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久美子の妊娠-交響楽(シンフォニー)1

交響楽表紙

久美子の妊娠

私の許にさくらが来てから、私の周りは本当ににぎやかになった。それはあの坪内高広の妹、(笹本)久美子の家族との交流だった。

久美子には6人の子どもがいる。私と結婚した頃は、丁度4番目の翔真(しょうま)が生まれる前で、その頃には一番上の娘初羽(ういは)が第二の母としてまだまだ小さい弟たちを面倒みれるようになっていたから、それほどでもなかったのかもしれないが、それまで一人気楽に暮らしてきた私にとっては、かなり騒がしく忙しいと感じられた。

さくら自身も看護師という職業柄、人の面倒を見るのは嫌いではない。ましてやかつての恋人高広の血を受け継ぐ者となれば、その思いも一入だろう。当然のようにさくらは笹本家の子育てに係わり、さくらの夫となった私も同じように彼らの中組み入れられた格好となった。

久美子が6人もの子供を儲けた訳…それも兄高広からだった。

久美子は高広が亡くなった直後、当時付き合っていた笹本智也に子どもが欲しいと泣いたそうだ。実際には、
『私、お兄ちゃんをもう一度産みたい。』
だったそうだが、智也は戸惑いながらも結局は久美子を抱き、彼女は希望通り身籠った。

しかし、この時智也18歳、久美子17歳。共にまだ高校生。双方の親、特に笹本家側がそれを許す訳はなかった。

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交響楽(シンフォニー)2

大学に行かず、就職して子供を育てると言い切った智也に彼の両親は激怒した。
「あなたは智也の一生を台無しにする気なの!!」
彼の母はそう言って久美子に詰め寄った。それを聞いた坪内家の両親は項垂れるしかなかった。高広がもし同じ立場に立たされたら…特に息子の恋人-つまり、現在の私の妻さくらだが-は息子よりは年上だったから、もしそうなればもっと辛辣な言葉で彼女を罵倒したかもしれない。久美子の母はその時、そう考えていたそうだ。

「…良いです…私、一人でだって育てますから…」
「子どもが子どもを育てるなんて無理ですよ。」
真っ赤に泣きはらした目で、久美子はそれでもぎっと子どもの父親を産んだ女性を睨み据えて言った。それを智也の母は鼻で笑った。そして彼女は堕胎を勧めた。

だが、それまで黙っていた久美子の父がそれに咬み付いた。
「あなたそれでも母親ですか!それじゃ、何ですか?あなたは親に言われたからって智也君を捨てられるんですか?!それにお腹の子どもは久美子だけの子どもじゃない、智也君の子どもでもあるんだ。あなたの血も受け継いでるんですよ。それをよくも殺せだなんて言えるもんです。」
「べ、別に殺せだなんて…」
堕胎を殺人だと言われて、智也の母が少し怯んだ。
「同じじゃないですか。智也君だって、お兄さんの潤也君だってあなたが十ヶ月間育んできて生まれた命でしょう。」
「だけどそれは…ちゃんと生活基盤をした上でのことですわ。あの子たちはまだ高校生ですよ。意味が違います。」
しかし、なお折れずにそう言った智也の母の言葉を聞くと久美子の父は立ちあがり、坪内家のリビングから玄関につながる扉を開いて、彼らを外へと手招きし、
「そうですか、解かりました。じゃぁ、もうお引き取りください。娘とその子は私たちが全て面倒看ますから。あなた方の手を煩わせるようなことは一切しません。と言うか、関わっていただきたくない。それでよろしいですか。」
と強い口調で言った。
「それを聞いて安心しましたわ。」
それを聞いた智也の母は、少しばつの悪そうな表情をしながらも、ホッとした様子で立ちあがった。
「ちょ、ちょっとお袋!俺は久美子と一緒に居たいんだ。勝手に決めてしまうなよ!!」
母親のその言葉を聞いた智也が母の二の腕をつかんで咬み付く。
「それじゃぁ坪内さん、よろしくお願いします。」
妻に続いて智也の父も立ちあがり、そう言って玄関を目指した。
「お、親父まで!ちょっと待ってくれよ!!」
そんな両親の態度に激昂する智也に、久美子の父は優しく肩に手を置いて、
「智也君、私も君の将来をつぶすような真似はしたくないんだ。やらなきゃならないことをちゃんとやって、それでも久美子と一緒にやっていきたいと思うのなら、その時に迎えに来てくれ。」
と言ったのだった。
「お義父さん…解かりました。今日は俺、帰ります。」
そう言うと唇を噛みしめ、智也もまた両親に続いて玄関に向かった。

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天使の誕生-交響楽(シンフォニー)3

天使の誕生


真面目で通っていた久美子が智也の子どもを妊娠しているという事実は、学校側に口止めしていたにも関わらず、あっという間に広がった。確かに非難の的にはなったが、それにも屈せず毅然としていた久美子と、彼女を労わり続ける智也の姿に、エールを送る者も現れた。

おかげで久美子は残り少なかった高校生活を無事に終え、卒業してすぐ、第一子となる子を産んだ。

しかし、生まれてきたのは女の子だった。智也は初めてわが子と対面してその愛くるしさに感動するとともに、少なからず落胆したと言う。久美子は『もう一度お兄ちゃんを産みたい。』と言っていた。彼女は男の子ではなかったことにショックを受けているのではないか。そう思いながら智也は久美子の病室を訪ねた。

