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指輪

指輪


僕は指輪を眺めながらため息をついた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう…僕はただ…

「あれ、まだこんな物持ってたの?」
それを目ざとく“彼女”に見つけられた。
「あなたのそういう所が、当時は分からなかったわ。分かってれば…」
そうだね、僕がもう少し自分に正直だったら、こんなことにはならなかった。

この指輪はほんの間つなぎのつもりだった。だからこんなわざとどこにでもあるような安物にしたんだ。僕は海に本物の約束のそれをすぐに買えると思っていた。これを渡したときでさえ。その時、
「30歳くらいまでは結婚するつもりはないんだよね。」
と言ったのは、実はある計画の下でのプロポーズを考えていたからで、本当は一刻も早く海と一緒に暮したかったし、海から離れようなんて気持ちは微塵もなかった。

海に言うと負担になるからと思って言えなかった。実は海の事をあの人やおばあ様、おばあ様は特に反対していた。それどころか、僕をあの高校にやったのは失敗だったとはっきり言い切るくらいだった。
おばあ様、それは大きな誤解だと、今ならはっきりと大きな声であなたに言えます。

僕がそれまで通っていた私立の高等部に進学せず都立高校を受験し、そこに通うようにしたのは変わりたかったからだ。
僕に取り憑いていたあの病魔を追い出して体型が元通りになっても、今までのこの僕を知っている環境では僕は変われない-そう思ったから。

エスカレーターで放っておいても進学できる学校を蹴ってわざわざ都立高校にきた-しかも相変わらず体育の授業をまともに受けられない僕は、結局ここでも浮いた存在だった。元々人付き合いは壊滅的に悪かったし、僕はますます孤立していった。結局何も変われないんだなと思い始めていた。

でも、そんなことを全て払拭して、僕をみんなの中にすんなり入れてくれた-それが海の存在だった。
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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

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手-アルビノーニのアダージョ

手-アルビノーニのアダージョ


僕はその放課後、音楽室で1人ピアノを弾いていた。

元々ピアノを弾くのは好きだった。でも、浮腫みが酷かった頃は指の動きも悪く、あまり上手に弾けないと感じていた。
浮腫みも取れやっとスムーズに動くようになったと思いながら弾いていると、音楽室の窓がガラッと開いて、
「あ、何だ結城君かぁ…アルビノーニのアダージョなんて曲が曲だから、幽霊だったらどうしようって思ったわよ。」
と、ひょこっとその窓から顔を出したのが、海-倉本夏海という名のクラスメートだった。
「でも、ピアノ上手いね。」
海はそう言ってふわふわの笑顔で笑った。
「倉本…さんもピアノ弾くの?」
「うん、でもちょっとだけ…一応受験にも必要だし。」
「へぇ、音大に行くの?」
受験でピアノが必要だと聞いて、僕は当然音大に行くのだと思ってそう言った。
「まっさかぁ~、幼教だよ、保母さん。音大なんて考えたこともないよ。びっくりしちゃう。」
「ヨウキョウ?あ、幼児教育のこと?何だそうか…アルビノーニのアダージョなんて曲名を即答するから、僕はプロでも目指してるんだと思ってさ。」
僕がそう言うと、海はこう返した。
「この曲って有名じゃん。」
「曲自体は有名だけど、曲名まで即答できる人はそうはいないと思うけど。」
大体、クラシックなんて大抵そうだ。題名を言っても分からないけど、聞くとああ…て感じになるものがほとんどだ。
「そうなの?私、普通に知ってたけどな。この曲大好きなの。」
「へぇ、僕もこの曲大好きで、だからピアノ用にアレンジしたんだ。」
それを聞いて、海は驚いていた。
「自分でアレンジしちゃったの?ますます結城君って凄いね。じゃぁ、もっかい聞かせてくれない?」
「良いよ、じゃぁ、中に入って聞く?」
窓越しに覗いていた海は、音楽室に入ってくると、僕のすぐ横で僕の手元を見ながらアルビノーニのアダージョを聞いた。そして聞き終わった後ポツリと、
「良いなぁ…」
と言った。
「何?」
僕は何が良いのか分からなくて聞いた。
「小柄なのに結城君の手、大きいなぁと思ったから。」
「うん、手は身体に比例すると大きい方かもね。」
僕は、鍵盤の上で自分の手を開いてみせた。そして、右手の親指でドを、小指でそれより1オクターブ上のミを叩いた。
「うわっ、ミまで届いちゃうの?!」
そう言うと、海はいきなり僕の手に自分手を重ねた。そして、
「私なんてオクターブがやっとなんだよ。しかも、曲の終わりには手が攣ってきちゃう。」
と悔しそうに言った。僕のほうは不意に重ねられた手にドキドキしていたんだけれど、海のほうは僕なんて全くノーマークって態度だったから、皮肉たっぷりで
「そりゃ僕、男だしね。」
と返してやった。それでも海はまだ、
「何か納得いかないなぁ…」
とぶつぶつと言い続けていたけれど。変わった子だな…それが海の第一印象だった。

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genre : 小説・文学

告白

告白


海は良くしゃべるし、よく笑う女の子…

音楽室の一件から、海は教室でも僕に話しかけてくるようになった。大抵は彼女の好きなクラシック音楽の話だ。流行の音楽-特にアイドルと呼ばれるような歌手の歌は、耳の良い海は、外れているのが気になってしょうがないし、事によっては気分まで悪くなることがあると笑っていた。
海の女友達達に言わせると、そういう話題を彼女に振ってしまうと海は限りなく暴走するから気をつけたほうが良いのだそうだ。
でも、僕にはそれが暴走してるなんてちっとも思ってはいなかった。僕だって、顔や胸だけでアイドル歌手を追っかけている男子の会話についていけなかったし、海がそんな風に熱くなって語るのを聞いているのは嫌いじゃなかった。要するに似たもの同士なんだろう、そう思っていた。

やがていつの間にか、僕達は付き合っていることになっているみたいだった。みたいだなんて無責任な言い方に聞こえるかも知れないけれど、僕はそのときまだ、海の家の住所も電話番号すら知らなかったし、学校で話す以外に接点なんて全くなかったからだ。

僕は、海に好かれているのか彼女に聞くだけの自信がなかったって言うのが一番正しい答えなのかもしれない。だから、僕らはかなり長いこと、ただのクラスメートでいた。
でも、僕はそれこそ、音楽室で海が不意に僕の手に自分の手を重ねてきたときから、いや…それより前に、音楽室の窓を開けて僕にふわふわの笑顔をくれたときから海のことは大好きだった。

それで僕は、海としゃべるようになったのと同じ頃に…というか、海が彼とも気さくに話すので、自然に僕らも仲良くなった健史-梁原健史-に海に告白しようと思うと打ち明けた。健史が海と話したがる理由は、僕と同じだと思ったから。抜け駆けなんてしたくはなかった。

「お、龍太郎、やっと言う気になったんだな。」
僕がそう言うと、健史はそう返した。
「君はいいの?」
「何が。」
恐る恐る聞いた僕に、健史は首を傾げた。
「僕が告白して上手く言った時のこと。君も…倉本の事、好きなんでしょ?」
「好きといえばそうだろうな。」
僕が遠慮がちに聞くと、彼はあっさりとその事を認めた。
「でも、もう諦めてるよ。お前ら2人の間に俺の入り込む隙間なんてどこにもないからな。勝ち目のないケンカは性に合わないんでね。
それに、倉本って、俺といるよりお前と一緒にいて笑ってる時の方が可愛いと思うんだよな。だから、俺の事なんて気にせずに行けよ。お前らは一緒にいるべきだし、俺はそれを見てるのが楽しい。」
そして、挙句の果てに何か解らないことを言い出して僕を煙に巻こうとしていた。それで、僕は健史に続けてこう言った。
「ねぇ、もし振られたらだけど、慰めてくれるかな。」
僕としてはただ、やっぱり海が僕の告白を受け入れてくれる自信なんて全くなくてそう言ったんだけど、そしたら健史に咳き込むくらい思いっきり背中を叩かれた。
「龍太郎、頼むからそういう言い方は止めてくれよ。俺、男になんて興味ないからさ。」
と首筋をガシガシ掻きながらそう言われた。男に興味って…心外だと思った。僕はこれから玉砕覚悟で海に告白しようと思っているのに、それはないと思った。
でも、その後にっと笑った健史は、
「大丈夫だよ、龍太郎。俺は絶対にそんなアフターケアをする必要なんてないはずだから。自信持っていいぞ。」
と言ってくれた。本当に嬉しかった。

-*-

健史の言う通り、僕は玉砕なんかしなかった。
「私も結城君の事は良いなぁって思ってたんだよね。話しててすごく楽だし。私で良かったら付き合うよ。」
と、あっさり僕の告白を海は受け入れてくれた。それから海は、
「ねぇ、結城君は今まで誰かと付き合った事なんてあるの?」
って聞いてきた。
「ううん、何で?」
「カワイイ顔してるし、優しいし…中学時代モテたんじゃないかなと思って。」
僕はその言葉に自分の耳を疑った。僕が、カワイイ?!
「まさか、僕が…カワイイって?!」
驚いた僕に海ははにかみながら頷いた。
「モテたりなんかしなかったよ。背だって低いし、根暗だし、それに…」
病気で体型も今とは全然違っていた。僕はその一言をどうしても出せなくって、1回呑み込んだ。
「確かに男の子としては高いほうじゃないのかもしれないけど、私よりは高いからそんなの気にした事ないけど?で、それにって、まだ何かあるの?」
「それは今度…ううん、明日教えてあげる。でも、ビックリしないでね。」
海が僕の顔を覗き込んだので、僕はそんな勿体をつけて答えを引き伸ばした。明日あの写真を持って来ようと思った。僕は正直なところ自分がカワイイと言われて怖くなったんだ。僕のあの顔を見ても、そう言ってくれるのかなって…

翌日僕は、一番浮腫んでいた時の写真を海に見せた。
「僕、病気でね、中学3年の2学期くらいまではこんな感じだったよ。チビで根暗でデブ、3拍子揃ってたらさすがにモテたりしないよ、安心したかな?」
海は写真を見てすごくビックリしていた。口を開けたまましばらく呆然としていた。僕はだから、こんな100年の恋も一瞬で褪めるような写真を何で持ってきたのかと後悔した。でも、しばらくして、海からこんな言葉が返ってきた。
「安心したかな?って…私にこんな写真を見せて、もしかしたら嫌われるかもなんて思わなかった?あ…私はこんな写真なんかで嫌いになったりしないけど。それより結城君、身体の方は今は大丈夫なの?私はそっちの方が心配になっちゃった。だって、結城君今でもよく体育休んでるじゃない?」
そう言った海は涙目になっていた。その潤んだ瞳に僕はまたドキッとした。
「大丈夫だよ。もう薬も飲んでないし、浮腫んでもいないでしょ?
体育はサボり癖ついちゃったかな。病気だって学校には言ってあるから、先生は怖がってムリにやれっていわないのを良いことにね。だから、心配しないで。
ただね、僕…その…倉本には僕の事ちゃんと知って付き合って欲しかったから、それだけなんだ…」
と照れながら返した。僕がそう言ったら、
「それってすごく嬉しいかも知んない。でもね、それって反則技だよ!」
と言いながら海は僕に背を向けた。僕は何が反則なのかちっとも解らなかったけど。

-*-

そしてそのまた翌日の教室で…
「ねぇ、海。海は今日はクラブなの?なかったら僕と一緒に帰ろうよ。」
僕は女の子達とおしゃべりに花を咲かせている海のところに行って、本当はドキドキしてたんだけど、さらっとそう言って海を誘った。これが僕のクラスメートに対する僕らの交際宣言。
海と前日別れた後、一晩考えてそして何度もシュミレーションした、僕だけの彼女の呼び方…
でも当の海は、最初自分のことを呼ばれているとは思ってなかったみたいだけど…僕の目線の先に自分がいるのに気付いて、それから自分の名前を考えてやっと自分をそう呼んでいるのだと気付いたみたいだ。
「ううん、今日はクラブないよ。明日だから。…龍…太郎、一緒に帰ろ。」
と、真っ赤になりながらそう言ってまたあのふわふわの笑顔を僕にくれた。
その時、海の隣にいた海の親友の皆川悠の
「きゃぁ!あんたたちいつの間にぃ~?!」
っていう叫び声とか、聞いてないだろうって思っていた、教室の反対側の隅にいた男子の口笛が聞こえて、ニヤニヤ笑いを見てしまったけど…

もう口に出してしまった後だった。そうだ、言ったもん勝ちだと僕は開き直っていた。

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genre : 小説・文学

強行突破…

強行突破…


それから、僕と海とはずっと付き合い続けた。僕らの事をクラスの一部の人間は夫婦だと言っていた位に。僕も海もそれを照れて大仰に否定する事も、また胸を張って肯定する事もしなかった。時がくればいずれはそうなるだろう。ぼくはまだまだ子供の癖にそんな風に思っていた。海はその時、どう思っていたんだろう。聞いてみたい気がする。

でも、あの人やおばあ様、特におばあ様は海のことを認めてはくれなかった。結城の家柄には彼女は合わないと言うのだ。ほとんどあった事も無い癖に、どうしてそんな判断が下せるのだろう。YUUKIの会社だって、彼女のお父さんのように普通に勤めてくれる社員の方が沢山いてこそのYUUKIであるはずなのに。
「大体、都立に行くなんてわたくしは反対だったんですよ。」
おばあ様は僕の学校の事まで苦々しげにそう言ったけど、海もそうだけど、健史-健史がいなかったら僕は今手にしている宝物を全て失っていたし、そもそも今の僕じゃなかったと言っても過言じゃない。健史もあの学校で出会った。

そう、彼らは何も解っちゃいないし、解ろうともしていない。
そんな彼ら立ち向かうためにも僕は「既成事実」というものが欲しかった。子供を楯に取ってでも強行突破するんだ。僕はそんな計画を立て始めていた。

