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はじまりはいつも突然に…-ハムケ1

はじまりはいつも突然に…



一緒に棲み始めてたぶん、6年目だったと思う。

アパートに帰ったら、大和くんが笑っちゃうほど情けない顔をして正座していた。その上、
「山口さん。」
なんて普段2人の時には絶対に呼ばない苗字で呼びかけてくるし。大和くんは捨てられた子猫みたいな顔をして、
「山口さん、俺と別れてください。」
って言った。私はその顔と切り出した言葉のギャップとにどう対処して良いのか分からず、思わず大笑いしていた。
「何、それ!今から浮気の懺悔でもしようっての?!大体、ここ元々私のアパートだし。大和くんが勝手に転がり込んだだけでしょ?一緒に棲ませてくれるってお願いもなかったような気がするなぁ。」
「ゴメン、そうだったかな。でも…今俺もう帰るとこなんてないし、早めに新しいアパート見つけるようにするから、ちょっと我慢してくれよ。」
大和くんは私が半分冗談で言ったその台詞をマジ受けして、首を落としながらそう返した。

じゃぁ大和くん、マジ浮気って言うか本気で誰かに惚れたって訳?!

大和くんの名前は八木大和。今年28歳になるこの男は、ある日突然この部屋に転がり込んできた。そのずうずうしさは野良猫並で、いつの間にかちんまりとこの部屋に納まってしまったという感じで…

あ、私の名前は山口樹里。29歳。正確に言うと、あと1ヵ月で大台に乗る、つまり20代は風前の灯状態なんだけどね。

大和くんは会社の同僚。
会社の飲み会でべろんべろんに酔っ払って、今にも行き倒れそうな入社したての大和くん(一応彼の名誉のために言うと、うちの職場は体育会系クラブをそのまま地で行くような会社で、まかり間違えば急性アルコール中毒にもなりかねない飲ませ方を平気でやるような連中の集団なの)を会社近くの私のアパートに泊めたのがそもそものきっかけ。
遅刻魔の大和くんはのんびりと徒歩でも出勤できるこの環境がいたくお気に召したようで、飲まされると自動的にウチに帰ってくるようになり、ついには居ついてしまった。
それまでの彼の自宅(実家なんだけど)は電車を2本乗り継いで40分もかかるとこにあって、飲むと翌朝必ず下痢をする大和くん(これも一緒に棲み始めて分かったんだけど)は駅毎にトイレに走ってる間に遅刻するっていうのがその真相だったみたい。

ま、何にせよ、最初は週一、それが3日おき、そして毎日になり、さらに大和くんはその代償を自分の体で返してくれちゃったりしちゃたから…

私、いつの間にかこの関係がずっと続くんだって思ってた。

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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

tag : *

勝手明るい〇〇〇〇-ハムケ2

勝手に明るい〇〇〇〇


「で、相手は誰なの…」
ごたごたと言い訳なんかは聞きたくない。そう思って私は単刀直入にそう聞いた。そしたら大和くん、今度は猛然と怒り出しちゃった。
「俺、浮気なんかしてねぇよ!第一今の状態でできるかどうか考えてもみろよ!!」
さすがに一緒に通勤はしてないけど、同じ職場だから、大和くんの仕事が今とっても忙しいことはよーく解かってるし、帰ってきても前と比べて手抜きされてるって感じはない。むしろ今の方が…そう思ったら顔が熱くなるのを感じた。あはは、浮気は私の気のせいみたいね。
「じゃぁ何よ、私がイヤになった?」
義務でご奉仕になってるんだとしたら、私もっとイヤよ。続いて私がそう言うと、大和くんは俯いたままぶんぶんと首を横に振った。よく見たらうっすら涙目だった。