「ねぇねぇ、智也見た?!かわいいでしょ。ちっちゃいでしょ。」
「あ、ああ…」
病室に入ってくるのを見るなり興奮気味でそう言った久美子に、智也は歯切れ悪く返事した。
「何よ、感動薄いなぁ。普通は男親の方が、『娘は絶対に嫁にはやらん!』なんて生まれてすぐから言うって聞くのに。」
「ははは、そりゃドラマの中でだろ。」
そう言うと、智也はベッドサイドの椅子に座って久美子に目線を合わせて、
「久美子…ゴメンな。」
と言った。しかし、いきなり謝られた久美子の方は何を謝罪されたのか解からずきょとんとしていた。
「何?」
「その…男の子じゃ…なかった。お兄さんをもう一度産みたいって言ってたのにな、お前。」
「ああ、その事?」
「ゴメンな。」
もう一度謝った智也に久美子は笑顔でこう返した。
「謝らなくても良いよ。私、生まれる前から先生に女の子だって聞いて知ってたから。ホントはね、聞いたときはちょっとショックだったんだ。だからお姉ちゃんに泣きついちゃった。」
「えっ、さくらさんには話したの?」
智也は、久美子が既に生まれてくる子の性別を聞いていたということにも、そのことでさくらに泣きついていたことにも驚いた。
「うん、そしたら言われた。『良かった、その子は高広じゃないもの。高広は高広だし、その子はその子だよ。』って。すごくはっとした。私たちはそれでよくても、その子にとっては、お兄ちゃんを押しつけるってことなんだって。」
「…」
「そんな顔しないでよ。あの子見たでしょ?かわいくてちっちゃくて、天使。それ以外には言えないわ。私はあの子のママになれて幸せ。」
(ホント、久美子って強いよ…)智也は既に母の顔になっている久美子の顔をじっと見つめた。

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交響楽(シンフォニー)4

子どもは初羽(ういは)と名づけられ、坪内家の空気を一気に明るくした。
そして、その存在は、智也の両親の心すら動かした。

「親父、久美子んちに時々行ってるってホントか。」
「ええ、本当に初羽ちゃんってかわいいわねぇ。いくら見ても飽きないわ。」
憮然とした表情で言う智也に、父親ではなく母親が答えた。智也はそれを聞いて激怒した。彼は、
「マジかよ、久美子にあんなこと言ったくせに、今更どの面提げて顔出せるんだよ。信じらんねぇ!俺の娘に触んな。」
と、両親に向かって、文句を吐きだした。そう言われた当の母親は、申し訳なさそうな顔で伏せ目がちに、
「ホントに悪かったと思ってるわよ。」
と返した。
「謝りゃ済むって問題じゃないだろっ!」
「だけどね、男の子のあんたたちと違って、初羽ちゃんって泣き方までかわいいんだもの。久美子さんも『どんどん見に来てください』って言ってくれてるし。」
そしてそう言うと、母親はトロトロのババ馬鹿の顔になった。その顔を見て、智也は小さくため息をついた。まさに、『案ずるより産むが易し』とはこの事かと思ったのだ。

「でな、久美子さんの体もそろそろ落ち着くころだし、結婚式をやるのはどうかなと思って…坪内さんにそう、話してみてくれないか。」
「は?!」
続いて父親の口から出てきた言葉に、智也はあからさまに不快だという態度で聞き返した。
「自分たちが放棄させたんだぞ、久美子の事!虫が良いにも程があるとは思わないのかよ。俺さ、この際だから大学卒業して、仕事決めてそれから久美子迎えに行くから。」
「智也…」
孫を見てころっと『宗旨替え』してしまった両親に、智也はつっけんどんにそう答えると、自室に入って言った。

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交響楽(シンフォニー)5

「なぁ、どう思う。全く馬鹿にしてると思わないか。」
「そんなことないよ。お義母さんは智也の事、ホントに愛してるんだって。」
それを、憤懣やるかたないという様子で久美子に告げると、彼女は大笑いしながらそう返した。
「誰だって、自分の血を分けた子はかわいいのよ。智也だってそうでしょ?だから、今怒ってる。」
「そりゃ、そうだけど…」
それはそうなんだけど、あんなにころっと180度態度を変えられると、あれは何だったのだと毒づきたくもなるだろ?そう思いながら智也が久美子を見ると、久美子は初羽を優しくとんとんとリズムを付けながら眠りに導きながらこう言った。
「それが、初羽…赤ちゃんのパワーなんだってば。それに、それって智也がここまで頑張ってきた証拠だよ。今、智也パパの顔してるもん。」
「お前、上から目線で言うな。」
そう言うお前の方が、すっかり母親じゃないか…智也はそう思いながらそう言葉を返した。
確かに…両親があの時、自分の将来を心から案じてくれていたのだということは解かっている。だけど、それだからこそ自分が愛する女性も大切にしてほしい。そう思うのは、わがままなのだろうか。