僕は最初、間に合わなかったとかのいろいろな理由をこじつけて、一切の避妊を止めた。海も最初は戸惑っているようだったけど、ニュアンスは伝わっていたのかもしれない。何も言わずにいてくれた。

でも、1年を超えても僕の望んだ結果は得られなかった。
1度だけ海の月のものが遅れた。海の周期は本当に正確みたいだったから、僕はドキドキして僕の秘密の計画がばれてしまうかと内心ひやひやしていた。
でも、それが違っていたと分かった時、海もそれを心待ちにしていたのが、彼女の態度で解った。ぼくはそこであからさまに態度に出してしまうと海を傷つけてしまうような気がして、何でもないフリをしてしまった。それがどんなに罪深いことかだなんて思いもしないで。

ただ、海の方には原因はなさそうだと思った。という事は、僕の方に原因があるのだろうと…
あの病魔の事が頭を過ぎった。

だから、僕は検査に赴いた。治療が必要なら早めに治療して、彼女と早く一緒に暮らしたい。
僕が彼女の誕生日にこの安物の指輪を贈ったのは、治療のために時間がかかるかもしれないけれど、ずっと一緒にいて欲しい。そんな気持ちだった。
全く僕は、言動と心の底で思っている事が真逆の天邪鬼だったんだ。

僕がその時、しなきゃならなかったのは、そんな回りくどい演出なんかではなく、正直に病気の不安も僕の家族の反対もみんな健史じゃなく海と分け合って、彼女と2人一緒に頑張るべきだった。今なら…そう思う。

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自暴自棄

自暴自棄


そしてあの日…僕は病院での検査に結果に絶望していた。あの病気の薬の後遺症で、僕の僕の生殖能力はほとんど機能していない、そう聞かされたのだ。
「自然に妊娠させる事はまずないと言って良いでしょう。」
医者は、きわめて事務的に僕にそう告げた。

僕は衝動的に行きずりの女性に声をかけて、自分のマンションに引きずり込んだ。どうせ遊んだって面倒は起こらない。僕は完全に自分を見失って、自暴自棄になっていた。

そして…いつもは平日には決して来ないはずの海が、その日に限ってマンションを訪れた。
「同じ家に暮らせないって、こういう事だったの?!」
いつプロポーズできるかわからないからと、期待を持たせないでおこうとしてついた嘘が裏目に出た。
それでも、その時なら…大声でそれを否定していれば、本当のことをちゃんと話していれば、まだ間に合った。実際心の中では、
「違う、そうじゃない、僕には君しかいないよ!!」
と叫んでいたのに。僕の口からはその言葉はでなかった。

僕にかかわらないほうが海は幸せになれる-僕はあの時、瞬時にそう思ってしまったからだ。

普通の状態であれば、僕の子供はもうありえない。これは、僕達2人だけの間なら、なんら問題にすらならないことだった。
けれど…結城家というカテゴリーで考えたとき、その事実は致命傷になる。
海は跡取りを産めない女という事で、さんざん非難を浴びせかけられた上で放り出される。たとえそれが僕に原因があったとしても。
母様が僕さえいなければ結城家から離れて自由の身になれたのとは逆に、海は子供が出来ない事で家を追われる。
人工的なことを施すという手もないことはないが、もし明るみに出るような事になれば、海は今度は財産目当ての性悪女のレッテルを貼られかねない。

なんにしてもたぶん、僕と一緒では海は幸せにはなれない。僕はそう思ってしまった。

「僕が海だけで満足できるとでも思ってたの?」
僕はとっさにそんな毒を吐いて、その毒で自分自身すら麻痺させようとした。心から悪い男になれれば良いと思った。
そして、そんなそんな僕を見て、海は絶望したのか、指輪を僕に投げつけて、部屋を飛び出した。

そうだ、これで良かったんだ…こんな情けない男になんか関わらない方が良いんだよ、海…
その後、見ず知らずの行きずりの女性すらも、
「ばっかみたい…」
という一言を残して去って行った。

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genre : 小説・文学

解放

解放


海はその週末も僕のマンションにいつも通りやって来た。

「やっぱり別れられない。」
と彼女は言った。
「僕は一生誰とも結婚する気はないから。」
僕がそう言うと、それでも構わないから一緒にいたいとまで彼女は言ってくれた。彼女の母親は、「結婚が女の幸せ」と繰り返し説くタイプだと聞いている。その中で、結婚を選択しない生き方をするのは、それだけでも、大変な事のはずだ。

だから…僕は別れを切り出した。彼女を僕から解放しなくっちゃと思った。
「君は僕との中途半端な暮らしを、後々絶対に後悔する。」
僕はそう言ったけど、全てを話したら…たぶん、海はどんな仕打ちにでも耐えて側にいてくれるだろう。しかも僕には一言の愚痴も言わずに笑顔で。そして、僕の一族だけでなく、彼女の母親にまで翻弄されボロボロになっていくに違いない。僕はそんな彼女を見続けている自信はない。

「もう遅いんだよ。」
って言ったら、
「何が遅いのか解らない。」
と、海は僕の背中を叩きながら泣いた。遅いのか早いのか…ホントは僕にも分からなかった。

そして、海が僕の部屋の彼女の荷物を整理し始めたとき、僕はパソコンで仕事をしているフリをした。でも、あの時打ち込んでいたのは、実は海への謝罪の言葉だった。
見られそうになったらすぐに消す準備をしながら、僕は延々とゴメンね、本当は愛していると入力し続けた。

やがて玄関から海がドアの外に出ても、彼女がそこから歩き出せないでいる事も分かっていた。飛び出して行って抱きしめてしまいたい衝動に何度も駆られながら、僕はパソコンの前で頭を抱えて蹲るように座っていた。
「これで良いんだ、これで海は幸せになれる。」
僕は自分自身に呪文をかけるように、何度もそうつぶやいた。
やっと歩き出した彼女の靴音が聞こえなくなっても…僕はずっとそうしていた。

僕の手元に残ってしまった、この安物の指輪を握り締めながら…

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genre : 小説・文学

君になら…

君になら…


海のいない週末の夜は長かった。僕はそれに耐えかねてつい健史に電話してしまっていた。
「休みの日にお前が電話してくるなんてな、どういう風の吹き回しだ?倉本とケンカでもしたのか?図星だろ。」
「ケンカなんかじゃないよ。」
かけたのが僕だと判ると、健史は笑いながら僕にそういったから、僕はそうじゃないと反論した。あれは、僕が一方的に別れを切り出したんだから…
「どうせまた、お前がわがままばっかり言って彼女を困らせてるんだろうが。」
「ああ、そうだよ。僕がわがまま過ぎて、僕たち終わっちゃったよ。」
ニヤニヤ笑っているのが判る声の問いかけに、ぼくはつっけんどんにそう返した。
「終わったってお前…お前またかなり飲んでるだろ。飲みすぎなんだよ、だから倉本を怒らせるような事になるんだ。あいつにお前が酒で勝てる訳ゃないだろ。」
健史は僕たちが酔っ払っていつものようにケンカを始めたくらいにしか思っていなかった。その声は笑っていた。
「ねぇ、健史はまだ海がすきなの?」
「何だ、藪から棒に。はいはい、今でも好きですよ。いい加減諦めろとでも言いたいか。」
僕の質問に健史は面倒臭そうに返事した。健史はそうやって僕には海への思いを隠したりはしなかった。それでも僕が彼女を手離さない、手離せないと解っているからだ。
「僕の代わりに、海を幸せにしてくれないかな。」
「はぁ?!バカな事、言ってんじゃないよ。何でケンカしたのか知らないが、俺まで巻き込まんでくれよ。」
僕の突然の提案に、健史はあきれ声で答えた。
「僕は本気なんだけどな、僕と別れた後、他の奴に海を取られるのは許せないけど、君になら…だから…ね。」
「お前、何考えてんだ?!」
ぼくがそう言うと、彼は声を荒げた。
「僕はどこまでいっても海を幸せになんかできない。」
「倉本は誰よりお前といるのが一番幸せなんだよ。ホントにまぁ、一体どんなケンカからそんな寝ぼけた事を考えたんだよ。言ってみろよ。」
「…」
健史に言ってみろと言われて、僕は逆に口ごもった。こんなこと親友の健史にだって言えることじゃない。
「言わなきゃ分かんないだろうが。理由も言わないで、お前自分のお古を俺に押し付けるつもりか?」
ふざけた言い方をしているけど、それは僕を心配しての有無を言わせない口調だった。
「子供…」
僕は蚊の鳴くような声でぼそっとそう答えた。
「子供?子供が出来たんなら万々歳なんじゃないのか?」
「違うよ、子供が出来ない。」
僕が続けてそう言うと、健史はホッとしたようなため息をついて言った。
「はいはい、何だそういうことか。お前の事だから、社長にぐうの音も出ない状態で倉本との結婚を認めさせようとか思ってイラついてんだろ。どうせお前には倉本しか見えてないんだろ、良いじゃんか、出来るまで待ちゃ。でも、それじゃ倉本が不安になるのか…それで、ケンカ?バカバカしい、犬も食わねぇってぇの、そういうの。」
そして、健史は僕たちがただ、「既成事実」に焦ってケンカを始めたのだと思ってげらげら笑い始めた。
「出来るまで待てって…待ても、出来ない。僕が原因で…」
「待っても出来ないって…お前が原因って…それ、何だよ。」
しかし、そうじゃないとようやく気付いたようだった。

「3年子無きは去れ…」
「何だよ、それ。」
僕が続けていった古い言葉に、健史は困惑した声で返した。
「僕たちがよしんば周りを押し切って結婚をしたとしても、たとえ僕にその原因があるとしても、海は何かと値踏みされて、挙句の果てには子供が出来ない事を理由に追い出される。これが僕たちの現実だよ。
「僕たちの現実って…お前、一体何時代の話してんだよ。平成になったんだぞ、へ・い・せ・い。」
「関わっている役者が代わってないんだから、昭和が平成になろうがそんな事は何も変わりはしないよ。」
「それはそうかもしれないけど…そこまで取り越し苦労する事ないと思うけどな。悪いことはいわないから、今からでも倉本に侘びの電話入れとけ。」
健史は僕の酔いが冷めれば僕たちはまた縁りを戻すと、簡単に考えてるみたいだった。

「電話で思い出したよ、電話番号変えたから。今度の番号は…」
「お前…そこまでしたのか?!」
健史の声の高さが落ちた。
「だから、最初から僕、本気だって…だから、僕の事はもう気にしないで今でも好きなら海のことを…あ、ただ、彼女にこの事は言ってないんだ。僕がいろんな子をつまみ食いしてるように言ってある。本当のことがばれないようにしてくれれば、君が…」
その瞬間、電話の向こうの空気が凍るのが判った。
「龍太郎!お前ホントに倉本にそんなこと言ったのか?!」
そして、健史は僕の鼓膜が破れそうになるような声で怒鳴った。
「お前…倉本にとってそれがどれだけ失礼で残酷な事なのか解っててやったのか?!!」
健史の声は怒りに震えていた。
「俺がYUUKIの社員で、お前との関わりがある以上、俺との付き合いにはお前の影が付きまとう。そんな俺の許であいつが本当に幸せになれるだなんて思うのか?じゃぁ、何か、お前は俺に仕事も辞めてあいつを取ってくれてって言うのか?!」
「いや…健史には一緒にいて欲しいよ。今の企画は君なしでの成功はあり得ない。」
「じゃぁ、別れるのは龍太郎、お前の勝手だ。でもな、俺にまで妙な事を振ってくるのは迷惑だ。止めてくれ!!」
健史はそう叫ぶと、一方的に電話を切ってしまった。

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genre : 小説・文学

半年後

半年後


僕が海と別れて約半年が経とうとしていた。

ある夜、僕は健史から電話をもらった。
「龍太郎、悪いんだけど明日の夜、俺のアパートに来てくれないかな。折り入って話したい事がある。」
そう言った彼の声は興奮し、弾んでいた。
「君の彼女でも紹介してくれるの?」
僕はそんな健史にそう質問したが、彼は含み笑いをするだけで、答えをぼかした。僕はそれがたぶん間違ってはいないだろうと予想していた。ここ最近、彼は定時がくるとあっという間にどこかに消えてしまうようになっていたから。

でも…一体誰だろう。会社の娘だろうか。心当たりはなかった。

「詳しい事は、明日に。」
と思わせぶりに健史は言うと、そそくさと電話を切ってしまった。

だが、その翌日…健史は会社には現れなかった。全く連絡すらもない。無断欠勤したのだ。
僕は健史が出勤時間をはるかに過ぎても現れないので、彼のアパートに電話を入れてみたのだが、家にも居ないのか電話にも出てこない。ふと、彼のデスクに目をやったとき、僕は言い様のない悪い胸騒ぎを抑える事が出来なかった。

普段からきっちりした性格の健史のデスクはいつも綺麗に整頓されているのだが、そこには違和感が感じられた。
最初、僕はその違和感が何なのか判らなかった。しかし、確かに違和感を感じるのだ。

やがて、その違和感の正体が「あるべきものがない」という事なのだと気付いた。
健史の私物と言われるものが何一つなくなっていたのだ。
僕は思わず、彼のデスクの一番大きな引き出しを開けてみた。
そして、その中に封筒が二つ入っているのを見つけた。

一通は僕宛の手紙、

そしてもう一通は…辞表だった。

-*-

僕はとっさにその2通をポケットに入れてその場を離れた。とにかく、一刻も早く状況を把握したかったのだ。
その頃の僕は自分の父親の会社に勤務しているとは言え、まだ何の役職にも就いていないペーペーだったから、間仕切りのない僕のデスクでそれを読むのは憚られた。だから、僕はそれをトイレに持ち込んで読んだ。


まず、僕宛の手紙-

龍太郎へ

俺は今、俺のデスクを開けたのがお前で、人知れずこの手紙を手にしてくれたと確信している。
もし、それが当たっているなら、このままこの手紙の事は誰にも言わずに今晩俺の部屋に来てくれ、それで全てがわかると思う。

そして、俺が用意したお前への最高のプレゼントを是非とも受け取ってくれ。
本当はお前の誕生日に用意してやりたかったんだが、手間取って今頃になってしまった。お前への誕生プレゼントを、俺の誕生日頃に贈るなんて却って俺らしいと思うか?