「あのさ…ずっとけじめつけたいと思ってたんだよ。」
少し間を置いて、大和くんはぼそっとそう言った。
「でもさ、俺樹里より年下だし居候だし…いきなり結婚してくれって言えなくてさぁ、きっかけが欲しかったし、樹里に俺に頼って欲しいってか…」
でも、大和くんの説明は全然要領を得ない。いつもの仕事のときみたいに「畳み掛ける攻撃!」はどうしたの、営業課の八木大和くん?
「で、実はこの1年くらい…俺狙ってた。」
続いて狙ってたってなんて言われて、私は思わず唾を飲み込んじゃった。で…君は何を狙ってた訳??
「気付いてた?俺が最近そのままだって事。」
えっ?そのままって…もしかしてアレの時の事?!あ…そう言えば最初の時は気になってたかな。でも、何も起こらなかったし、どっか慣れっこになっちゃってそんなもんだと思ってた。正直に口にしちゃったら、呑気な奴!とか言われて呆れられそうなんで黙ってたけど。
「樹里に子供が出来たら、籍入れてって…」
うっそぉ、マジでそんな事考えてた訳?!
「勝手に明るい家族計画って?!そりゃないわよ。私の意志はなしってことでしょ?!」
「ホント、ゴメン。そうだよな、俺独りが盛り上がってさ…でも、その家族計画も破綻したから安心しろよ。」
しばらくフリーズしたけど、やっと気を取り直して冗談ごかしてそう言った私に、大和くんは真顔でそう謝った。

もう…今日の大和くんって、ホント何言いたいのか全然っ解かんない!!

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genre : 小説・文学

NGの日-ハムケ3

NGの日



「俺さ、この間社長に呼ばれた。」
あ、知ってる。いきなり名指しで会議室の方に呼び出されて、出てきたときの大和くんの顔がやけに深刻だったから、気にはなってたんだけど。会社ではお互い仕事の話以外っていうか話しかけないようにしてるから聞けなかったし、ウチに帰って来てもそのことについては大和君から報告はなくて、何だかそのときの表情思い出したら、私も気楽に聞けなくて…

「そいでさ、『大和、もうお前何年樹里と暮らしてるんだ。樹里は来月幾つになる?ふらふらしてんでいい加減けじめつけろ。』って社長に叱られた。」
社長はもちろん私たちの会社の社長なんだけど、早くに父親を亡くして母一人子一人で育った大和くんには父親みたいな存在でもある。それは両親が離婚してしまって家を飛び出すように出てきた私にも同じで、社長は私たち2人を自分の子供みたいに心配してくれてる。
「もちろん考えてますって言ったんでしょ。」
なんせ「勝手に明るい家族計画」だもん、こやつは。そう言った私に大和くんは黙って頷いた。
「でもさぁ、どう考えてもいきなり子供って発想はいただけないなぁ。」
「樹里はずっと欲しかったんじゃないのか?それともあいつの子供だから欲しかったのか?」
続けて私が言った言葉に、大和くんはむっとしながらそう返した。
「…違うよ、あの時は今より子供だっただけだよ。」

そう、あの頃の私は今よりずっと子供だったから、それがどんな結果を生むのか考えもしなかっただけ…
3月10日、その日1日だけは、私は大和くんが「お誘い」をかけても頑として断る。
それは…元カレ-もちろん大和くんと知り合うとっくの前に別れてはいるんだけど-の子供を空に返した日だからだ。元カレは、私に子供が出来たとわかった途端、姿を消した。
それを聞いた大和くんは、
「俺、そん時に樹里に逢ってたら俺がその子育ててやったのにな。」
そんなことまで言ってくれた。

さっき、私は最初気になったけどその内そんなもんだって思うようになったって言ったけど、あれはウソ。私は大和くんが子供を欲しがっていることを解かっていた。家族が欲しいと解かってた。
最愛のお母さんを今の旦那さんに引き渡してからずっと、彼は私を抱く時に全身でそう言ってた。
だから、いつ出来てもきっと前のようにはならないとそう思ってたんだ。
思ってたけど、ちゃんと口に出してくれない大和くんを私はどっか、最後まで信じてはいなかった。そうなったらやっぱり、元カレみたいに消えちゃうんじゃないかっていう気持ちを捨てられなかった。

