したと言う証言から、警察ではこの二人の行方を追っていた。
ただ、樹というのが名前とは思わずイツキという名字で、二人とも男性であると誤解していたのだが。あのあと、“協力者”を失って失意のまま元の時代に帰った京介を探すことは、今の警察には不可能だった。
―まるで、煙のように消えたとしか言い様がない―
「一体、ササガワとイツキって奴はどこのどいつや! 見つけたらタダでは置かん!!」
父は警察の報告を聞いて、病院の壁に自分の拳を打ちつけた。
 
 そして、母親はその目が開いている間中、
「昂、お母さんは昂の事大好きやよ。世界中の全員が敵になっても、お母さんだけはあんたの味方やからね」
と囁き続けた。彼女は、息子がササガワたちにその能力の事で自分の存在意義さえ疑うほどに傷つけられたために、あの雨の中を彷徨い歩いていたのだと、そう解釈していた。

 何にせよ……母のその言葉は昂の潰えそうな命をギリギリの所で引き留めた。

 事件から10日後、昂はやっと昏睡状態から目覚めた。
「昂、良かった。ホンマによかった……」
そう言って手を握り涙する母親に、昂はきょとんとした様子で返した。
「すんません……あなたは誰ですか。……それで、僕は……」
しかし、その昂の一言で、母の感涙は悲鳴に変わった。
 昂はその一切の記憶を失ってしまっていたのだった。


 

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

色とりどりの墓標-赤い涙(改稿バージョン)17

色とりどりの墓標


あれから半年して春、かつて笹川家があった場所に樹の好きだった花が咲いた。この色とりどりの花たちだけが昂に樹が確かにいたことを教える。凛と空を向いて咲くそれらは、まるで無記名の墓標のようだ。昂は静かに手を合わせ、首を垂れる。

「何しとんねん、お前」
「何って、それは……」
振りかえるとそこには一成がいた。一成は思いつめた様子で坂を昇る昂を、図書館に行こうとしていたところで発見して、後を追ってきたのだ。
「その……きれいやなと思て」
「お前、きれいなもん見たら仏さんみたいに頭下げるんか」
しどろもどろで返した昂に一成はそう言って笑った。同時に(お前ホンマはとっくに記憶戻っとんのやろ)と“聞こえて”、昂はドキッとした。

 そう、昏睡状態から目覚めた直後は全ての記憶を手離した昂だったが、それはほどなく彼の許に戻ってきた。だが、彼はその後も記憶喪失のフリを続けた。
 記憶が戻ったと判ると周りは昂に事の顛末を執拗に尋ねてくるだろう。未来人に機械の少女……たとえそれが真実であっても、そんな荒唐無稽な話を誰が信じるだろう。
 それに、自分が拒否し続けたために息子が立ち直れないほどの傷を付けたと思っている母の気持ちを解放してやるには、昂は全て―持っている能力も―リセットする必要があったのだ。

「やっぱり、それって女なんか?」
昂が黙っていると、一成は続けてそう言った。(根元、お前絶対、何か隠してるやろ。一体誰を庇てんねんや)
それに昂は静かに頷いた。何故だか、一成には話せる範囲で話したい。そういう気持ちになっていた。
「そや。笹川樹ちゃん、半年前までここに住んどった。」
一成は驚いて辺りを見回した。今は野には少し似つかわしくない花が咲いているだけの山の道端だ。
「ほな、あの事件の時、ホンマはその子と一緒におったんか?」
「あれは事件やない、全部俺が悪いんさ。俺な、その2~3日前から風邪引いてたんさぁ。せやから移さんように家に行かんようにしてたんさ。そしたら、樹ちゃん心配してさ、雨の中俺の家まで行こうとしたんさ。」
「けど、何でそれがお前が悪いって話になるねん。カレシが風邪ひいとったら見舞いにぐらい普通行くやろ。」
その一成の言葉に昂は頭を振った。
「樹ちゃんの方がもっと重い病気で、もういつまでもつかわからん状態やったんさ……」
一成の息を呑む音が聞こえる。
「せやから、風邪移したなかっただけやのに……やっと見つけた時には樹ちゃんはもう……俺が樹ちゃんを殺したんやと思たら、いても立ってもいてられへんかった。ほんで樹ちゃんのお兄さんが止めるのも聞かんと雨の中飛び出したんさ。できることなら一緒に死にたかった、全部忘れてしまいたかったんさ……そしたら、気付いた時からしばらくはホンマに記憶がなかった」
震えながら絞り出すように告白する昂に一成は一瞬言葉を失ったが、気を取り直して、
「アホな、一緒に死んでどないすんねん! 死んでもその子が喜ぶかいっ!! 生きててほしいから、心配して見舞いに行こうと思たんやろな! それに、お前がその子忘れたら、その子が生きてくとこが一つ減るやろ」
と怒鳴った。一成は昂が少し捻じ曲げた告白を聞いて、心から樹の事を悲しんでくれていた。