あ、それから返却は受け付けない。そこんとこだけは忘れないでくれ。ま、返却しようなんてきっと思わないだろうけどな、お前は。

じゃぁ、また夜に…
                                             健史

一方辞表の方は…本当に型どおりのもので、
「私儀、このたび一身上の都合により退社いたしたく、ここにお届け申し上げます。」
と、彼の律儀な性格を現す字がそこに連なっているだけだった。
それにしても一身上の都合だなんて、なんとなく女子社員の寿退社のようだなと僕は思った。

僕はますます混乱する頭のまま、とにかく彼の望んだように誰にも手紙の事も辞表の事も話さず、じれる思い出定時を待った。
そして、僕は定時きっかりにタイムカードを押すと、息せき切って彼のアパートに急いだ。
しかし、彼はアパートにもおらず、当然ながら鍵も掛かっているその前で、僕は一時間あまりも待っただろうか…

足音が聞こえた。足音は鉄筋の階段をゆっくりと上がってきた。やっと健史が帰って来た、そう思った。

だが、上がって来たその人物に、僕は息を呑んで固まってしまった。

ニコニコといかにも嬉しそうに階段を上がってきたのは…

健史ではなく、海だったからだ。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

健史の相手

健史の相手


「龍太郎…」
海のほうもアパートのドアの前に僕の姿を見つけた時、ひどく驚いた顔をし、一瞬踵を返そうとした。
「待って!朝から健史がいないんだ。会社も無断で休んで…おかしいと思って、彼のデスクの引き出しを見たらここに来いって僕宛の手紙が…海は何か聞いてない?」
僕があわててそう言うと。
「健史が行方不明?それに、健史が本当に龍太郎にここに来いって?!」
と、僕を見つけたときよりもっと驚いて、ドアの前までつかつかと小走りにやって来て、海は健史の部屋の鍵を取り出した。

僕はそれを見て愕然とした。まず、海は僕と違って、他のクラスメートに倣ってヤナと呼んでいたはずだ。それには僕ににつられて急にそう言ったのではなく、普段から呼び慣わしているような親密さが感じられた。
そして、海が彼の部屋の鍵を持っているという決定的な事実。この頃早く帰るようになったのは、僕の予想が正しく、その相手は海だったという事だ。
僕は海と別れる時に彼に、
「他の奴に取られるくらいなら、いっそのこと君に…」
とは言ったけれど、縦しんば本当にそうなっているとは夢にも思わなかった。健史はあれから1度も倉本の“く”の字も吐いたことはなかったから。
でも、実際にそれを目の当たりにしてしまうと、それはそれで僕は胸が裂かれるような痛みを味わった。
だから、健史は僕には海と付き合っていることを内緒にし続けたのだろうけれど。
なら、何故今になって…

ここに来れば全てが分かると書いてあったが、また分からない事が増えた。そう思いながら僕は、ドアを開けた海に続いて、健史の部屋の中に入った。

「う、ウソ…」
入ったとたん、僕たち2人は絶句した。元からあまり荷物は多くはなかった部屋だったが、さらに荷物は消え、わずかに残されたものも綺麗に纏めて置かれていた。
「3日前に来た時には、こんなじゃなかったわ!」
そして、海は僕のスーツの襟を掴んで叫んだ。
「ねぇ、健史は何処?!何処にいったの?!教えて!ねぇ、龍太郎!!」
涙をいっぱいためて僕を揺すぶって健史の消息を質す海の顔を見ていられなくなり、僕は目線を彼女から外した。
「僕も分らないよ。ここに来れば全てが分るって彼から手紙をもらっただけで、何も…」
そう言いながら僕は彼の部屋を一通り見回して、何か手がかりがないかと探して…

僕は畳んだ布団の上に手紙が置かれているのを発見した。
「海、あれ…」
僕は目で、布団を示すと、僕のスーツを掴んでいた海の手をそっと外させて、手紙を取った。

手紙は2通。1通は僕宛、もう1通は海宛だった。
僕は海宛の手紙を彼女に渡すと、開けるのももどかしいと焦りながら、開けてその手紙を読み始めた。

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最高のプレゼント

最高のプレゼント


龍太郎へ

夏海が来たんで、さぞびっくりした事だろう。
すまない…でも、今だけは彼女の事を俺にもそう呼ばせてくれ。

そう、彼女こそがお前に用意した俺からの最高のプレゼントだ。

これは、寄る辺のない俺を家族のように愛してくれたお前たちへの俺からの感謝のしるし。

これで、夏海は堂々とお前のところにいけるだろう。もう、何も障害はない。
俺から言わせれば、最初から障害なんてなかったと思うけどね。
それに付け込んで俺は最後に甘い夢まで見させてもらえた。感謝してるよ。

それから、しつこいようだけど、これは返却は認めない。というか、もう返却しようがないはずだから。

そんな訳で、俺の事は探さず、忘れてくれ。頭の隅からも完全にな。
そして2人、末永く幸せに…な。

my precious 僕の大切な2人に愛をこめて

                                           梁原 健史



これで障害がなくなる?!…一体、どういう事なんだ。障害がなくなる…まさか?!僕が読み終わってあるひとつのことを考えて呆然としていると、海の口から嗚咽とともにつぶやきがもれた。
「健史…どうして?!どうして…私1人でなんか…私、どうしたら…」
「ねぇ、海のほうはどう書いてあるの?僕のには君を頼むって書いてあるんだけど…」
そして、先程から僕の頭を占拠してしまったある恐ろしい憶測をかろうじて心に留めながら、僕は彼女にそう尋ねた。
「何って…」
海は涙でぐしゃぐしゃになりながら何か言ったが、解らなかった。だから、僕は彼女が持っていた彼女宛の手紙を彼女の手から抜き取った。弾かれたように僕を見た彼女に、僕は頷きながら手紙を開いた。

夏海へ

どんなに謝っても済む問題じゃないことは解っている。でも、俺ではお前をどうしても幸せにはしてやれない。
…なにより、もう限界だ。お前もうすうす感づいているだろう。
だから、勝手なようだが、俺は龍太郎にお前を任せてお前の前から永久に姿を消す。

龍太郎ならお前を絶対に幸せにしてくれるはずだ。あいつはお前と別れたことをずっと後悔している。
だから今、どうかそのままあいつの胸に飛び込んでくれ。
大丈夫、あいつは今のお前を喜んでそのまま受け止めてくれるはずだから。

そして2人で幸せを掴んで欲しい。それが俺の望み-一番の幸せ、そして最後のお願いだ。

                                          梁原 健史


「ねぇ、龍太郎、最後…最後って何?健史は何をしようとしてるの?ねぇ、教えて!」
海の必死の質問に僕は頭を振った。
「僕にも分からない…ここに来れば全てが分るって彼は手紙に書いていたけど、僕にはまだまだ分からないことだらけだ。だけど、彼が本気でどこかに行こうとしていることだけは分る。僕は、今朝彼のデスクで僕宛の手紙と一緒にこんなものを見つけた。」
僕はそう言うと、ポケットから健史の辞表を出して、海に見せた。辞表という文字を見た途端、海はわなわなと震えだし、
「ウソよ!そんなの…ウソよ!!ほんの昨日の事なのに…あんなに、あんなに喜んで…今日はうちに来る相談をするはず…」
そこで海の言葉が急に途切れたので、僕は海を見て-咄嗟に崩れていく彼女をかろうじて抱き、支えた。海の顔色は見る見るうちになくなり、肩で息をし始めた。
「海、どうしたの?!大丈夫?しっかりして!!」
「助けて龍太郎…私…この子を…助けて…私達の赤ちゃん…」
海はあわてて抱えた僕の腕の中で、僕の想像していた怖ろしい憶測を裏付けた後、意識を失った。

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僕の…子供

僕の…子供


僕は救急車を呼んで、海を病院に運んだ。

「先生、海は…彼女は大丈夫なんですか?」
「症状から考えるとどうも、パニック状態からくる過呼吸だろう。大丈夫、すぐ落ち着くから。」
医師はおろおろとそう訪ねる僕に向かって優しくそう答えた。しかし、
「子供は?子供は大丈夫なんでしょうか?」
と続けて僕が尋ねると、
「えっ?彼女妊娠してるの?分かった。」
そう言ってまた彼女を診た。
「赤ちゃんの方も大丈夫みたいだね。」
「良かった…」
僕はそれを聞いて心底ホッとしてその場に座り込みそうになった。
「お父さんまで倒れたらどうするの、赤ちゃんが戸惑うよ。」
その様子を見ていた医師は、笑いながらそう言って僕の肩を叩いた。
そうだ…僕はこれからこの子の“父親”に…ならなきゃならないんだ。

海は念のために一晩だけ入院する事になり、病室に移された。
目覚めた海に僕は、
「心配しないで、赤ちゃんは大丈夫だよ。」
とだけ告げた。

やがて、病室に海の両親が到着した。
「ご無沙汰してます。」
僕は、そう言って彼らに深々と頭を下げた。
「結城君?あなた、夏海とは別れたんじゃなかったの?」
彼女のお母さんはそう言って僕を睨んだ。だからと言って、今の僕はそんなことで怯むわけにはいかなかった。海を、子供を守らなければ…そう思った。
「すいません、全部僕の責任です。」
「龍太郎?!」
海が僕の発言に驚いて声を上げた。
「良い?僕が、全部悪いんだ。普通の状態じゃない海を怒らせてすごく不安にさせたこの僕がね。
でも、もう解ったから。後は全部僕に任せて、海は僕についてきてくれるだけで良いから。」
僕は面と向かって本当のことが言えない状況の中で、海が健史の名前を出さないように釘を刺すつもりでそう語りかけた。
僕の憶測が正しければ、健史はもう2度と僕らの前には姿を現さない。
もちろん、それを僕もすんなりとは認められないし、認めたくもなかった。
でも、たとえ僕には理解できなくても、それが彼のたっての希望であるなら、彼が望むように僕らは2人で…いや、3人で幸せになろうよ。僕は目で海にそう訴えかけた。
海は僕のそんな態度に明らかに戸惑いながらも、“健史”の名前を呑み込んだ。

良い、それで良いんだ。2人で生まれてくる子供を、健史の子供を守ろうよ、僕はまたそう眼で彼女に合図を送った。

「それから、こんな場所で申し訳ないんですが、海と…いえ、夏海さんと結婚させてください。」
そして僕は…再び頭を下げて、彼女の両親に彼女との結婚を乞うた。
「彼女のお腹には…僕の子供がいるんです。」
僕は、彼らの眼を見てはっきりとそう告げた。

「子供だと?!貴様、何て事をしてくれた!!」
僕が海を妊娠させたと聞いて、海のお父さんは逆上して、僕を殴りつけた。
「龍太郎!ねぇ、お父さん止めて!龍太郎は何も悪くないわ!!」
「ううん、僕が悪いんだよ。海は何も言わなくて良い。」
僕はすばやく体勢を立て直し、慌てて起き上がって殴られた僕を助けようとした海を制して、またベッドに寝かせた。
「また、具合が悪くなったらどうするの?僕はもうあんな海の姿は見たくないからね。」
そう言った僕を海は縋り付くような眼で見つめ返した。
「でも、あなたとはずいぶん前に別れてるんじゃないの?今は梁原君って子と付き合っているんだと思ってたけど、そうじゃないのかしら?」
訝るような調子の海のお母さんの言葉が胸を貫いた。彼女の母親はこの事を感づいている?!でも、もう後には退けない。さぁ、僕はここからどう言い繕えばいいだろうか…
僕は頭を振り絞りながら、続く言葉を探した。
「ええ、僕が結婚に対して煮え切らない態度ばかり取ってきたもんだから、ちょっと前、そのことで彼女と大ゲンカして…しばらく連絡を取ってませんでした。
で、健史が…梁原のことですが、海は僕とのことを健史に相談していたらしいんです。でも、僕はそれを彼女がもう僕を見限って彼のところに行ってしまったんだと勘違いしてしまいまして、余計依怙地になってしまっていました。
今日も、彼女から子供ができたらしいと聞いたとき、『それ健史の子供なんじゃない?』なんてひどいことも言ってしまいました。彼女が倒れてしまったのはそのせいなんです」
僕はそう言ったところで1度頭を下げた。
「でも、海が倒れてみてようやく分かりました。僕は彼女を本気で愛してるんだって。彼女なしの人生はあり得ないって。そんな事はないけど、縦しんばお腹の子が僕の子供じゃなくってもそんな事は問題じゃない、僕は海じゃなきゃダメなんだって。
だから、お腹立ちはごもっともだと思います。でも、お願いです、僕と…僕とお嬢さんを結婚させてください。そして、僕にこの子を…僕に子供の父親をさせてください。」
僕は言いながら何度も何度も頭を下げた。
「ま、責任を取ると言うのなら…できてしまったものを今更無碍にはできんからな。」
ようやく、海のお父さんがそう言ってくれた。
「夏海ちゃん、あなたはそれで良いの。」
海のお母さんがそう聞くと、海はこくりと頷いた。
「なら、私に異論はないわ。お父さんも反対してないんだし。」
そして、一番反対するだろうと思っていた海のお母さんがあっさりと承諾してくれたので、僕は内心力が抜けるのを感じた。