だから私は、自分の期待感に自分でフタをしたんだと思う。ワザとそういう方向には、自分の気持ちを持っていかないようにしてたんだ。

じゃぁ、大和くんは何故今更別れようって言い出したんだろう。
まだ…解からないことだらけだ。


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genre : 小説・文学

家族になりたい-ハムケ4

家族になりたい



「俺の当初の予定では、樹里が大台に乗るまでに全部決着がついてるはずだった。でも、出来ない上に、社長にまで叱られるし…」
大和くんはものすごく辛そうに、まるで吐くみたいにそう言った。
「それに俺、ちょっと気になることがあって病院いったんだわ。で…」
その後、彼はものすごく小さな声になってぼそっと言った。
「俺のだけど…ほとんどダメらしいわ。」
「ほとんど…ダメ?」
私は大和くんの言うことが全く解からなかった。
「俺、ガキの頃病気してさ。俺が使ってた薬がその薬かどうかちゃんと覚えてないんだけど、俺の病気の治療薬の一つで使うと子供が出来なくなるってやつがあるって聞いたから…今更、お袋に当時の薬の名前聞いたら、その意味がばれるだろうし、ばれたらショックだろうからな。聞けなくて確めるために病院に行ったんだ。
そしたら俺のは、普通成人男性の半分にも満たない、約25%だって言われてさ。おそらく自然には出来ることはないだろうって言われてきた。」
「そうなんだ…」
私はそんな大和くんの半泣きの告白に、相槌を打つことしか出来なかった。

「だから…山口さん、俺と別れてください。」
で、こういう発言になった訳か…やっと事情は飲み込めたけど、だからって何で別れなきゃならないの?
「ちょっと、子供ができないくらいで何で別れなきゃならないのよ!」
そうよ私、子供がいないとイヤだって一度でも言った?!それ以前に私たち、夫婦でもないし。
「だって、樹里は子供欲しいんだろ?不妊治療する金なんて俺にはないから。」
子供が欲しいのは、大和くんの方でしょ?!まったく…
そりゃ、絶対に要らないなんて言わない。私もミニ大和くんみたいな男の子がいたらいいなぁ、そうなりゃめちゃくちゃかわいがっちゃいそうだと思う。
でも、絶対に欲しいわけじゃない。そうよ、絶対に欲しいのは…
「でも、子供なんて…大和くん以上に欲しいものじゃないもん!」
私はそれこそ初めて自分から正直に自分の思いを口にしていた。
私は今まで、大和くんが勝手にウチに転がり込んできたから、成り行きでずるずるそうなったみたいな…そんな体であまり自分が熱を上げている風には見せなかった。
でも私、どうでも良い奴となんかどんなに誘われたって寝ないよ。
それ以前に、ウチに入れてないと思うわ。

ずっと側にいて欲しかった。でも、側にいてって言ったら逆にウザがって離れて行ってしまそうで言えなかった。
「子供なんて、居ても良いけど、居なくてもいいじゃん。ねぇ、私たちもう今でも家族じゃないの?」
私はやっとずっと言いたいことが言えた。
「そう…言ってくれるのか?」
そう言った大和くんはもう本泣きしていた。
「あたりまえでしょ!じゃなきゃ、こんなウザイ男と5年半も一緒になんか居られないわよ。じゃぁ何?私だけが家族じゃ不満?!」
そう口にした私からも涙がぼろぼろと溢れ出す。
「いや…樹里が居てくれるだけで、俺は充分だよ。」
「私も、大和くんが居てくれたらそれで良い。じゃぁ、決まりだね。」
私はそう言いながら、大和くんが隠し持っていた(と本人は思っていたようだけど、ここは元々私の部屋だし、ちゃんと知ってたわよ)婚姻届の用紙が入っている引き出しを開けた。でも、用紙はもうそこには入っていなかった。その様子を見た大和くんは、部屋の隅っこのゴミ箱を指差した。見ると、特殊な紙質の用紙が丸めて捨ててあった。
「もう、まったく…明日昼休みにでももらってくるから、夜にでも一緒に書こうよ。そして、社長に持って行こう。」
「婚姻届は会社に提出する書類じゃねぇだろ。」
私がそう言うと、大和くんはニヤニヤしながらそうツッコミを入れた。
「バカね、保証人は社長とお姉さんしかいないでしょ。」
「分かってるよ、そんなことくらい。俺もそう思ってた。ホントに良いんだな、俺で。」
「うん、俺が良いの。」
私は頷いた後、大和くんの首に抱きついた。