後日、智也の両親は正式に以前の非礼を謝罪し、智也と久美子は晴れて夫婦となった。それと同時に、智也はそれまでのバイト先を辞め、久美子の父の経営する会社にアルバイトとして入った。
「お義兄さんがいたら、俺なんかが手伝わなくて良かったんだろうけど。」
慣れない仕事で些細なミスをして、落ち込んでそう言う智也に、
「高広?あいつは建築デザイナーになるとか言って、はなから家業を継ぐ気なんてなかったよ。ウチの手伝いをしたことは一回もなかった。」
と、久美子の父が笑顔でそう返した。
「そうなんですか…」
「だから、私は今回内心、久美子でかしたと思ってるんだがね。ウチみたいな小さな会社には来てもらえない逸材が自分から飛び込んできてくれたってね。誰だって初めから上手くいく奴はいないよ。」
彼はそう言うと智也の肩をポンポンと叩いた。

そして、初羽誕生から2年後、久美子に第二子、私の最強のライバル?純輝(じゅんき)が誕生した。

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30歳年下のライバル-交響楽(シンフォニー)6

30歳年下のライバル


純輝は、年子で第3子大洋(たいよう)が生まれて、久美子やその母がそちらに手を取られてしまったということもあって、さくらが面倒みる比率が高かったということもあると思うが、私が彼に初めて会った4歳半の頃にはすっかりさくらっ子とでも言うような感じだった。

何より…幼いその時でさえ、高広の当時の写真と並べてみると一瞬見紛うくらい、純輝の容姿は高広に似ていた。
そんな彼の事を祖父母が『生まれ変わり』のように接するのも道理だし、さくらにとっても一番思い入れのある子どもとなるのは当然だろう。

純輝にとって私は、『大切なものを奪っていった憎い男』だった。初対面の日、私は純輝に子どもとも思えない目で睨まれた。
「はじめまして、純輝君。」
そしてそう言ってあいさつした私を彼はシカトした。
「ゴメン、松野さん。この子お姉ちゃん命だから…コラ、純輝!挨拶くらいしなさい。」
「ヤダ…」
母親に挨拶を促された少年は、小声でそれを拒否した。そして、唾を呑み私を睨み上げると、
「知らねぇよ。」
と吐き捨てた。
「純輝!」
「オレ、こんな奴知らねぇ!!」
純輝はもう一度そう言うと、ぷいっと横を向いてそのまま駆け出して行った。
「あれ?あの子オレなんて言わなかったのにな…それにしてもあの言い方、お兄ちゃんにそっくり。」
「そうそう、ムリに肩肘張ってるとこなんてね。」
首を傾げながら言う久美子に、笑いながらさくらが相槌を打った。(生まれ変わりなんてものが本当にあるのだろうか。)私は彼女らの会話を聞きながらそんなことを考えていた。

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交響楽(シンフォニー)7

生まれ変わり…普通ならそんな発想はしないと思う。しかし、自分が亡くなる直前、同時に昏睡状態に陥ったさくらの許にやって来たくらいに(信じられないことだが、私はその時彼と顔を合わせている)彼女を想っていた彼なら、そんなこともあるかも知れないと思ってしまう。

やがて私たちに娘楓(かえで)が生まれてからは、小学生になっていた純輝は何かと理由を付けてかなりの距離を自転車で走って我が家を訪れ、産休のさくらと話し、娘の面倒を見た。
その頃、大洋・翔真と弟2人がいた純輝は、右足が曲がらないし、杖がなければ満足に歩けない私に『どうだ』とでも言いたげにニヤッと笑うと、さっと泣いている楓を抱きかかえさくらの許に連れて行った。

その様子を見て私は、そうは言っても楓は俺の娘だ。俺がいなきゃ生まれちゃいないんだぞと、30歳も年下の小学生になりたての彼にムキになって闘争心を燃やしていたりした。そんな私たちの様子を横で見ていたさくらは、
「純輝は弟しかいないから、妹が欲しいのよ。それだけだわ。」
と言って笑った。

やがて、久美子に第5子の女の子、華野(はなの)が生まれた。確かに純輝は「笹本家のアイドルはーちゃん」をかわいがってはいたが、我が家の日参を止めたわけではなかった。むしろ、動けない私ではちょろちょろ動く楓の世話は役不足だと言わんばかりに、産休期間が終わって仕事を再開したさくらのいなくなった我が家に顔を出した。

おかげですっかり、楓はお兄ちゃん子になっていった。

華野が生まれてすぐ後、さくらが妊娠していることが分った。
悔しいかな大家族で手慣れた純輝のサポートは、本当にありがたい物ではあったのだ。
「助かるよ。」
と口では言いつつ、私は心の中では唇を噛みしめていた。