「では、僕はこれで失礼します。うちで話して、改めて正式にお伺いいたします。」
僕はそうして-都合何度目になるのだろうか-深く頭を下げると、病室を後にした。

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誰がための…

誰がための…

多少辻褄の合わない事を言ったかもしれない。それでも、これで前に進みだした。後は僕の方…

僕は翌日、土曜の朝一番にあの人-僕の父親である人-の所に出かけた。
「龍太郎さん、おはようございます。」
ダイニングの椅子に座ってくつろいでいたあの人の愛人(とは言え、母様と別居している今となっては、彼女のほうが対外的には妻と言ったほうが正解なのかもしれないけれど)妙子さんが慌てて立ちあがって挨拶をした。僕はそれに対して手を挙げて応えた。
「龍太郎、こんな朝早くに珍しいな、雨でも降らなきゃいいが。」
あの人も上機嫌で入ってきた僕に声をかける。
「僕もそう思いますよ。でも、今日はどうしてもお会いしなきゃならなかったものですから。父様、折り入ってお話があります。」
僕が彼のことをそんな風に呼んだのはもう何年ぶりだろうか。
「何だ?ますます珍しいな。」
「僕、結婚しようと思ってます。昨日、あちらのご両親にもお会いして、承諾も戴いて参りました。」
「あら、それはおめでとうございます!」
僕の言葉に驚いて先に反応したのは妙子さんの方だった。彼女は顔を綻ばせて僕にお祝いの言葉をくれた。
一方、あの人は眉をピクリと動かした後、しばらくして言った。
「それは、彼女か。」
「あら、あなた御存知なんですか?」
「ええ、僕には海以外の女性なんて考えられないですからね。」
僕はあの人が海を知っていると聞いて驚いている妙子さんを一瞥してそう言った。
「で、できるだけ早く籍だけでも入れたいと思ってます。」
「それは何か-そういうことか。で、顔まで腫らしてもらってきたとでも言うのか。」
「そうです。流石に察しが良いですね。彼女は僕の子を妊娠してます。」
そして、僕はあの人がぼかして言った海の妊娠をあからさまに口に出して言ってやった。
「認めない。」
「は?!」
「すぐに入籍だなどと、私は認めないと言ってるんだ。」
「あなた!」
すると、あの人は表情一つ変えず、僕にそう言い放ったのだった。

-*-

僕は海のとの結婚を認めないと言ったあの人を睨んで仁王立ちになった。それを見てあの人はにやりと笑った。
「ほぉ、怒りに任せて声高に自分の意見を主張したり、逃げなくなったか。それはいい心がけだ。お前も人の親になって、少しは成長したという事だな。
私は入籍だけの結婚を認めんと言っただけだ。」
「どういう事ですか。」
僕は、どうやら彼があからさまに反対しているのではないと分かって逆に戸惑った。
「世間にはそうした紙切れだけの結婚を軽んじる奴もいるという事だ。
お前にはYUUKIを背負って立ってもらわねばならん。そのお前の結婚を軽く見られるようなことはしてもらいたくはないのだ。で、彼女は今、何ヶ月になる?」
「3ヶ月の終わりだと聞きました。」
「もうすぐ安定期に入るな。ぐずぐずしてはいられない。とは言え、私には時間が取れない。早急にコレと正式に挨拶に行ってきなさい。」
「は、はい、分かりました。」
「結婚式の方はすべてYUUKIが取り仕切るからと。そちらは身一つで来てくれればいいと、分かったな。それから、結婚式の準備は秘書の石動にやらせる。」
そう言うと、あの人は妙子さんに早速その石動さんに電話をかけるために子機を取るように命じた。
「父様?!」
反対しているのかと思いきや、いきなり結婚式の段取りを勝手に始めたあの人に、僕は最初あっけに取られていたのだけれど、次第にそれが腹立たしく思えてきた。結婚するのは僕と海であって、結城家と倉本家でもましてやYUUKIの会社でもない。
「何だその顔は。自分の結婚式だとでも言いたそうだな。しかしな、大体どんな結婚式でも自分のための自分の結婚式などありはしない。自分の結婚式なんてもんは、周りの為のもんだ。」
そんな僕の表情を読んだのか、あの人はそうも付け加えた。
「それから、事後報告では後が五月蝿い。おばあ様と雛子姉さまにもお前から話しておけ。」
「分かってます、おばあ様には今からこの足で参ります。」
僕は頷いてそう答えた。

「じゃぁ、そんな訳で、これからおばあ様のところに行って来ます。
それから、昨日は彼女、体調があまり良くなかったみたいなんで、今晩電話してできれば明日か、それ以降という事で向こうには連絡を入れますが、一緒に行ってもらえますか。」
流石に昨日入院して、今日家に戻ってくるとも言えず、僕は帰り際妙子さんにそう言って、彼女の協力を求めた。
「龍太郎さん、私なんかでよろしいんですか?」
妙子さんは遠慮がちにそう返した。
「ええ、母様に頼めない以上、あなただけが頼りです。是非お願いします。」
僕はそう言って、彼女に頭を下げた。
あの人が言うように、子供の父親になるという事は、ずいぶんと人を変えるものだと思った。この僕が昨日の夜からどれほど頭を下げているのだろうと思うと、ひどく不思議な気すらした。

-*-

僕はあの人の家を出た後、今度はおばあ様のところに行った。
「まぁそんなふしだらな。だから、わたくしは最初から反対だったんですわ。大体、わたくしはあんな高校に通う事自体反対だったのですよ。」
予想通りというべきか、彼女はそう言って眉を顰めながらいつもの主張を展開し始めた。
「おばあ様、海はおばあ様が思ってらっしゃるほど、結城の家にそぐわない娘じゃないですよ。それは、きっとおいおいお分かりになると思いますが。それに、子供のことは僕の意思です。」
僕はそんなおばあ様に、いつもとは違って極めて低姿勢で、しかし怯むことなく返した。
「あの方だって断ることもできますでしょ。」
おばあ様はあくまでも彼女が僕を誘惑したのだと思いたいらしい。
「そうですか?男の僕が本気を出したら、女の彼女の抵抗なんて無意味でしたよ。」
だから、僕はさらっと笑顔で僕が無理強いしたように言ってやった。本当はそんな事はなく自然に合意の上でだったのだが、この一言の効果は絶大だったようで、おばあ様はガクッと肩を落として一気にトーンダウンした。

「で、総一郎はなんと言ってるんですか。」
それで、おばあ様は今度はあの人を拠り所にしようと思ったようだった。
「賛成してくれてるかどうかは僕にも判りませんけれど、結婚式はYUUKIとして盛大にやってくださるらしいですよ。妙子さんと僕とで早速明日にでも挨拶に行けといわれたし、結婚式の手配も石動さんにお願いしてましたしね。いいビジネスチャンスの一つとでもお思いなんじゃないですか。」
「そ…そう。総一郎が反対じゃないのなら、わたくしにも異論はないですわ。子供も生まれてくるのでしたら、仕方ありませんわ。」
更に、あの人が反対せず結婚式の準備を始めたと聞いて、おばあ様は僕らの結婚を渋々承諾した。

その後、マンションに戻って、僕はあの人の姉、僕の伯母に当たる雛子伯母様に電話を入れた。手身近に結婚する事、海の妊娠などを告げる。
そんなに反対する人ではないのだが、この人を蚊帳の外にすると、後々拗ねてしまって海が苛められる原因になりかねないからだ。母親であるおばあ様の受けが良くない以上、そういったマイナスファクターはできるだけ避けなければならない。でないと、何かの時に女2人でどんどんと嫁の悪口に発展しかねない。あの人もそれが分かっているから連絡しておけと言っていたと容易に推測できる。
ただ、あの人の場合は、自業自得という部分も否めないと僕は思うのだが…

「それはおめでとう。」
彼女にそうお祝いの言葉を言われて電話を切った後、僕は一気に疲れが出たほどだった。
僕は大きくため息を吐いた後、子機を放り投げてベッドに身体を投げ出した。

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genre : 小説・文学

プロポーズ

プロポーズ


僕はこうして、海との結婚の承諾を全てとりつけた。

でも…本当にこれで良かったのだろうか。全ての承諾を取り付けた後になって、僕はひどく不安になった。
もし、ここで健史が思い直して戻ってきたら、どうすれば良いのだろう。
それに、海は僕と本当に縁りを戻したいと思っているのだろうか。あの状況下ではそんな事も確認できなかった。結局僕は、これ幸いにと僕の気持ちをごり押ししたに過ぎないのではないか、そう思った。

夕方、海が確実に帰っている時間を待ちわびて僕は彼女に電話を入れた。
「結城君、昨日はどうも。考えてみたら、倒れた夏海ちゃんを病院に運んでくれたのに、お礼を言ってなかったわね。ありがとう。」
「いえ、僕の責任ですから。お礼なんてとんでもないです。夏海さんは?」
「今、部屋にいるわ。電話、夏海ちゃんのところに持って行くから。」
海のお母さんの態度もそれまでとは明らかに違っていた。

「海、身体はどう?」
「うん、大丈夫。もう何ともないから。」
後から考えると、電話だから僕がそうしたって意味はないのに、僕は自然に声を潜めていた。
「ねぇ、お義母さん、側にいるの?」
「ううん、もう行ったよ。」
それに連られてか、海の声も小さくなる。
「明日、ご両親は?」
「日曜だから、家に居ると思うけど。それがどうしたの?」
いきなり彼女の両親の所在を聞いた僕に海は怪訝な声で返した。
「あの人に話したんだ、今日。こんな事態だから入籍だけでもってね。そしたら、即座にちゃんと式を挙げろと言われてさ、それで、明日妙子さん…あの人のパートナーなんだけど、その人と正式な挨拶に行きたいと思うんだ。それで、そっちの都合を聞いて欲しいと思って。」
「多分大丈夫だけど…ホントに明日?」
海は軽く驚いている様子だった。こんな事態だからって事は解ってはいるけど、僕も彼女もここまで早く事が進展するとは思っていなかった。

そして僕は、一番不安に思っていた事を口にした。
「でさぁ、僕…あんなこと言って良かったのかな。海の意志なんてまるで無視して結婚話進めちゃったけど…」
「ううん、嬉しかったよ。」
僕は海の返事にひとまずホッとした。
「でも、健史が戻ってきたら、僕はどうすればいいのかな。」
「たぶん、彼はもう私の所には戻って来ないわ。龍太郎は彼がもう戻ってくるなんて思ってないんでしょ?だから結婚しようって言ってくれたんでしょ。でないとこの子がって…ありがとう。ウチはたぶん、そういうの許してくれないと思うから…」
一応お義母さんは側にはもういないらしいが、海は声が洩れる事を心配してか健史の名前は出さなかった。シングルマザーにはなれないと言いたかったのだろう。海本人が希望したとしても、決して許されないと。
「だから、本当に嬉しかった。でも、龍太郎のほうはそれで良いの?」
僕の子供でもない子を宿した君を、すんなり受け入れる僕の事が海には理解できないのだろう。本当の事情を言えば良いのだろうけれど、昨日の事を考えると僕はまだ言うのは怖かった。本当のことを知ってしまったら、彼女は僕のことを憎むかもしれないと思ったからだ。だから僕はこう返した。
「病院で言った事は全部僕の本心だよ。海を失って初めて僕がどんなに海を愛していたのか痛切に解った。子供が僕の子じゃないなんてそんなの問題じゃないんだ。僕は君と一緒にいたい。この子が居てくれてこんなにとんとん拍子に話が進むんだもの、むしろ感謝してるよ。
それでね、全部お膳立てしてしまった後に言うのはすごくアンフェアだとは思うんだけど、海…僕と結婚してくれますか?」
電話の向こうで海が泣いているのが判った。
「こんな私で良いの?…」
「君じゃないとダメなんだ。」
「はい…こんな私で良かったら、喜んで…」
海はそう返事してくれた。

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謝罪

謝罪


「妙子さん、わざわざすいません。」
日曜日の朝、僕は妙子さんを迎えにあの人の家に行った。
「龍太郎さん、今日だけはそれ、お止めください。あちらは私どもの事情はご存知ないのでしょう?」
いつもどおり、彼女を呼んだ僕は、彼女に笑ってそう窘められた。
「あ、海…彼女にはとうに話してありますよ。でもご両親には何も。でも、妙、いやお義母様もその言葉遣いは変ですよ。息子の僕に敬語だなんて。」
「お互い様って事かしらね。でも、私にできますかしら。」
「できなくてもやっていただかないと困るんです。」
「そうですね、それで龍太郎さんの一生が変わってしまうかもしれませんものね。じゃぁ、本当に私頑張らないと…じゃぁ、龍太郎さん、案内してくだ…くれますか?」
妙子さんは、はにかみながらそう言うと僕の背中を押した。

そして、妙子さんは本当に一生懸命僕のために海の両親にとりなして謝罪し、僕たちの結婚を進めようと頑張ってくれた。それで、僕ではどうにもできなかった彼女のお父さんの態度が軟化した。
「いいえ、ウチは娘が幸せになってくれる、それだけで良いんですよ。子供ができたからと言って、いきなりお宅のようなところに嫁にやるのは不安だと思われませんか。」
「ごもっともです。でも、わたくしも同じ立場ですので、でき得る限りお嬢様が辛い立場に立たないようにさせていただきますわ。」
「そこまで言っていただけるのなら…」
「ね、龍太郎さん、あなたも夏海さんを守らなきゃならないんですよ。お義父様によくお願いして。」
妙子さんはそう言うと僕の頭を押さえつけて下げさせた。彼女の手の温もりが僕の頭から心に伝わってきて、鼻の奥が痛むのを感じた。

その時、僕は心の中でこんな事を思っていた。
-母様ごめんなさい、僕は一瞬だけど僕が妙子さんの本当の子供だったら良かったのにと思ってしまいました。
母様だって、あの人が妙子さんを選ばなければ、僕の側にいて僕のために同じことをしてくれたでしょうに…-

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genre : 小説・文学

準備

準備


月曜日、僕は尚行方の分からない健史の捜索願を友人としてまた会社の同僚として提出した。
大学3年の時に母親を失った健史には表向き身寄りはなかった。しかし、彼の父は生きている。生きてはいるのだが、彼の母は父親に彼が生まれた事すら知らせてはいないらしい。

しかし、存在自体が掻き消えてしまったような彼のことに、一生懸命になれる時間は僕たちにはなかった。
海は少し悪阻もあったが、退職にむけ、仕事をセーブしてもらいながら後輩の女の子に引継ぎを始めた。
「彼女、依存傾向の強い子なのよ。何かいつまでも居て欲しいって顔をされるのよね、毎日。」
と、それをまんざら嫌がってもいない様子で話す。海も内心名残惜しいのだろう。