ハムケ5

翌日、私は婚姻届の用紙をもらいに行った。ついでに戸籍を取り寄せる手続きをする。私はもちろん、大和くんも最寄の役所に本籍がないから、どっちも郵送してもらうことにした。
「ねぇ、大和くん、お母さんに言わなくていいの?」
でも、もらってきた用紙に書き込みを入れる段になって、私はそんなことに気がついた。
「いいよ、お袋も事後報告だったし。今度の休みに行けばそんで良い。」
私の質問に大和くんはさらっとそう答えた。
「で、そういう樹里の方は?」
「一応、言っとく方が良いよねぇ…」
で、お返しみたいな大和くんの言葉に、私は歯切れ悪くそう答えた。実は私、ここ何年も両親には連絡取ってない。
でも、住んでるアパートは家を出てきたときのままだし、電話だって変えちゃいないから、向こうから連絡してくれればすぐ連絡はつく。つまり向こうも私に関わる気はないってことなのだ。あの方は自分の事で忙しく、不肖の娘が何をしようが知ったことじゃないんだろう。

それでも、苗字を山口から八木に変えてしまうんだから、まったく言わない訳にはいかないわよねぇ。そう思ったら、思わずため息が出てしまっていた。
「そうだよ、俺がちゃんともらいに行った方が良くねぇ?」
ため息をつく私を見て、慌てて大和くんがそういう。」
「それはないない!ウチは電話で充分だよ。ちゃんと連絡しとくから!」

で、次の日に行くはずだった社長への報告が、お互いの親への報告で休みを挟んで5日も延びた。戸籍を取り寄せるタイムラグがあったから、どうせすぐに入籍なんてできなかったんだけど。

土曜日、私はそれこそ何年かぶりで、自分の母親に電話した。
彼女はなんと奇跡的に1回でつかまった。
「元気だった?」
と聞く彼女に、
「うん、元気だよ。」」
と子供の頃の様に明るく笑って答えた。それから、
「んでさぁ、今度結婚することにしたから。」
ってきわめて事務的に電話の用件を話すと、彼女は私の予想に反してビックリするぐらい食いついてきた。
「結婚するって、相手はどんな方?式は?私はあちらにご挨拶に行かなくて良いの?」
と矢継ぎ早に質問してくる。
「相手は会社の同僚、八木大和って言うの。実はもう6年ぐらい一緒に棲んでて。この前社長にね、いい加減けじめつけろって言われちゃってさぁ…私が大台に乗る前にってことになったの。だから、式なんて考えてないよ。」
「一緒に棲んでるの?」
「うん、私のアパートで。彼、他に行くとこなかったから。」
私は、私たちがずっと一緒に棲んでいることを強調して、ワザと大和くんには身寄りがいないようなフリをした。
「じゃぁ、そういう報告だけだから。」
私が続けてそう言って電話を切ろうとすると、
「ねぇ、私が手伝えることはないの?」
と必死の声で聞いてきた。
「うん、今のとこはない…」
「じゃぁ、子供が出来たら言いなさい。手伝いに行くわ。」
「うん…そうする…じゃぁ」
と返すと、私は一方的に電話を切った。

電話を切った後、私は涙が溢れて止まらなかった。お母さんはずっと連絡したかったんだ。それが声で判ったから。

お父さんが女を作って家を出てから、お母さんは何人も男を替えて生きてきた。誰かに寄っかかっていないと生きていけない人だから。
でも、私は高校生の時、そんな彼女の男の1人に食われそうになった。たまたまちょうど彼女が帰ってきてくれたんで事なきを得て、彼女とその男は程なく別れたんだけど、なんとなく気まずくて、私は高校卒業を待ちかねるように生まれた町を後にして、今の会社に入った。
それ以来、彼女は私に自分からは連絡してこない。