やがて二人目の子、治人(はると)が産まれその産休が終わる頃、さくらはある決心を固めて長年勤めた病院を辞めるつもりだと私に告げた。

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genre : 小説・文学

さくらの進む道-交響楽(シンフォニー)8

さくらの進む道


「あのね…私助産師になろうと思うのよ。」
「じょさんし?」
最初、私はさくらが言う助産師という言葉を理解できなかった。
「小さな命が生まれるお手伝いがしたいの。」
そう言われてやっと助産師という単語に行きついたくらいだ。
「でもね、それには私、大学に入らないといけないの。あ、助産師養成学校って言うのもあるんだけどね、それはウチから遠いのよ。以前には近くにもあったんだけど、そう言う資格職業って4年制大学でなくっちゃいけないってことみたいで、それでなくなっちゃったの。」
それだけ言ってからさくらは申し訳なさそうにこう言った。
「芳治さんにいろいろ負担かけちゃうことになっちゃうけど…良いかな。」
「ダメだって言ったってさくらはやりたいんだろ。」
私の言葉に彼女はこくりと頷いた。
「俺はほとんどこの家の中でしか動けないしな。心配しなくていいよ、今だって充分俺、主夫だろ。」
さくらのその言葉に対して私は、そう言ってニヤッと笑った。
「それを言わないでよ。申し訳ないと思ってるんだから。」
するとさくらはなお肩をすぼめた。
「ごめんごめん、そんなこと思わなくて良いよ。俺は自分ができることしかやらないし、やれることがあると実感できるのが、嬉しいんだよ。主夫、大いに結構じゃないか。」

そうだ。昔私は、走り回り時間に追われることを当然のことのように思っていた。そしてあの事故で私は仕事と家族を失い、自分は存在意義さえ持たないと思った。

だが、私は今も生きている。何も問題を持たなかったかつての日よりも生き生きと生きているかもしれない。

私には今、できないことは多い。だが、できることもそれこそたくさんある。それに気付かせてくれたのは、他でもないさくらだ。そのさくらの新しい夢をサポートするのに、夫として何の不満があろう。
そしてそれは、かつての日、彼女のそれからの幸せを願って敢えて触れずに手離してくれた彼女のかつての恋人にも報いることになると思う。
「誰にでもできることじゃない。だったら、やるしかないじゃないか。そう、高広君も言ってたんだろ。」
そう言った私に、さくらは目を潤ませながら、黙って肯いた。

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genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)9

ただでさえ最高学府への入学は大変だ。しかも、看護師・助産師・保健師など看護にまつわる資格は理数系だ。高校を卒業してから干支を一回りする年月を過ごしたさくらがいきなりそれに合格するとは周りの者も、本人すらも思っていなかった。

だからさくらは、いきなり今までの職を辞することはしなかった。仕事を持ちながらの大学受験。その上子どもたちはまだ小さい。横で見ているだけの私が疲れてしまうほどに、さくらは何にも手を抜かず頑張り続けた。

そして、驚くかなさくらは、一度も失敗せず新しい世界への切符を受け取ったのである。

さくらは職を辞し、新しい世界に飛び込んだ。だが、無事入学したからと言って彼女の忙しさが軽減されたわけではなかった。
彼女には看護師の経験はあったが、それは整形外科で産婦人科ではない。毎日が新しい事の発見らしく、それを喜々として話しながら相変わらずめまぐるしく動き回る。そんな彼女に周囲はひやひやしながらも概ねエールを送っていたが、明らかに異を唱えるものが一人いた。純輝である。

「よしりん、いい加減止めろよ。このままじゃさくらちゃん潰れちまうだろ。」
彼女が泊りがけの実習に言ったと聞くと、彼はそう言って私を責めた。ちなみに、この“よしりん”というのは笹本家の面々が私を呼ぶ呼び方だ。命名は一番上の初羽。

独身でいたさくらのことを“おばさん”と呼べなかった初羽や純輝は、さくらの事を当時から“さくらちゃん”と呼び慣わしていた。それで、夫の方だけをおじさん呼ばわりするのは子どもながらに失礼だと思ったのだろうか、私の名前芳治から、某人気アニメの脇役のニックネームを引っ張り出してそう呼ぶようになった。今では一番末の娘の彩加(さいか)まで回らぬ舌でそう言うのだから。私はつくづくと初羽があの時、“芳治ちゃん”と呼ばなかったことに密かに感謝している。

「言って止められるもんなら、もうとっくに止めてる。それができないことくらい、君が一番よく知ってるだろ。」
私はその時、なぜかそう答えてしまった。純輝のしゃべり方が、いかにも子どもののそれではなく、一瞬高広と会話しているように錯覚してしまったようだった。

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genre : 小説・文学

その子はその子-交響楽(シンフォニー)10

その子はその子


そして、さくらがあと少しで大学を卒業しようと言う頃、久美子の6番目の子どもの妊娠がわかった。
ゆくゆくは数名でスクラムを組んで助産院を開院しようという風に相談はしているが、とりあえずさくらは自分も取り上げてもらった古巣の病院に助産師として舞い戻ることが決まっていて、久美子は、
「何としてでもお姉ちゃんのシフトの時に生まれてくるのよ。」
などと報告の時もお腹に向かって話しかけていたと、さくらが言っていた。