そこに結婚式の準備が入る。大体は石動さんと久米さんというブライダルコーディネーターの女性が段取りを進めてくれてはいるが、海の親戚、・会社の関係者、お互いの高校・大学の友人などの招待客のリストアップは僕たちでないとできない。

また、式だけではなく、その後の新居、新居に運ぶ荷物など…準備は挙げればきりがない。それを海の身体の状態が一番いいであろう6ヶ月の半ば過ぎまでに全部やりあげようというのだから。

ただでさえ、結婚というものは煩雑だ。でも、その煩雑さをかっ飛ばす事を軽んじるものがいるのも今回なんとなく解る気がした。軽い気持ちで結び合えば、軽い気持ちで別れるのではないかと考えるのだろう。
しかし、どんなに豪華な、それこそ〇億円の結婚式を挙げた芸能人があっという間にあっさりと別れることだって良くある事だとは思うんだけれど…
それこそ、『自分の結婚式こそ自分のものではない』と、あの人が言う通りなのかもしれない。癪に障るし、あの人の意見になんか同調したつもりなんじゃないけどね。

そんなこんなで、僕たちはこの日、衣装合わせを迎えた。

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僕の…天使

僕の…天使


「ウフフフ…龍太郎様、惚れ直しました?口が半開きになってますよ。」
純白のウエディングドレスを纏って僕の前に現れた海を見ていた僕を見て、久米さんはそう言って笑った。ふわふわとしたレースのフリルに包まれた彼女はまるで天使のようだった。
「あ…」
僕は慌てて口を閉じると、海から目線を外した。
「龍太郎、ちょっと…子供っぽいよね。」
海はそう言うとはにかんで笑った。
「ううん、そんな事ないよ。とっても素敵だよ。」
僕は彼女にそう言って微笑み返した。
「スイマセン、夏海様はもっとすっきりしたシャープなデザインがお好みだって解ってるんですけど、こういうデザインのほうがお腹が目立たないんですよね。
にしても、夏海様って天然の縦ロールをお持ちだし、まるでお姫様みたいなんですもん。で、ついついコーディネートの方も甘めのテイストにしちゃいがちなのかもしれませんです。」
久米さんがドレスの細部のチェックをしながらそう言った。
「この格好、本当に素敵だよ。まるで天使みたいだ。何となく誰にも見せたくないなって思ったよ。」
それを受けて僕も見たままを言っただけだった。
「うわぁ、ご馳走様です。もう、当てられちゃうな。そっか、龍太郎様って実はやきもち焼きですもんね。」
しかし、久米さんにやきもち焼きだなんて言われて驚いた。
「だって、夏海様に子供ができたことをケンカしていた龍太郎様に素直に言えなくて、梁原さんでしたっけ…に相談してたのを誤解して怒鳴っちゃったくらいなんでしょ?聞きましたよぉ、龍太郎様のプロポーズまでのけ・い・い。」
ヤキモチ焼きだと言われて驚いた顔をした僕に、久米さんはウインクをして答えた。
「私も君なしの人生なんかあり得ないて言われてみたいですよ。」
「海、そんな事まで言っちゃったの?」
それを聞いて僕は苦笑した。ただ、女性は結婚までの経緯を根掘り葉掘り聞かれる事は多いから、海はあの日、僕が言ったことを逐一しっかり覚えていて、辻褄の合う話に組み立てて回りに言わせられているに過ぎないのだろう。
「ごめんね。」
「良いよ、ウソじゃないんだし。」
そして、その僕を気遣う仕草も、それに対する僕の受け答えも、結婚を間近に控えているというフィルターにかかれば、とんでもなく甘い惚気話にすり替わる。
「はぁ…私、ホントにお邪魔ですね。でも、何か聞きましたけど、梁原さんって人行方不明なんですってね。」
「ええ…」
しかし、僕が久米さんがそう言った時の海のなんとも言えない悲しい表情を見逃さなかった。
彼女は…
そして、どんな気持ちでこの馴れ初め話をしたのだろうか。

「龍太郎まで、あんな事言うんだもの。私になんかホントは白を着る資格もないのに。堕天使にさえなれないわ、絶対に。」
久米さんが席を外した時、海はぽつりと僕にそう言った。

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本当のこと

本当のこと

衣装合わせを終えて、僕たちは新居へと向かった。

「ねぇ、こんなに全部買い換えなくても良かったんじゃない?台所用品なんかは、使い勝手のいいものもあるんだけど。
それにしても、普通はできるだけあるものを使おうとするわ。こういうとこ、お金持ちってついていけないのよね、なんだか不安。」
パソコン・オーディオなどの僕が趣味で買い集めたものは別として、家電製品や家具の類は全て新しいものを買って新居に配置させたし、掃除もクリーンサービスを手配し、結婚式直前に届く彼女の荷物の荷解きも業者に手配済みだ。本当は荷造りにも派遣させると言ったのだが、
「思い出をかみ締めながらゆっくり荷造りするのも良いものよ。」
と拒否された。小マメな海は本当はそうして人に介在されるのを嫌うのは知っているけれど、これ以上ばたばたと準備に追われ、また海の体調が悪くなりでもしたらと僕は不安で仕方ないのだ。
「使い勝手の良いものがあるんなら、僕に言ってよ。僕がここに運んでおくよ。不安だなんて言わないで欲しいな。僕の生まれた環境は僕にもどうしようもないんだから。」
だけど、そういう心配も彼女は嫌がることも解っているから、家のせいにして、僕はそう返した。

それから徐に僕はこう言った。
「僕、どうしても海に話して置かなきゃならない事があるんだ。」
今日、久米さんと僕たちが結婚する事になった経緯のことで話したとき、ようやく決心が着いた。やっぱりこの事は一緒になる前に話して置かなきゃいけない。
「何?そんなに改まって。」
海は僕の真面目くさった顔に吹き出しながら返した。
「ねぇ、海は…健史の本名を知ってる?」
そして、僕は彼女にこう尋ねた。
「ホント何よ?!健史に梁原健史以外の名前でもあるって言うの?」
そう言うと海は大笑いした。だけど、
「それは通称名だよ。梁原健史は通称名、本名は梁 健史(Yan-Kenzi)。彼は在日外国人だってこと、知ってた?」
僕の続く発言を聞くと、海の顔は一瞬にして青ざめた。

-*-

「彼は三世だし、もっと正確に言うと父親は日本人だから、本当は国籍の問題は無いはずなんだけどね。彼の母親は父親に内緒で彼を生んで育てたらしいから、彼の国籍は母親のものと同じなんだよ。」
「どうして…」
「彼の父親が代々高名な政治家の家系だったからだよ。父親は長男ではなかったし、その当時は政治の世界に興味もなかったらしいから。彼らはお互いを知る前に恋に堕ちた。
母親は一般人ならともかく、政治家の一族の妻に外国籍の自分がなれる訳がないと、何も言わずに父親の前から姿を消したらしいよ。だから、父親はたぶん、彼女が外国籍であることも、健史という存在も知らない。
案の定、その後父親は政界に打って出たから、彼女のその選択は間違ってなかったと思うけど。名前を聞けば知ってるんじゃないかな。国会議員の諏訪正治(まさはる)。」
僕は僕が知っているだけの健史の出生の秘密を海に告げた。
「えっ、あの諏訪正治…」
有名な政治家の名前に彼女は軽く声を上げた。
「でも、僕が本当に言いたいのは、健史の秘密なんかじゃないんだ。それは、僕自身のこと…
驚かないで聞いてくれる?僕には…子供をつくる能力がないんだ。医者に僕の精子の数は、普通成人男子の10%あるかないかだと宣告された。実はあんなふうに女性を自分の部屋に上げたのも、海が来たあの日-あの時一回こっきりだったんだ。あの日はまさにその宣告を受けた日でね、もう何もかもどうでも良くなっていたんだ。」
海は驚いてしまって、もう声も出ないような状態だった。安定期に入っているとは言え、まだこの話はすべきではなかったのかもしれない。だけど、今話さないと僕は一生話せないと思った。
「でね、僕…別れるって健史に電話したんだ。そのときに正直に彼にだけはその事を話した。彼が君を好きな事がわかってたから、同じ誰かに取られるのならいっそのこと健史が良いって、そう言った。そしたら、『俺と一緒じゃ倉本は絶対に幸せになれない!』って怒鳴ったんだ。」
聞いている海の眼に涙があふれてくるのが判った。
「なのに、あの日-健史がいなくなったあの日に彼の部屋の前で海を見たときはホントに胸がつぶれそうになったよ。あんな事言った癖にやっぱりって…って。だから…」
そこで僕の声も不覚にも涙で途切れた。
「だから…海を頼むという手紙を読んだ時、もし健史が戻ってきたらどうするかなんて思わずにもう、がむしゃらに自分のものにしようとしてた。君の意志なんか全く無視して、いきなりご両親に結婚させてくださいだなんて言って、さっさと僕の方でも承諾を取り付けて…もう彼が思い直して戻ってきたって絶対に君を返したりしてやらないんだって…」
そして、僕は首を垂れて言った。
「ゴメン、たぶん海は健史を待っていたと思うけど、僕は心のどこかでどうか二度と現れてくれるなと思ってた。僕はどんなに今から頼まれたって、君も子供も返却なんかしないって…」
「ありがとう…」
すると、海は僕にお礼を言ったので、僕は驚いて顔を上げた。
「ありがとう、龍太郎、正直に言ってくれて。私、やっと解った…健史の本当の気持ちが。私…私…本当に嬉しい。」
「どうしてお礼なんて…僕があんな事さえ言わなければ、僕と別れた後、君たちは自然に結ばれて…彼は拘っていたみたいだけど、国籍の問題だって子供ができたと分かれば乗り切れたんじゃないの?」
「ううん、そんなんじゃないの…龍太郎は解らなくて良いの。私は健史の本当の気持ちが解ったから。本当に愛してるってわかったから…それで、充分。龍太郎も、健史との子供だって分かっててそれでも結婚して欲しいって言ってくれた訳が分かったから。」
海は涙を流しながら、何度も頷きそう言った。
「健史が僕たちのことを my precious-僕の宝物って言ってくれたように、僕にとってもこの子はかけがえのない宝物なんだよ。」
そして、僕は海をそっと抱きしめて言った。
「3人で世界一幸せになろうよ。」

-*-

でも、僕にまだ1つだけ気になることが残った。
「ねぇ、それならさっき、どうして健史の国籍の事をいた時、顔色を変えたの?」
僕はそれを率直に尋ねた。
「私はそんなの何とも思ってないの。でも、親たちはね…ぎりぎり戦争を体験している世代だもの、そういう軋轢もいっぱい見てきたのよ。常々、『二つの祖国を持つのは不幸だから。』ってはっきり言われてたわ。私、健史がそうだとも知らなかったし、彼にはそんな話一度もしたことはなかったんだけど…でも、感づいちゃったのか、それともお母さんが何か言ったのかなとか…そう考えたら悲しかったの。」
「そう。」
「もう今は平成なのにね。」
海はぽつりとそう言った。
「そうだね…だけど、僕も健史に言ったんだ。『関わる役者が代わらないと時が昭和から平成になろうが何も変わらないんだって。』そうずっと思ってた。」
海ははっとしたように僕を見つめた。
「でも、いつの間にか時は経つよ。そして時代は平成に…僕たちの時代になっていく。これからは変わるよ。ううん、僕たちが変えよう。」

僕の告白を海が本当のところどういう風に受け止めてくれたのかは正直分からない。でも、何だか、それからの海は全てを吹っ切ったように僕には思えた。

そして、彼女は妊娠6ヶ月の終わりの頃、僕の許に花嫁としてやってきてくれた。

当日はかつての友人が挙って祝ってくれた。当然その中には健史の姿はなかった。

ありがとう君がいたから今日の日が迎えられた。
君にとっては世界の滅亡の日なのかもしれないけれど。
どこで何をしているの、今。
せめて一言お礼が言いたい。
僕は誰にも聞こえないように、そっとその言葉を舌に乗せた。

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genre : 小説・文学

新しい時代

新しい時代


そして海は夏、男の子を産んだ。名前は秀一郎とつけた。
みんながそのかわいい姿にメロメロになった。
中でも一番はおばあ様。あれほど苦々しく本当に渋々といった感じで僕たちの結婚を承諾したのは誰なのかと、僕が時々彼女がいない場所で毒づくほどおばあさまは曾孫に夢中だ。

海もそんなおばあ様を僕のようには邪険にはせず、頻繁に本家詣でをするし、その際にはかならずと言っていいほど料理好きな海は彼女の好みそうなものを自作して携えていく。

また、海は母様のところにも秀一郎を連れて行く。
母様はあの人が妙子さんを選んで結城の家に帰らなくなってから、趣味に生きる生活をしていた。
でも…心の中ではあの人を求めていた。それに誰も気付かなかった。傍目にはとても楽しそうに生活を送っているように見えたのだから。
そんな母様にあの人は何度か離婚を申し出たらしい。でも、母様は拒んだ。
「君は君の幸せを掴んで欲しい。」
あの人はそう言ったらしいけど…母様にとっては、幸せは“あの人”でしかなかったのかも知れない。
母様は徐々に壊れていった。何度ものリストカット、そして心はあの人と出会う前の少女の頃に…
今は1人、施設に暮らしている。
「お義母様ね、秀一郎を見るとすごく優しいお顔になるのよ。でもね、ちょっぴり辛いの。たぶん、お義母様には秀一郎の本当のことが分かってると思うのよ、だから…」

そんなできた嫁を誰も非難するものなどあろうはずはなく、子供ができないと分かった時に僕がした別れの決心など無駄な取り越し苦労だったのかも知れないと、そんな風にも思ったりもした。
でも、それは少し違うのかもしれない。秀一郎がいてくれたからこそ、秀一郎が健史の子供であったからこそ、僕も海も周囲に優しくなれたのかもしれない。