 
「それで記憶喪失か。まぁ、ええわ。お前ホンマにアホやな」
「アホで悪いか」
一成の言葉に昂はぼそっとうそぶいた。
「そんなに自分を壊してまうまでみんなに気遣わんでええやん。悲しかったら泣いたらええんさ。ホンマ、優等生は泣き方もしらんのな」
「ゆ、優等生って言うな」
「ぶっ倒れて戻って来てすぐの公開模試で、一桁取れるお前のどこが優等生ちゃうねん。」
「勉強だけできてもしゃぁない」
「お前が言うといやみに聞こえるわ。けど、次は助けたいんやろ」
一成はあの後、急に猛勉強を始めた昂を、樹のような病気の者を救うのに医者を目指しているのだと解釈したのだ。
(ちょっと違うけど、似たようなもんかな)
昂は軽く笑んで頷いた。昂の胸に口には出さない一成のエールが“聞こえる”。
 昂は自分の能力を初めて好きになれるような気がした。

「ありがとう……安田、お前意外とええ奴やな」
そう言った昂の眼からこぼれる大粒の涙。それに気付いた一成は、軽く驚いた後照れながら昂にデコピンを食らわせて言った。
「なんや、今頃気ついたんか? せやけど、意外とは余計や、俺は最初からええ奴やねんで」
「それ、自分で言うたら値打ちないやん」
「自分が言わな誰が言うねん」
昂がお返しのデコピンをしようとすると、一成はそう言いながら察してするりと逃げた。
(そうか、“聞こえ”やんでも、人は相手の気持ちを大事にすることで相手に近づくことができるんや。何でそんな簡単なことに、今まで気付かんかったんやろ)
「お前、逃げんなや」
そんな一成を笑いながら追いかける昂の心に春の風が吹いていた。

 翌年、アメリカのM大学に合格した昂は、後年ロボット工学の第一人者と呼ばれるようになった。
 
 そして、いつか本当の“樹”に会える日まで……昂は、今日も研究を続ける。

                           -Fin-


 


忍ぶれど……

「赤い涙」こちらでは新たに書き下ろした状態で載せさせていただきましたが、如何だったでしょうか。

もうホント、初めに設定ありきでした。一応ギリでもSFの香りがしないといけないと必死でした。後から読んでも、その必死さだけは伝わってくる、そんな書き直し前よりはずっと「たすく節」が出てたと思います。

実はね、今回一番書きたかったのは傀儡(くぐつ)って漢字だったりして(笑)これ、インタネットのニュースで拾ってコピペまでして使いました。(今も使用した12話からコピペ)ユニコードで弾かれないかとひやひやしながらでしたが、JISコードだったみたいで、無事ひらがなにならず漢字表記できました。

書き直しで一番変わったのが、京介。前のバージョンでは機械より機械(奇怪)な鬼畜でした。私の頭の中は最初から今の京介で、そうなったのは枚数制限に因るものでしたが、結果オーライだとも思っています。

本編には全く関係ないのですが、笹川樹-ジュジュ・樹・C(セシリア)・笹川-の名前は30年前、高校時代に一本だけ書いたSFの主人公の名をそのまま使いました。そっちの話はジュジュ本人がテレパスで、特殊能力を持つものは抹殺される未来社会から平安時代に逃れて、そこで時間事故で取り残されたタイムパトロール修習生小野寺保とめぐり合うというストーリー。今以上にご都合満載の作品でした。

でも、今頭で読み返してみて、(当然もう原稿なんて残ってませんから)たすく節はしっかり出てるんですよねぇ。ま、同じ頭で考えとんやから、違う方がおかしいか。進歩してないなぁとは思いますがね。

ただ、ものや思ふと人の問ふまで……皆さんが思うほど、作者何も考えてはおりませぬ。

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

神の目線にできなくて

一人称作家たすくでございます。

今回のバージョンで、書きたくて書けなかったことがあります。

それは、京介母の事情と本心。昂が京介の心を読むという形で紡がれたために、京介目線でしか書けなかったからです。

京介母、ジュリア・M・笹川は、親の代からの生粋の科学者ですが、研究重視のために京介・樹を人工母体にゆだねたわけではありません。

そりゃ、今より数段科学が進んだという設定で書いてますけど、人工母体なんてナーバスな装置は一般的に使用されてはおりません、高名な科学者だからって簡単に利用はできないのです。医療機器ですから。

つまり、ジュリアはそれを利用しなければ子供に恵まれない体だったのですよ。そんなこと、息子に言えないでしょ?!

しかも、それを後ろめたく思う彼女は、研究に没頭しているフリをしておりました。特に心臓に欠陥をもって生まれてきた樹の事は、自分のせいだという加害者意識が強く、余計に接することができなくていました。それは、息子の京介からは、ただの育児放棄・愛情欠如にしか見えないんですよね。あやつただでさえ感情に乏しいですから。

ラストシーンでも吹いていた春風の中で、ジュリアは昂に「ジュジュを心から愛してくれてありがとう」と囁いていたりしたんですよねぇ。神の目線で書ければそういうのも表現できるんでしょうが、目線を一定しないと落ち着いて書けないたすくは、また書き残してしまって、ここでご報告です。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

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