6人目だということもあり、誰もがすんなりと生まれてくるものだと思っていた。

ところが、その報告を私がさくらから聞いた数日後、昼少し前に我が家の電話がけたたましく鳴った。
「もしもし…。」
「あ…さくらちゃんいない?」
震えるような声で電話をかけてきたのは、純輝。
「今日は学校だ。どうかしたか。」
「よしりんでもいいよ…助けて…母さんが変なんだ。学校から帰ったら、お腹押さえて脂汗流して…助けて、お願い。」
純輝の口調は普段のようにちょっと背伸びしたようなものではなかった。それだけ、彼自身の気持ちに余裕がないのだろう。にしても、久美子がお腹を押さえて…流産というワードがすぐに頭を過って、私は一瞬にして口の中がカラカラになった。
「純輝、救急車呼んだか?」
「あ…まだ…」
私の質問に、純輝はかすれた声でそう返した。突然の出来事に完全に舞い上がっていて、とにかくさくらに連絡することしか考えていなかったようだ。
「なら、最初に救急車を呼ぶんだ。ちゃんとお母さんの状況は説明できるか?その間に俺がお祖母ちゃんに連絡してすぐに行ってもらうようにするから。行く病院が決まったら、ここにもう一度連絡してくれよ。すぐ行くからな。」
それだけを告げると電話を切り、私は久美子の母と、智也に連絡を入れた。

久美子は子宮外妊娠していた。実は流産の一割は子宮外妊娠が原因だとも言われている。大抵は子宮以外では着床しても胎児は育つことができないので、比較的早い時期に流れてしまうのだが、稀にそんな場所でも育ってしまうことがある。そうなると狭いキャパシティーには収まりきれず、本来子どもを育む器官ではない所を破裂させて緊急の事態を引き起こす。

最初の電話から20分後、純輝から病院名を告げる電話を受けた私は、すぐにその病院に向かった。
「お母さん、久美子ちゃんの容体は?」
私は私の姿を見咎めて深々と頭を下げた久美子の母に尋ねた。
「卵管が破裂したそうなので、いま緊急手術を…」
「そうですか。」
「このたびは本当にありがとうございました。」
「とんでもない、私は何もしてないです。偉かったのは純輝だ。」
私はそう言って純輝の頭を撫でた。いつもならその手を払いのけて睨む所なのだが、純輝はおとなしく私に頭を撫でられて俯いていた。母親の深刻な容体を間近で見たということと、結果ライバルの私に助けられたいう、ダブルのショックが彼を襲っていたのだろう。

いつもとは違う、年相応の中学生の少年がそこに居た。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

さくらまつり

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今日、さくらに会いに行ってきました。ここは松阪市にある「子どもの城」という場所の桜です。色々撮影して、ひときわ大きな樹と青空とのバランスでまずはこの一枚をチョイス。

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で、この桜の下であの着信音+「遠い旋律」のイメージソング集をMP3で聞きました。見上げると一面の桜の花…まるで桜に包まれる感覚でした。

道行く一人の方が、
「桜の咲く中を歩くとウキウキしてくるわね。」
と挨拶してくださいました。

ですが、今日の私は完璧なさくらモード。
穏やかな日差しの中で、音楽を聴きながら桜をじっと見つめて泣く、変なオバサンに浸っておりました。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

交響楽(シンフォニー)11

次にさくらと共に久美子の見舞いに病室を訪れた私たちは、久美子の罵声に迎えられた。
「良かったですって!良い訳ないでしょ!!」
ものすごい剣幕でまくしたてるその声を聞いて、私たちは入り口部分で立ち止まった。久美子は同室になった年配の女性を真っ赤な目をして睨んでいた。
「あの子は生まれたかったの、そうに決まってる。だから、あんな所でだって必死に生きようとしてたんです。できることならあのまま育ってほしかった。そしたら、私…この身に引き換えてでも産んだのに…」

それは子宮外妊娠した子どもが6人目だと知ったその同室者が言った一言、
「でも、良かったんじゃないの?あなたには5人もお子さんがいらっしゃるんだし。育てるの大変でしょ。」
が原因だった。
「あなたは良くても、お母さんがいなくなったら残された子供たちはどうするの?その気があるのなら、子どもはまた授かるかもしれないのに。」
久美子の言葉に同室の女性はそう返した。
「でも、生まれてくる子はあの子じゃないです…」
「そりゃそうだけど…」
怒りの表情が崩れないままの久美子に、彼女は取り付く島がないと言った表情で口を閉ざした。

「久美ちゃん、ちょっとは体調戻った?」
それで私は場の空気を少しでも軽くしようと、わざと声の高さを上げて、手を挙げながら病室に入って行った。
「よしりん…うん…おかげ様で…」
久美子はばつが悪そうに私にそう答えた。
「久美ちゃんが早く家に戻ってくれないと、純輝がウチに来なくて寂しいよ。」
「あれ、純輝行ってないんだ。」
久美子は私の言葉に驚いたようにそう返した。
「いつもはごめんなさいね、あいつお姉ちゃんのことになるとね…」
そして久美子はため息をつきながら私に頭を下げた。
「いや、俺がこんなだから…ホント助かってるよ。」
それに対して、私は杖に目を落としてそう返した。
「いいのよ、迷惑だって言ってやって。あの子もね…早く気付けばいいのよ。あの子はお兄ちゃんじゃないんだから。お母さんにも言ってるのよ。でも、ますますあの子お兄ちゃんに似てきたから、つい口に出ちゃうみたい『高広にそっくり』って。それを聞いて育ったから、どっか自分がお兄ちゃんの生まれ変わりだなんて思いこんでる気がする。」
「そうだね。私も時々ドキッとするよ…迷惑なんかじゃないけど、一度『純輝は純輝の人生がある』って言わなきゃいけないかなって思ってる。」
さくらは久美子の言葉にそう返したが、たぶんさくらはそれを純輝に告げることはできないだろう…そう思った。