僕たちの宝物-秀一郎は、健史に似て優しく、明るく、そして賢く育っていった。

だけど結婚して7年…僕たちに予想もしなかった事態が起こった。

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海の不調

海の不調


仕事から帰ると、いつもは独楽鼠のように動く海が、その日はソファーで転寝をしていた。実はその日だけではなく、最近は転寝まではいかないまでも、ぼんやりとしている事が多い。
「海、風邪引くよ。」
「あ…うん。おかえりなさい、もうそんな時間?」
僕の呼びかけに、うみはだるそうに眼を開けてそう言った。
「お母ちゃま、お腹空いたよ。ご飯まだ?」
その時、リビングで遊んでいた秀一郎がそう言った。
「あれ、ご飯まだだったの?先に食べてればいいのに。」
「だって、お母ちゃま『食べようね。』って言いながら寝ちゃったんだもん。」
見ると食卓の上には3人分の夕食が乗っていた。やっぱりおかしい…
「じゃぁ、早く食べよう。」
「うん!」

そして、3人で夕食を囲んだ。
しかし、海は元々食のあるほうじゃなかったけれど、ますます細く…というかほとんど何も手をつけていなかった。
「海、ちゃんと食べてる?」
「う、うん…食べてるよ。」
「ウソばっかり、ちっとも食べてないじゃないか。」
僕はほとんど手付かずの彼女の皿を示しながらそう咎めた。
「食欲ないんだもの。後で野菜ジュースでも飲むから…」
僕の言葉に海はおずおずとそう言った。
-野菜ジュース-すんなりとそうした言葉がが出てくるという事は、彼女はそれまででも野菜ジュースで済ませてしまうことが往々にしてあるという事なのだと僕は思った。
「明日、病院に行く。」
意を決して僕はそう言った。
「えっ?龍太郎、どこか調子悪いの?」
僕がそう言うと、海は驚いてそう返した。
「違うよ、君を診てもらう。僕も一緒に行くよ。」
「私?私は…病気じゃないわよ。」
しかし、自分を診てもらうのだと言われて、海はそう返すと僕から眼を背けた。
「ダメ、最近いつもだるそうだし、ほとんど何も食べられないんでしょ?僕が気付いてないとでも思ってるの?」
「あ、うん…それでも龍太郎が仕事を休んでまで一緒に来てくれるようなことはないから、自分1人で行けるわ。」
海は何だか必死にそう答えた。それが、僕にはなおさら重大な病をひた只隠しにしているように思えて、語気を強めて言った。
「そんなこと言って、忙しいとか理由をつけて行かないつもりでしょ。普段ちゃんと仕事してるから、僕は1日くらい急に休んでも平気だから。もう、僕は決めたからね、明日は朝から君と病院に行く!分かった?」
「はい…」
反論したそうな眼をしたけど、有無を言わせないような僕の提案に、海は渋々首を縦に振った。

翌日、僕たちは秀一郎を送り出すと同時に家をでて、病院に向かった。

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海の病気

海の病気


病院に到着した海は受付で受診科目を「婦人科」と告げて問診表をもらった。
「婦人科」?!僕は今日、内科を受診させるつもりで来たのに…
昨日の態度と言い、彼女に何らかの自覚症状があったのは明白だった。
?かなり悪い結果も覚悟しなきゃならないな?
僕は神妙な面持ちで座っている海の横顔を見ながらそう思った。

「結城さん、結城夏海さん2番にお入りください。」
そんなアナウンスを受けて診察室に一人入った海。
しかし、程なく僕は中から出て来た看護師に、
「結城さんのご主人ですか?先生がお呼びなんで、お入りください。」
と、中に入るように促された。
僕は唾を呑み込むと、恐る恐る海の入った診察室の半自動の引き戸を開けた。
中には40代半ばと思われる男性医師が笑顔で座っていた。
「結城さん、奥さんがどうしても私からご主人に話して欲しいと言われましてね、おめでたです。最終月経から考えると、今10週というところですかね。」
僕は自分の耳を疑った。海が妊娠してるだって?!
「まさか…そんなまさか…」
「奇跡が起こったのよ。」
海が眼にいっぱい涙をためてそう言った。
その様子を見て医師はカルテを見ながら首をかしげた。
「奇跡って…奥さんは経産婦さんなんですよね。」
「あ、奇跡って2度は起こらないと思ったものですから。」
海が慌ててフォローした。
「子供の頃の病気の治療が原因で、精子の数が極端に少ないと言われたので…2人目の子を授かるなんて思ってなかったから…正直信じられない。」
僕もそれに続いてそう言った。
「そういうことですか。それで、病気は完治されているんでしょう?それに、前の妊娠から7年もたっている訳ですし、特に避妊などされてない状態なら、そんなに驚く事態でもないと思いますよ。」
僕の言葉に医師はそう返した。
「それにね、医者の私がこんな事を言ってるのが分かったら、叱られるかもしれませんがね、人間の身体って、結構心に左右されるものなんですよ。祈り続ければガンだって消えたり、位置が変わったりするんです。」
「えっ?!」
医師のその言葉に、僕たちは同時に驚きの声を上げた。
「実は私の妹は末期の肝臓癌だったんです。しかも手術では切除できないような位置にあった。妹はその時結婚四年目で2人目の子供を授かったばかり、まだ生後6ヶ月でした。
『この子達を残しては死ねない』って妹は、毎日毎日泣きながら祈り続けていました。
そしたら奇跡が起こったんです。がん細胞が消えるようなことはありませんでしたが、すぐに切除できる位置に移動していたんです。早速手術して、悪いところを全摘することができました。
今から、12年前の話です。」
「で、その妹さんは?」
「今も元気ですよ。この春は、そのまだ赤ん坊だった下の子のお受験に親子共々走り回れるくらいに。
お2人とも、もう1人欲しいと、心から願っておられたんでしょ?」
「ええ…ええ。」
海は頷きながらそう答えた。
「だったら何度だって奇跡は起こると、私はそう思いますよ。現にここにこうしてあなた方の新しい命がはっきりと映し出されている。」
そう言いながら、医師は海のお腹にエコーの端末をあてた。
「ありがとうございます…ありがとうございます…」
泣きながら何度もお礼を言う僕に、
「おかしなご主人ですね、私は事実を言ったまでですよ。」
医師はそう言って笑った。

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相応しい時

相応しい時


「となったら、是が非でも海にちゃんと食べてもらわなきゃね。でなきゃホントに今度は長期入院モノだよ。さあ、言って。何が食べたい?」
僕は病院を出るときワザと明るくそう言った。
「…じゃぁ、ケーキ、チョコレートケーキが食べたい。」
「ケーキ?!しかも、チョコレートケーキなの??」
だけど、海から返ってきた答えに僕は驚いた。海はお酒好きで甘いものは本当に苦手。酒好きの人のことを左党と言うひとがいるけれど、左利きの海にはぴったりだと思った事がある。そんな彼女がチョコレートケーキだなんて。
「何か無性に食べたいのよ。お願い、それなら食べられると思う。」
それで、僕たちは病院近くの喫茶店に入った。
「秀一郎にも買って帰って一緒に食べようと思っていたのに。」
海はそう言いながらも、おいしそうにそのチョコレートケーキを食べた。ちゃんとエコーでも確認したんだし、僕は彼女の妊娠を事実だと受け止めてはいるんだけど、このビックリするような食嗜好の変化で尚更深くそれを実感した。
「どうして隠すような事したの。君は妊娠してるって気付いてたんでしょ?だから、僕が一緒に病院に行くのも拒んで…」
僕は海の文句に答える代わりにそう言った。
「二人目だから…」
非難がましい僕の言い草に海は悲しい表情でそう答えた。
「ねぇ、ホントに僕の子供なの?」
「当たり前でしょ?!他に誰の子供だって言うの!」
だけど、僕がそう言うと、海はキッと睨んで怒った。
「じゃぁ何でそんな顔してるの。僕の子供なんて嬉しくないんだ、そうでしょ。」
「違うわよ、嬉しいわよ。飛び上がりたくなるくらいホントに嬉しいわよ!ただ…」
「ただ?」
「私、怖いの。龍太郎との子供が産まれたら、龍太郎が秀一郎を見る眼が変わるんじゃないかと思って…」
そんな涙をいっぱい溜めて言った海の言葉に、僕は胸を抉られた。
僕は海が健史の事を7年経っても忘れていなくて、僕の子供を妊娠したことが辛いのだと思っていた。
そう…僕はその事に戸惑っていた。こんな風に時間がかかっても子宝に恵まれた事で、健史のしてくれた事が全部無駄になってしまったような気がしたから。
僕があの時、一度手を離したりしなければ…健史は今も僕たちの側にいて、僕らを応援し続けてくれてこの日が迎えられたのではないかと思うと、ものすごく自分が責められて…その裏返しで僕は海についきつい事を言ってしまっていた。
しかし、海にとっては、どちらも自分の血を分けた子供だ。この子が産まれることで、秀一郎と僕との関係が変わってしまうことを彼女は怖れている。
僕は、そんな事にも気付いてあげられずに一方的に海を攻めようとしていた自分を恥ずかしく思った。

「ねぇ、海は僕が子供ができないんだとカミングアウトした時のことを覚えてる?」
僕がいきなりそう言うと、海は目を見開いて僕を見た。
「秀一郎はぼくにとって、my precious 僕の宝物だって言った事。それは今でも変わらないよ。ううん、むしろ今の方がずっと…生まれてくる子供が縦しんば男の子でも、結城の跡取りは秀一郎以外にはいないよ。本当に健史はどうしてこんなにかわいい子を置いてどこかに行けたんだろうかって不思議に思うよ。
ゴメンね、僕が一度手を離したばっかりに、海に余計な苦しい思いばかりさせるね。」
僕がそう言うと、海は静かに頭を振った。
「龍太郎…龍太郎も自分を責めたりしないで。ありがとう、そこまで言ってもらえるなんて…でもね、健史はきっとこの事を喜んでくれるはずよ。『そら見たことか、何にもお前らに障害なんてなかったろ。』って声まで聞こえる気がする。
私、思うの。あのまま龍太郎が本当のことをだれにも言わずに隠し続けたとして、私たちがずるずるとあのままの関係を続けたとしたら、そして今のタイミングでしか私達に子供が授からないんだとしたら…きっと私たちそれまで持たなかったって。大体、ウチのあのおかあさんが、この年まで私を誰とも結婚させないでいさせると思う?」
「海はお義母さんにはホントに手厳しいね。でも、あの時何も言わずにすんなり許してくれたのが却って気持ち悪かったんだけどね、僕も。」
僕は海の言葉に頷きながら答えた。
「だから、私たちにはこれが一番相応しい時だったのよ。たぶん、健史にとっても…」
海は涙を流しながら笑顔でそう言った。
「健史にとっても?」
「ううん、なんでもない。健史、今どこにいるのかしら。」
「ホントに。今どこで何をしてるんだろう。」
海は最後の言葉を濁した。彼女は何を言おうとしたんだろうか。僕はひどく気になったけれど、彼女の顔を見ていると、聞いても答えてはくれないだろうという事がなんとなくだけど分かって、僕はそれ以上詮索するのを止めた。

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融け出した万年雪

融け出した万年雪


海はその翌春、女の子-ほのかを産んだ。海は生まれてきた子が男でなかったことにとても安堵している様子だった。

そう、それくらい成長するにつれて秀一郎は健史に似てきた。
ただ、彼をよく知らない僕の一族の者たちにとっては、海の親戚によく似ていて自分のほうにはちっとも似ていないのだと思ったにすぎないだろうが。

当の秀一郎も、真実など露とも知らずに元気に明るく育っていった。

そして…僕たちが結婚して20年という月日が流れた。

「地球温暖化が叫ばれて久しいけどさ、ついに北アルプスの万年雪も一部融け出す事態になっているらしいよ。」
ある日の朝、新聞を見ながら僕は海にそう言った。
「そうだ、結婚20年の記念にアルプスにでも行こうか。結局新婚旅行にもいけなかったしね。」
「へぇ、どうして新婚旅行に行かなかったの?」
すると、横で急いで朝食をかき込んでいた秀一郎が食いついてきた。
「母様のお腹にお前がいたからだよ。」
だから、僕はにやっと笑ってそう言った。
「うわっ、父様と母様ってデキ婚?!真面目そうなのに…」
「あら、真面目だからそうなるのよ、お父様は適当に遊んだりなさらなかったわ。」
「それって、母様一筋って言いたいんでしょ。ホント、わが親ながら恥ずかしくなりますよ。」
大学生になった秀一郎はそんな生意気な口を利くようになっていた。
「でも、何でアルプス?そりゃ、アルプスなら景色も良さそうだけど…もっと近場でも良いんじゃない?」
「痛っ、母様痛いよ。」
秀一郎の言い草に海は彼の額にデコピンを与えながらそう言った。
「今のはお前が悪いよ。アルプスの事は…この記事をみたから、気分だよ。」
僕は口ではそう言ったけど、本当はそうではなかった。

そこは健史の父親の地盤、つまり彼のふるさととも言える土地だった。
あれから僕は密かに探偵を雇って何度か健史の消息を調べさせていたが、彼の行方はようとして知れない。
今年は結婚20年、つまり健史が失踪してからも同じ月日が経ったという事だ。
その節目に彼のルーツである土地を見てみたい。そう思ったのだ
もしかしたらそこで、彼に会えるかもしれない。
そしたら、彼に成人した息子を是非見せてやりたい。

しかし、数日後…僕は警察から1本の電話をもらう事になる。

-*-

「結城龍太郎さんですね。」
「はい、そうですが…」
「こちら県警の蓮谷と申しますが、溶け出してきた〇〇岳の万年雪の中からですね、遺体が出てきたんですよ。あなたに是非身元確認をお願いしたいと思いましてね。」
所轄署の刑事、蓮谷はねちっっこい声でそう言った。
「確かあなたですよね、20年前に梁原健史さんの捜索願を出しておられたのは。」
「は、はい…彼には身寄りがなかったものですから、職場の同僚として私が…」
「では、おいでいただけますか。」
「分りました。伺います。」
僕は電話を切ってからこぶしを握り締めながら大きくため息を吐いた。

健史が遺体で…
彼が既に死んでしまった事を聞いて、ビックリしている僕と、妙にその事を納得している僕がいた。
〇〇岳と言えば、ついこの間新聞で読んだあの山の事だ、やはり、健史は僕を呼んでいるのかも知れないと思った。
僕はそれから慌てて仕事の段取りをつけると、海に電話を入れた。

「海、健史が見つかったそうだよ。」
「ホントに?!どこで!」
健史が見つかったと言うと、海の声は跳ね上がった。
「僕がこの間言ってたアルプスの溶け出した万年雪の中で…遺体で見つかったそうだよ。僕が捜索願を出してるから、身元確認依頼の電話が今あったんだ。」
「そんな…ウソ…」
そして、事の詳細を伝えると、電話からでも呆然としている海の様子がこちらにまで伝わってきた。
「だから、これから身元確認に行って来るよ。だから、今日は帰れない。」
「ねぇ、私も連れてって!」
すると海も同行すると言い出した。
「君が行っても辛いだけだよ。あれから20年あまりも経っているんだし、変死だもの、どんな状態で見つかったかは聞いてはいないけど…」
20年の間に彼にも風貌の変化はあるだろうし、逆に、あれからすぐ健史が亡くなっているのだとしたら、身元が特定できるものが一緒にあったから連絡があっただけで、もう健史だとは分らない状態になっているはずだから。
「それでも良いの…私一目で良いから健史に会いたい。」
でも、一目でも彼に会いたいという気持ちも痛いほど解った。
「じゃぁ迎えに行くよ、待ってて。」
僕は海を連れて行くことにした。

-*-

僕は海を連れて行くために一旦自宅に戻った。彼女も僕が帰るまでに、急に出かけなければならなくなった事の置手紙を書き、子供たちの夕食の準備を済ませていた。
「ちょっと不安だけど、ほのかももう中学生だし、秀一郎がいるから大丈夫よね。行きましょう。」
海は、そう言いながら、バッグを手に取った。

しかし…いざ出ようとした刹那、突然の休講で秀一郎が帰宅してきたのだ。
「私たちこれから出かけるわ。今日は帰れないから、ほのかをお願いね。」
海は秀一郎にほのかを頼んで靴を履いた。
「今からどこへ行くの?」
「〇〇県警。僕たちがとっても世話になった方がアルプスの山で亡くなったって連絡があってね、身元確認に行くんだ。」
「今から〇〇まで?!僕も行くよ。」
「秀一郎!」
「車で行くんでしょ?母様は免許持ってないし、僕が一緒に行けば交代できるから。」
確かに1人で運転していくより、交代できるのは心強いが…彼の息子の秀一郎を連れて行くわけにはいかないと思った。
「ダメだ、観光旅行じゃないんだ。それにほのかが1人になる。家にいてくれ!」
「父様、何か必死だね。」
僕のただならぬ形相に秀一郎は笑って言った。だけど、そのニュアンスに僕は小さな違和感と寒気を感じた。微妙に息子にないものを感じたのだ。
そして、息子の顔をした男は、僕の背中を撫で、彼の母親に聞こえない様に耳元でそっと囁いた。
「それとも俺を連れてけない理由でもあるのか?ないよな。俺は当然、行くべきだろ。」
ぼくははっとして含み笑いをする彼を見ると、黙って頭を振った。

海は妙子さんにほのかを頼むと電話を入れた。それから僕たち3人は秀一郎の運転で目指すアルプスのふもとへと出発した。

-*-

後の席に無言で乗っている両親を尻目に、秀一郎は鼻歌交じりで高速を直走る。

しばらくすると、海が小刻みに震え始めた。
「どうしたの?寒い?」
僕がそう聞くと、海は黙って頭を振った。

そして、サービスエリアに着いた時、秀一郎は
「コーヒーでも買ってくるよ。」
と言って、車を降りた。海は彼が車から離れたのを見計らって僕に言った。
「ねぇ、あの子は一体誰?!」
と…
「決まってるじゃないか、息子の秀一郎だよ。」
僕の答える声も震えていたかもしれない。
「違うわ、今あの子が歌っていた歌って、あの子が生まれる前の…21年前のヒット曲だもの。」
流行の曲に疎い海が年代まで正確に言える歌、それは…
「あの歌、健史が大好きで繰り返し私に歌ってくれた歌なんだもの…ねぇ、あの子本当に私たちの秀一郎なの?!」
僕はそれに答える事ができなかった。

結局、僕は一度もハンドルを握ることなく、身元確認を依頼された所轄署にたどり着いた。
「結城さんですね、こちらです。ご案内しますよ。」
僕に電話をくれた刑事、蓮谷は秀一郎の顔を見て軽く驚いていた様子で、僕たちを健史が安置されている場所まで案内した。
「はっきりと特定はできませんが、あなたが捜索願を出された時とそう変わらない内に死亡されていたようです。」
蓮谷刑事はそう言いながら重い扉を開けた。

そこには、健史がおよそ20年あまり前の姿そのままで僕らを待っていてくれた。
「普通ならとうに白骨化していて、身元を特定できるものがなければ、判らないところだったんですが。氷漬けになっていた格好ですからね、亡くなられたそのままで発見されたって事です。」
彼がそう説明を加えた。
「健史!どうして…どうして20年も前に死んじゃってるのよ…」
海がその姿を見て、僕に縋りついて泣いた。
「確かに、私の友人の梁原健史に間違いありません。」
僕も必死に涙を堪えてそれだけを言った。

「ねぇ、何で?なんでこの人僕にそっくりなの?!ねぇ、父様、ねぇ答えて!ねぇ、母様、この人ただの友達なんでしょ?ねぇ、ねぇってば!!」
その時、後ろにいた秀一郎が突然叫び声を上げた。振り向くと彼は蒼白になって震えている。
「秀一郎!」
僕たちは同時に息子の名を呼んだ。しかし、秀一郎はその問いかけには答えず、口をパクパクさせると…魂が抜け落ちるように意識を失ったのだった。

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my preious

my precious


倒れた秀一郎は警察署の仮眠所で横にさせてもらってそこに海をつけると、それから僕は1人で健史の身元引き受けの手続きをした。
「すいません、この事はくれぐれもマスコミには内密に…発見された場所が場所だし…」
「息子さんのためにですか。解りました。覚悟の自殺という感じで事件性はないようだったし、なら、事を荒立てる必要はないですからな。」
事件を公表しないように言った僕に、蓮谷刑事はそう返した。
「しかし、また…今まで息子さんには知らせずにいたのに、なぜ今回連れて来られたんですか。」
そして、彼はそう質問してきた。
「私たちが出発しようとすると戻ってきて、どうしても一緒に行くと聞かなかったんです。たぶん、彼らの血が引き合ったのだと思います。」
「そうですか、不思議なことがあるもんですな。」
僕の答えに蓮谷刑事はずれた眼鏡を直しながらそう言った。
「では、ご苦労様でした。」
彼はそう言って右手を挙げると、別の仕事をする為に僕から離れた。


それからその日、僕らは近くに宿を取った。意識を取り戻したものの、秀一郎はそれから一言も口を利かぬままだ。
「だから言ったんだ。旅行じゃないんだから、一緒に来ないほうが良いって。」
僕は俯いたままの息子にそう言った。
すると、秀一郎は俯いたままヒクヒクと乾いた笑いを発し始めた。
「秀一…郎?!」
「ふはは…笑わせるねぇ、本当にそんな事思ってんのかよ。俺がいたから、事がスムーズに運んだってそう思ってんじゃねぇのかよ。」
そして顔を上げた息子を見て僕たちは息を呑んだ。顔を上げた男は、もはや僕たちの愛する息子の顔ではなくなっていたのだ。
「健史…」
僕はその顔を見て思わず“彼”の名前を口にしていた。
「龍太郎、久しぶりって言うべきか。」
「健史?ホントに健史なの?!」
僕は“彼”の腕を掴んでそう言った。それを聞いて“彼”は鼻で笑った。
「ねぇ、何で君は海の許を去ったりしたの?愛して…いたんだろ。海と一緒にどうして生きなかったのさ。」
僕が続けてそう聞くと、“彼”は昔“彼”がそうしたように、首筋を掻きながらこう言った。
「ああ、愛していたさ。自分の命も投げ出せるほどにな。
それにしても龍太郎、お前不惑も超えたんだろうが…いい加減そのしゃべり方はねぇんじゃねぇか?ホント、イライラすんだよ。」
そして、“彼”はそう言うと、僕の胸ぐらを掴んだ。
「止めて!」
横にいた海が慌てて止めに入った。それを軽々と片手で払いのけると、“彼”はこう言った。
「そうさ、お前がそんなお坊ちゃまなカワイイ口調で話すたび、俺はイラついてたんだよ。
ふん、まだ解んねぇのかよ。そうだな、お前は最初から夏海…夏海しか見てなかったからな。他の奴がどうであろうと知った事じゃなかったんだよな。」
「健史!それ以上言っちゃ…!」
「言わなきゃ、こいつには解んねぇだろーが。」
“彼”は薄笑いを浮かべてそう言いながら僕の頬を撫でた。
「俺が、ホントは誰を愛してたかなんてよ。」
と言った“彼”はねっとりと僕を見つめた。

-*-

それじゃぁ、健史が本当に愛してる相手ってまさか…
「ようやく気付いたようだな、お坊ちゃんよぉ。」
「バカな…僕男だよ。」
「ああ、俺だって男だよ。それがどうかしたか。」
“彼”はそう言うと、僕の顎を手で引き上げ、僕よりは10cmあまり高い“彼”と見つめ合うように僕の顔の角度を変えたので、反射的に僕は“彼”から眼を反らした。
「そうそうその態度、生半可な女より色っぽいってぇの。」
“彼”は僕の態度を見て面白そうに笑いながらそう言った。
「からかわないでよ。」
「からかっちゃいねぇよ。」
そう言うと、“彼”は軽くため息をついた。
「もうどうしようもないくらい…お前の事が好きだった。だから、お前が夏海に惚れてるって分った時、俺はお前ごと夏海も一緒に愛せた。俺言ったろ、『俺はお前たちが一緒にいるところを見てるのが一番の幸せ』だって。あれは、本心だったんだよ。
なのに…なのにだ、お前らは別れた。普通にケンカして別れたんなら俺もお前らがその程度の関係だったのかと幻滅して…俺自身もすんなり前に進めたかも知れない。
けど、理由が子供が持てないからだなんて、前時代的な理由で…しかもお互いに心から愛し合っていて-黙ってみてらんないじゃないか、何とかしてやりたいって思うじゃないか。」
「健史…」
「一旦は怒鳴って電話を切ったものの、お前の『関わる役者が代わらなければ、時が昭和から平成になっても何も変わりはしない。』って言葉が耳から離れなかった。子供さえいれば問題は解決する-このときばかりは男に生まれたことを感謝したよ。女じゃ、夏海と立場は変わらない。」
それじゃぁ…それじゃぁ…
「そんな!最初から僕のために海に近づいたとでも言うの?!」
僕がそう言うと、“彼”は肯いた。それから海の方を向いて言った。
「けど、一つだけ解んない。最初は俺、強引だったし、お前にも龍太郎に振られた痛手があったろうから、俺と寝たんだろう。でも、すぐには子供はできなかったよな。夏海、お前は俺が本当は龍太郎が好きだと気付いていたんだろ。なのに、本当の事情を知らないお前がなんで俺の許を去らなかったのかって事が。」
そうだ、海が子供ができないから僕が別れを切り出したのだと知ったのは、もう結婚も間近になってからだったのに。
「私たち、同志でしょ。同じ龍太郎を愛した。」
海は“彼”の手を握り、“彼”をじっと見つめてそう言った。
「健史、あなたが私の中の龍太郎を愛したように、私もあなたの中にいる龍太郎を愛していたのよ。そして、あなたが龍太郎を思う深い気持ちを感じる度に、私はあなた自身を愛していったわ。」
「バ、バカな…俺がこいつを思う気持ちを愛したって…」
海のその言葉に“彼”が驚きの声を上げた。
「あなただって、龍太郎ごと私を愛してくれたんでしょ?なら、同じ事よ。ねぇ、それとも好きになるのに、理由が要るとでも言うの?」
海はそう返した。
「だからあなたが龍太郎と縁りを戻せと手紙を残して消えたとき、私は龍太郎に流されるように縋ったわ。私にはあなたのした事の意味があの時解らなかったけど、あなたが意味もなく私を遊んで捨てたなんて思いたくなかった。だから、あなたとのつながりも全部消したくなかった…消せなかったの。そのためには私は龍太郎と結婚するしかなかったのよ。私は…シングルマザーになれるほど強くはなかったもの。あなたへの愛がなければ、秀一郎は産んでない。
そして、あの衣装合わせの日に、龍太郎が本当のことを教えてくれて、私あなたの愛の深さに胸がいっぱいになった。この手で赤ちゃんを殺さなくて本当に良かったと思った。」
「はははは…バカな…お前が俺を愛してなきゃ、秀一郎は産んでないって?!俺のしたことが全部無駄になってたかもしれないだって?!お前が俺を愛してるだって?!」
“彼”は壊れてしまったかのように引きつり笑いを繰り返しながら涙を流していた。
「そうよ、私は今でも…」
そして、続きの言葉を言おうとした海の唇を“彼”は眼を閉じて首を振りながら人差し指で押さえた。
「あーあ、夏海ってばどこまでお人よしに出来てる。こんなの全部ウソで、俺が遂げられない思いを恨みに思って復讐したに決まってんじゃん。」
と言った。
「違うわ!あなたは私たちの幸せだけを本当に考えてくれてる!!だから私は今でも…」
それでも海は涙を流しながらそう返した。
「もういい…それ以上は言うな。もう解ったから…ありがとう、夏海。」
“彼”は何度も頷きながら、海にそれ以上言わせなかった。
「龍太郎、それから夏海…お前らは俺の最高のpreciousだよ。俺はお前らの役に立てて本当に良かったって思ってるよ。俺は、今すごく幸せだから…夏海、泣くなよもう…そして、もう忘れろ。」
“彼”はそう言って穏やかに微笑むと-崩れるように倒れていったのだった。