さくらは純輝が本当に高広の生まれ変わりであれば良いと思っているのだろうか。そして縦しんばそんなことがあったとしたら、彼女の心は完全に純輝の許に行くのだろうか。
2人の会話を聞きながら、私はふと、そんな支離滅裂なジェラシーを抱いていたのだった。

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交響楽(シンフォニー)12

確かにさくらは初羽が生まれる時、女の子だったことに落胆している久美子にこれで良かった
と言っていたと聞いてはいる。

だが、それは純輝が生まれる前の話だ。かつての恋人そっくりの存在に、心が浮き立たない訳がない。

私自身もそうだったから解かるのだ。
楓は本当に同じころの穂波にそっくりだった。それからの成長にも、穂波の成長を重ねる。
穂波は穂波で、この子は楓だ…頭では理解していることに心がついていかない。
だが、それを知ればさくらは気持ちの良い物ではないだろうなと思うので、一切口には出してはいないが。

生まれ変わり…縦しんばそんなものがあったとしても、もうそれは坪内高広あるいは松野穂波の人生ではなく、笹本純輝や松野楓のそれなのだ。

だからと言って、ライバルの私が言うことなど、純輝はその耳を貸さないに違いない。

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怖れていたこと-交響楽(シンフォニー)13

怖れていたこと


さくらは無事大学を卒業し、助産師の資格を手に入れた。

かつての古巣に舞戻った彼女は、少子化で産婦人科を扱う病院自体が減少する中、大学時代にも引けを取らないくらいに走り回っていた。

月の満ち欠けに左右される出産は、圧倒的に明け方が多い。そして予定は未定で、連鎖反応のように同じ日に重なるのだそうだ。いつぞやは、当直の他の科の看護師までかりだして対応したようだが、一晩に10人ものお産を受け持ったらしい。

望んでいた仕事に就いたさくらの眼は希望と喜びに満ち溢れていた。しかしその反面、彼女の顔には疲労の色が明らかに蓄積されていっているのが判った。

そして…彼女が助産師としてスタートして半年、暑い夏を何とかやり過ごして涼しい秋の風が吹くようになった頃だった。

4~5日前から風邪を引いていることは知っていた。
「妊婦さんには絶対に移せない。」
と言いながらも、それでもマスクで装備を固め、前日には内科で点滴をしてもらったと言っていた。

その日はたまたま非番だったのだが、朝、私が教室で使う資料にチェックを入れているのを覗きこんださくらは、
「あれ、おかしいな。焦点が合わないし、涙が出てくる…」
とぼそっと小声でつぶやいた。
「40歳超えたもんな、そろそろ老眼鏡なんじゃないのか。」
と私が茶化すと、
「老眼鏡?そうね…」
とそれを肯定した。いつもなら自分の方が5歳も年下なんだから、歳をとったと言うなと間髪いれずに咬みつくのだが。そう言えば、今日は彼女の動作がいつもより緩慢だ。
「さくら、具合悪いのか?」
「うん…ちょっと。風邪引いてるし、息苦しいかな。」
と言いながら、治人の散らかした玩具を拾おうと身体を屈めて戻そうとした時、一瞬ぐらりと身体が揺れた。
「ホント、大丈夫か?」
「大丈夫だって。」
私は慌てて否定した彼女の腕を掴んだ。まだ半袖だった彼女の二の腕はビックリするほど熱かった。
「お前、熱あるぞ。大丈夫じゃないじゃないか!」
と、私が彼女を叱ると、
「あれ、熱ある?道理で頭痛いと思った。」
彼女は覇気のない声でそう返した。

私は
「薬飲んどけば良いって。」
と渋る彼女をむりやり車に乗せて、医者に連れて行った。

検査すると…彼女の肺は真っ白だった。
重度の肺炎に罹っていたのだ。
さくらはそのまま、病院に入院させられた。



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交響楽(シンフォニー)14

「全く…低肺状態になったらどうするんですか。松野さんは昔からオーバーワークだったけど…休めるときは積極的に休まないと持ちませんよ。」
彼女を診た内科の高木医師は、点滴の指示をしながらため息まじりでそう言った。

やがて、病室に連れて行かれたさくらは、点滴が効いたのだろうか。昏々と眠っている。
私はそれを見届けてから、電話をかけるために病室を出た。元々夜中に母親不在なのはよくあることなのだが、今回は理由が病気だけに子供たちも心配して浮足立っているだろうし、今日はできれば面会時間を過ぎても許される限り彼女の側についていたい。そのために私の母に応援を頼んだ。

そのあと自宅に電話した。朝、急遽入院ということになり、とりあえず寝間着だけを購入し、病棟の看護師に彼女を任せた後、一旦帰って必要なものをそろえる際に、さくらの入院を置手紙で知らせただけだったからだ。
私自身はさぞ心配しているだろうと思っていたのだが、いつも元気な母が病気なのだというのは実感が持てないらしい。仕事の時のような感覚で留守番をしている様子が伝わってきて、内心ホッとした。特に治人は不安がるのではないかと危惧していたのだ。私は、多くを語らず、
「今日はお父さんも何時になるか分んないから、お祖母ちゃんのいうことよく聞くんだぞ。」
と言って電話を切った。