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genre : 小説・文学

ありがとう…

ありがとう…


「健史!」
僕はそう言いながら倒れた“彼”を揺すぶった。
「うーん…あれっ、ここどこ?ウチじゃないみたいだけど。父様、タケシって誰?」
そして、程なくして意識を取り戻したのは…息子の秀一郎だった。
「北アルプスの〇〇岳のふもと、覚えてない?」
海がそう聞くと、秀一郎はこくりと肯いた。
「突然休講になってさ、家に帰りついたとこまでは覚えてるんだけど、何かぞわっと寒い感じがして…それから記憶がないんだ。だけど、休講くらいで家に帰った事自体謎なんだよな。」
そうやって、自分の記憶の糸をたどりながら息子はしきりに首を傾げた。
「お前がここまで1人で運転してきたんだよ。私の知り合いの訃報だから、落ち込んで運転を間違えてもいけないからって言ってくれてさ。」
「げっ、それもマジで覚えてないよ。ヤバイ…僕どうしたんだろ。」
息子は首を振りながら僕の言葉に返した。

「ねぇ、龍太郎…何だか違う気がしない?」
「何が?」
「顔よ。」
海に言われて、僕は秀一郎の顔をもう一度まじまじと見た。全く違う顔になるはずもないのだが、あんなに似ていると思っていた健史そのままの顔ではない。少し海に似ている部分が強調されたと言うのか…結城家で育った環境の影響でおっとりとした面が表立った言うのか…印象が違っていたのだ。たった何時間かの間にである。

健史は本当に逝ってしまったのだと僕は悟った。
「ああ…確かに。」
「ねぇ、なに2人で僕の顔見てこそこそしゃべってんの?なんか感じ悪いよ。変だよ。記憶がない僕が一番変だけどさ…」
そして、1人でボケてつっこむ姿に、僕は涙が出た。隣を見ると海も泣いていた。

健史…君はやっぱりバカだよ。報われない愛のために命まで投げ出すなんて。
それに…僕の考えに間違いがなければ、最初そうやって海に近づいたものの、君は僕よりも海を愛してしまったんだろ?だから、その事の良心の呵責にも耐えかねて君は死を選んだ。
そして、今でも愛してると言おうとした海の言葉を、僕に気遣って最後まで口にさせようとはしなかった。

そんな気なんて遣わなくていい。海は君を…君だけを今でも愛している。
海が健史が最初僕が好きだったと気付いたように、僕も彼女が心の奥底の大切な部分に君をずっとしまいこんでいるのをちゃんと知っているのに。
なのに、君は独りで逝ってしまったし、彼女の言葉まで呑み込ませた。

僕は、もしもあの時君が彼女と2人で生きる選択をしたとしても、最初こそ落ち込んだかも知れないけれど、きっと時間がかかったとしても二人の幸せを心から応援する事が出来るように…なれたと思うよ。
だから、君はホントにバカだよ。そして、本当に大切な大切なものをたくさんくれた。my precious-君こそが僕の宝物。

僕はこれからも君の遺してくれたものを一生大切に抱きしめて生きていくから-

「やっぱ僕だけじゃなくて、父様たちも変だよ。何泣いてんのさ。」
泣いている僕たちに秀一郎は怪訝な顔を向けた。
「ホントにかわいいなと思ってさ。お前は私たちの宝物だよ。」
僕はそう言いながら、秀一郎を抱きしめた。海が横で頷いた。
「気持ち悪っ!それに、見てないから良いけどほのがこれ見たら怒るよ。頼むからここだけにしてくれる?それでなくても、父様はお兄ちゃまと私では対応が違うって、よく嫌味言われるんだから。」
「父親が息子を可愛がって何が悪い。」
僕は口を尖らす秀一郎の髪を乱暴にくしゃくしゃと撫でながら、そう言った。秀一郎の方も、口ではそう言いながら、何だか嬉しそうだった。

翌日荼毘に付された健史のお骨を秀一郎に持たせ、帰りは僕が運転し帰途に着いた。
「この方が居なかったら、お前は生まれてはいない。まさにお前の命の恩人なんだよ。」
僕はそう説明して、“健史”を実の息子の懐に抱かせて大切に大切に家まで運んだ。

-*-

次の日、僕はあの人から呼び出しを受けた。
「梁原が遺体で見つかったそうだな。お前が引き取ったと聞いたが…」
「ええ、事後承諾で申し訳ないですが。言おうとは思っておりました。」
「彼が…秀一郎の実の父親だからか。」
続いてあの人はストレートにそう言った。
「ご存知でしたか。」
僕は軽く驚いてそう返した。
「いや…だが、あれだけ似ていればな。私も何度か彼には会っているから。」
「父様、どこからお話したらよろしいでしょうか…」
それで、僕はこれまでの経緯をかいつまんで正直に(とは言え、健史が最初僕に気があったという事はさすがに伏せて、海の幸せを切に祈ってという事にしたのだが)あの人に話した。
「そんな事が…お前が梁原を密かに探していると知って、あやつがお前から彼女を奪って身ごもらせて逃げた事を憎んでいると思っていた。それにしては、彼そっくりの秀一郎を心から可愛がっているし…不思議には思っていたのだが。」
「僕にとっては、秀一郎は何にも変えがたい宝物ですよ。父様、僕の子供ではない跡取りはダメですか。」
本当のことが解ったあの人に、僕はそう尋ねた。
「戸籍上は間違いなく、お前の子供だろう。20年前に何があったかなんてことは、もうどうでもいいことじゃないか。それに、今時血のつながりを云々する時代でもあるまい。
秀一郎は、YUUKIを引っ張っていくだけの素質を持っている。案外、お前よりも向いてるかもしれんぞ。そんな逸材を、みすみす過去の事件でふいにするほど、私は経営者として甘くはないよ。
それにな、孫ってもんはじじいにとっては無条件にかわいいもんなんだよ。
龍太郎…お前本当にいい友達に会えたな。」
僕はその言葉に出そうになった涙をかろうじて堪えて、父様に深々と頭を下げた。
「父様、ありがとうございます。」

健史、ありがとう…君は、僕から父親へのわだかまりさえ消してくれたよ。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

終章

-終章-


「まだ、こんなものを持っていたのね。」
海は僕が手の上で転がしている、指輪を見て笑った。
「これは僕が自分に正直になれなかった事の反省と、それからの戒めの為に持ってるんだ。」
「あなたは悔やんでるかもしれないけど、私は感謝しているわ。きっと…彼もね。だから、私が先に死んだらそれお棺に入れてね。」
僕の言葉に、海はそう言った。
「僕より君のほうが先に逝くなんてあり得ないよ。」
僕は笑ってそう返したのに…

秀一郎は、僕たちが結婚したのと同じ25歳で家庭教師で知り合った未来さんという女性と結婚し、双子を設けた。

そして、海は一刻も早く健史の許に行きたいと思ったのかもしれない。ほのかの花嫁姿を待っていたかのように、ほのかの結婚後すぐ、彼女は56歳という若さでガンで他界した。
僕は、彼女の希望通り、あの指輪を彼女の棺に入れた。
結局、若い頃大病をした僕だけが皮肉にも残されたと思いながら…

それから-僕は出来るだけ向こうで彼らが2人きりでいられるように、秀一郎の子供も孫も見て83歳まで命を永らえてから、彼らの許に旅立った。

                                     -Fin-

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

真夏にぴったりの作品になりましたでしょうか

my precious、略して?「マイプレ」やっと校了しました。某所でホラーは嫌いだと言った舌の根も乾かぬうちのプチホラーで…すいません。

本編をかっ飛ばしても、指輪の記憶の9話までお読みいただければ、別のお話としてたぶん大丈夫だろうとは思うんですが、健史君の基礎知識なしに読み進めるとかなり最後さむいかもしれません。

実は龍太郎と別れたときに、健史の許に走る編も考えたんですよね。(ふんっ、当時は康文くん書くのにるんるんだったくせに、年下好きの作者さんよぉ…と、健史が鼻で笑ってるけど)

だって、そのとき健史はまだ自分の性癖をカミングアウトしてなかったんですもん。カミングアウトされたのは、まさにあの「同窓会」の時。男子同窓生に言われた時の態度で、問い詰めると白状したと言う訳。

でも、そのときは「黒執事」健史君はひたすら龍ちゃんの幸せを祈って、日影の道を全うしていたのに…
「指輪の記憶」で少し表舞台に立つようになって、少しずつ本性が現われ始め、ある時、ある方のキャラクターに触発され一気に意識を乗っ取られました。
「俺の気持ちを龍太郎に伝えさせろ!」
と…あることないこと脅されました。
(ないことで脅したってビビらんでしょうが、心臓に毛が生えてるくせに-健史、もううるさいよ、君!)

で、生まれたのがこのmy preciousなんです。

ただ、親友の恋人を寝取るって話ですし、BLの彼がすんなりと夏海に乗り換えられるわけもなく…そういう葛藤なんかを健史語りでやるともろエロに突入しそうなんで、それは却下。私のよくある手法で一番事実から遠い人物に謎を解き明かすように語らせようと…という訳で、龍太郎語りを採用したわけなんです。

で、龍太郎はダイブしているし、ダイブだとすぐに死んだのがバレバレなんで、残る2人の傷になって2人が結婚できないって思って、失踪して知らないところで死ぬことに。
で、選んだのが氷漬けでした。冷凍保存?することによって、秀一郎が成人し、健史の宿木としての役目を負ってもらうこともできました。
そう…健史の性格では、自分の思いをしたためたものを用意したりとかそういうことはありえないでしょうからね。

ただ、またもやの死にキャラ、しかも結構ハードなアプローチをくれた健史くんへ。
あんたのおかげで6年ぶりに喘息出たんだからねっ!
ちょっと推敲甘いとこあるけど、台風きてたし、また出ると困るから、一旦終って気になったら加筆すっから、とりあえずこれで我慢しなさい。

theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

ヤナという男2

私は、かなり詳細な設定を最初から健史にしていました。

梁原健史という名前が、実は通称名で本名は梁 健史だというのは本編の時から決めてあり、私には珍しく難しい漢字を使用した(案外難読苗字はないはずです、香織の設楽くらいで)んです。

この「二つの祖国」の問題はコリアタウンに隣接する地で生まれ育った私には、大変身近な問題でした。それだけに生々しく、却っていままで書かずにきた問題でもありました。

そして、それは期せずして健史の本当の気持ちを龍太郎から押し隠す役目も担いました。

健史の母は日本人との子供を(しかもシングルで)産んだことで、生家からも離れたった一人で健史を大学生にまで育て上げます。そして、そのムリがたたって、早くに亡くなってしまいました。
それをつぶさに見てきた健史は、夏海を愛し始めたと自覚しても、それだからこそ龍太郎に返すことを選んだんです。自分と一緒になると言うことは、夏海の方がその両親と縁を切ることになると彼は考えたからです。

実際に子供がお腹にいるという状況で、夏海の両親は激怒はしたでしょうけど、最後には孫のために彼らのことを許したとは思うんです。
そして、時は移り21世紀を向かえ韓流ブームなども起こりました。もう少し生まれたのが遅ければ…と言うのもあるかもしれません。
ただ、健史の母、美子は誰にも言わずに1人で抱え込みました。つまり、ここでも「蛙の子は蛙」という訳なんです。

また、冷たい言葉を夏海に浴びせかけて、まんまと龍太郎の許に行かせることができたとしても、彼の性格ではそれを貫き通すことはできなかったでしょうし…で、1人で旅立って行く事を選びました。

それに、男性しか愛せないと思っていた彼が、屈折した目的からでも女性と愛し合い、子供まで持つことができた。さらにはその女性を愛することができた。
直接抱けなくても、自分の家族がいる。そしてその子が愛する人たちを助けてくれる。他の方々には理解できないかもしれませんが、それで彼は幸せだったんです。

戸籍上も結城家の正式な子供ですし、秀一郎は何も知らないまま一生を終えます。
知らないほうが幸せなことは、そっとしておきましょうよ。



theme : キャラクター設定
genre : 小説・文学

あのときの歌

23話の中で秀一郎(実は健史)が歌っていた鼻歌。
作中では書きませんでしたが、それはチャゲ&飛鳥の「SAY YES」なんです。

「101回目のプロポーズ」の主題歌としてリリースされたこの曲を、健史と夏海が結ばれた後、健史は何度も夏海の前で口ずさんでいます。歌詞も相まってつまり2人にとっては幸せな思い出の曲。
夏海は彼がこの曲を口ずさむたび「今は愛されてるって思っていいのよね。」と心で思っていました。

で、ここでも、夏海の耳のよさは如何なく?発揮され、何を歌っているのかさえ聞き取ってしまいます。

そして…状況から考えて、彼女と別れてからすぐに死を選んだであろう彼が、幸せに暮らしてる彼女を責めているように夏海には思えました。健史はただ、あれから時が止まっている訳ですし、大好きな人たちに再会して、大好きな歌を歌っているに過ぎないのですが。





theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

怪我の功名かも(加筆改稿報告)

「my precious」ですが、章の数が初回UPの話数より少なかったので、章立てで移動して書き替えました。

章立てになってるので、より小説っぽいかもしれません。まさに怪我の功名かもしれません。

分岐までのところはエピソード的にはまったく同じなのですが、振り返ってる龍太郎の気持ちがまったく違うため、微妙にニュアンスが違ってるはずなんですよ。そこんとこを表現してみたくなって、ポータルに移動するときに1から書いてしまいました。

よろしければ、その細かい違いを比べてみてください。クライマックスも喘息でずいぶんはしょりましたので、かなり加筆してあります。

加筆改稿に際して、カテゴリーを「my precious」に変更しました。

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genre : 小説・文学

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