そして私は缶コーヒーを一本だけ買うと病室に向かった。だが、入口のところで私の足はピタッと止まった。

それは、さくらが寝ているベッドの縁でキャメルのブレザーを着た青年が、
「さくら、目ぇ覚ませよ…オレだ、オレだよ…笑ってくれよ。」
と、さくらの手をしっかりと握りしめてそう呟いていたからだった。

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対決-交響楽(シンフォニー)15

対決


私は、一瞬身体の中の血の気が全部引いたような気がした。

しかし、よく見るとその青年は高広ではなく純輝で、キャメルのブレザーもよくよく見れば彼の高校の制服だった。私の息をのんだ音に気付いた純輝は私を思い切り睨むと、
「松野さん、何でこんなになるまで気づかないんですか。さくらをこんな目に合わせるために、オレはあなたにお願いした訳じゃない。」
と言ってさくらの熱に浮かされた頬を撫でた。私は純輝の『松野さん』と、いつにない丁寧な言葉遣いに、思わず総毛立った。
「オレだって最初はただの風邪だと思ってたんだ…それに、さくらが一生懸命になったら何も見えない性格だってことくらい、あなただって解かってるんでしょう!だから、止めたんだ。なのに…もう、あなたにさくらは任せられません。返してください。」

皆にそっくりだと言われ続けて完全に自分が生まれ変わりだと思い込んでしまったのか、それとも本当に純輝は高広の生まれ変わりなのか…彼の口調は完全に坪内高広のそれになっていた。
だが、それがどちらだったにしても、私には言うべきことは一つしかない、そう思った。
「さくらから手を離せ!こいつは俺のものだ。」
私は彼に向ってそう言った。
「元々はオレのものだ。」
彼はそれに対して、逆にさくらの手をきつく握り直した。
「だとしても、今は俺の妻だ。君にはやらん。たとえ君が、あの坪内高広君の生まれ変わりだったとしてもな。俺の方が年上だからとか思うなよ。俺は君みたいにさっさとくたばったりしない、元々死にぞこないだからな。」
「オレだって死にたくなんかなかったさ。それで、やっとこうやってさくらのとこに帰って来たんだぞ…なんでソレ、邪魔すんだよ…オレにさくら、返してくれよ…」
私が薄く笑いながらそう言うと、彼は懇願するような口調でそう返した。
「駄目だ。」
「何で!」
「駄目なものは駄目なんだ。いい加減に目を覚ませ、純輝。」
「違う、オレは坪内高広だ!」
「君は坪内高広なんかじゃない、笹本純輝だ!!縦しんば本当に君が坪内高広の生まれ変わりだったとしても、君は笹本純輝として生まれたんだ。もう別の人間なんだよ。いい加減坪内高広の人生なんか引きずらないで、本来の笹本純輝の人生を生きろ!!」
「折角こんなに…こんなにさくらの近くに生まれてきたのに…何で…何で…」

その時、私たちの口論の声にさくらが目を覚ました。
「芳治さん、今何時?そろそろ帰らないと、子供たちが…あ、純輝来てくれたんだ、ありがとう。」
だが、薬の効いているさくらはそれだけ言ってまたスーッと眠りに入ってしまった。純輝はその寝顔を悲痛な面持ちでじっと見つめた後、
「チクショウ!!」
と、叫んで病室を飛び出して行った。

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

雨降って…-交響楽(シンフォニー)16

純輝はそれから、しばらく私の前には現れなかった。心配して電話すると、さくらの風邪が移ったのか、熱をだしているという。私は完全に高広化していた純輝を思い出し、彼のように病んでいるかと肝を冷やしたのだが、ただの風邪だったようで、そのうちまたうちに顔を出す様になった。

しかし、再び顔を出す様になったものの、そのスタンスは明らかに違っていた。無意識に私たち夫婦を避けている−私はそんな風に感じた。
それでも彼は「良いお兄ちゃん」として、楓や治人の面倒を相変わらず看続けた。

さくらの方も順調に回復し、今回の事で少し懲りたのか、何でも引き受けるということは減ったし、そのうちに助産院ではなく、母乳教室として独り立ちし、病院でのシフトは随分と減らすことになったので、以前のような忙しさは今はなくなっている。

そして、純輝が成人式を迎えた。大人の祭典を終えた彼は、その日スーツ姿のまま私の許に現れた。
「オレもやっと大人の仲間入りです。あの時は、世の中は理不尽だと思ったけど、今はやっと笹本純輝としての人生が楽しいと思えるようになりましたよ。だから、これからも頼みます、ねっ、お義父さん。」
にこやかに笑いながらそう言う純輝に、私は寒気を覚えた。特に、最後に取って付けたようなお義父さんと言うのは何だ!
「純輝、俺はお前の父親じゃない。」
私は憮然としてそう返した。
「オレに笹本純輝の人生を生きろって言ったのは、他でもないあなたですよ。オレだって、時間をかけてやっとさくらちゃんから抜け出して年相応の相手を好きになれたんです。それに今度は相思相愛なんですよ。祝福してくれたっていいじゃないですか。」
純輝は余裕の笑みを浮かべてそう言った。確かに楓が純輝に今はお兄ちゃん以上の感情を抱いていることはなんとなくわかってはいたが、よもや純輝の口からこうもはっきりと宣言されるとは、思ってもみなかった。
「年相応?楓はまだ中学生だ!ま、まさか…もう手を出してるとか言うんじゃないだろうな。」
彼は当然高校生で初羽を儲けた笹本夫妻の血も受け継いでいるのだから…激しく不安だ。
「さくらにだってできなかったオレが、大切な楓にそんなことする訳ないじゃないですか。今まで20年待ったんですからね、あと3年位、どうってことないですよ。」
「さ、三年って!それでもまだ高校生だろう!!」
「女性が結婚可能なのは16歳からだから、オレはその時もう23だ。大学も出てる。ねっ、問題ないでしょ?」
「16で結婚だと!だ、駄目だ若すぎる!!」
完全に目が泳ぎ、しどろもどろになって声を荒げる私を見て、純輝は腹を抱えて笑いだした。
「あはは、よしりん余裕なさすぎ!たまんねぇ~。」
「何がおかしい!」
私は純輝を睨んだ。余裕の純輝と青息吐息の私。初めて会ったあの時とまるで逆の構図だ。
「ごめんごめん、そんなに焦ってもらいに来たりしないから。楓の事は大事にするって言ってるだろ。」
どうやら私は、彼にからかわれていたようだ。

これからライバル対決第二ラウンド突入というところか…しかし、このラウンド、私は激しく分が悪い。敗北必至だ。
楓のパートナーとして、純輝以上に私が気に入る男なぞ、この世界にいるはずはないのだが、それでも激しくムカついて苛立つのは何故だろう。
そして純輝に向かって叫びたくなる。
「お前に大事な娘をやってたまるか!!」
と…

                              -The End-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

笹本家の子供たち

交響楽、これにて校了でございます。

最初からお読みいただいている方にはお分かりかと思いますが、一部、設定がハムケとかぶっています。一応、笹本久美子を佐竹真理子と名前まで変えた関係上、夫佐竹智道も笹本智也と名前を変えました。

しかし、子供たちの名前はかなり意味まで考えて真剣に付けた名前だったので、このまま使いましたが。

長女初羽…初めてやって来てくれた天使。彼女のパワーで、高広を亡くして暗くなっていた坪内家がパッと明るくなりました。性格は久美子似のしっかりもの。

長男純輝…今回のキーマンでもある彼は、意味はピュアな心を持つように。性格はもろ高広。本当に生まれ変わりなのか?と作者が戦慄を覚えるほど、ネームを書けば書くほど高広化。

二男大洋…広く大きな心を持つように。兄弟の中で真ん中に位置する彼は、どこまでもマイペース。智也似。実は一番の大物だと作者は思っています。

三男翔真…真に羽ばたくように。初羽がちいママ化してしまってから生まれた翔真は男兄弟では一番下のやんちゃ坊主。純輝や大洋には偉そうなことを言って食ってかかる癖に、初羽には服従する。

二女華野…翔真からちょっと間を置いて生まれた女の子はその愛くるしさから言っても、笹本家のアイドル。名は体を表す、まさに華のような女の子。

三女彩加…あの一件の後、それでも残った半分で見事生まれてきた彩加。なくした色を取り戻すという意味で命名。アイドルのはーちゃん(華野)が唯一勝てない笹本家のお姫様。

はい、今回も文章に影響しないとこまで、これでもかの細部設定です。

theme : 物語にちりばめた想い
genre : 小説・文学

どこまで出しゃばるんじゃ、てめぇは!!

今回も…また今回もあやつの乱入…

たった一人残され、愛する者の所に向かおうとしていた芳治が、少しずつ新しい世界・家族を作り上げる姿を書きたかっただけなのに、それで後の娘婿になる純輝に焦点を当てて書きたかっただけなのに…

高広、今回もしっかり登場してきましたねぇ。前回は人良さげに、無言で会釈だったのに、今回はさくら奪還に燃えたりなんかして。

高広そっくりの男の子が最初に生まれたとしたら…そうじゃなくてもみんなは生まれ変わりとして接してしまうだろう。それはダメだ!その子はたとえ生まれる前に亡くなった命でもたった一つの命…そんな想いも込めて、初めて生まれた子は女の子の初羽にし、純輝へのメッセージも込めての幻の第六子でした。

でも…高広にしてみれば、嫌いで別れたわけじゃない。無理やり引き裂かれたようなもの。今度こそ!みたいな気持ちはあっても不思議はないですが。

…って、純輝=高広のように書いている作者ですが、実際のとこ、芳治と同じくなりきりなのかモノホンなのか作者本人が分っておりません。読者様の想像にお任せするということで…

最後に、一言。
「高広っ!てめぇ、いーかげんにしろよ!出しゃばりすぎだぞ。」

失礼しました。

theme : 物書きのひとりごと
genre : 小説・文学

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