子供が出来たら…か。
子供が出来たら、そういう今までのことはかっ飛ばして、お互い母として会話できたのかもしれない。でも、それもないんだよなって思ったら余計泣けてきて、私は「1人でかけたい!」と強引に追い出してしまった大和くんが帰ってきたとき、結婚を反対されたのかと思って心配するほど、バンバンに泣き腫らした目になってしまうくらい大泣きしていた。

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genre : 小説・文学

ハムケ6

日曜日、私はガチガチになって大和くんのお母さんとお母さんの旦那さんの前に立った。
「電話でも話したけど、こいつが樹里。」
自分の親なんだから当然なんだけど、大和くんはいたって普通だった。
「あの…山口樹里です。やま…いえ…八木さんにはいつもお世話になってます。」
「こっちこそあなたに甘えっぱなしでごめんなさいね。このバカ息子がなかなか言ってこないもんだから、やきもきしてたんですよ。」
緊張しすぎて、些かミョーになってしまった私の挨拶に、大和くんのお母さんは済まなそうにそう返した。
「いえ…そんな事ないです。」
「本当にうちの大和みたいなので良いの?」
まだ心配そうにそう言うお義母さん(きゃ~っ!なんか嫁だわ、嫁!なんて心の中ではほくそ笑みつつ)に私は頷いて答えた。
「そんなの私の方が…彼より二つも年上でもうすぐ大台だし…」
「酒は飲むし、がさつだし、泣き虫だし?」
そこに、遠慮してブリトークを展開していた私の台詞をひったくって大和くんが被せてきた。
「大和くん、ちょっとそこまで言う?!」
にしても、そこまで言うことないじゃん、睨んで私がそう言うと、
「だから、それってお互い様なんじゃね?俺にも樹里にも欠けたとこはある訳だし。それでも、それだからこそそれを補うためにも一緒にいたいと思うし、惹きあうんだと思うよ。母さん、俺達戸籍着き次第籍入れるから。」
噛み付いた私に、大和くんはそんな小憎らしい台詞をさらっと吐いて、結婚宣言をした。
「樹里さん、お宅の親御さんはいいの?」
「ウチは…大丈夫です。電話で話したら喜んでくれました。仕事が忙しいから会えないけど、よろしくって言ってましたし。」
私は無難にそ答えた。
「じゃぁ、私も何も言うことはないわ。大和をよろしくお願いします。」
そして、お義母さんはそう言って私に頭を下げた。そしたら涙が出てきた。
「樹里また泣いてるよ。な、言ったろ。こいつホントに泣き虫なんだよ。」
許してもらえてホッとして涙腺が緩んだ私に、大和くんは私の髪をぐしゃぐしゃにして撫でながらそう言った。
「何よ、誰が泣かせてるの?!」
「俺。」
私が怒ると、大和くんはそう言って舌を出して笑った。まったく…ガキなんだから。
でも、そのガキの大和くんが私はすごく-世界一大好きだったりする。
私って、アホだね、まったく…

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公私混同の朝-ハムケ7

公私混同の朝


月曜日の朝、仕事を始めてから少しして、大和くんが私の席に私を迎えに来た。
「樹里、行くぞ。」
いつもは年上で、仕事暦も上の私のことは絶対に「山口さん」としか呼ばない大和くんが、名前で…しかも上から目線で言ったもんだから、私の部署の人たちは驚いていた。特に、今年入社の千夏ちゃんなんかは、ギョッとした顔をして私と大和くんとを交互に見た。
「あ、高階部長…山口しばらく借ります。」
それから、大和くんはそう言ってウチの部署のボスに軽く会釈した。
「お、おう。貸すからすぐに返せよ。」
部長はニヤニヤ笑いながらそう答えた。

私は大和くんに差し出された手を取ると、大和くんに引かれたまま部長に黙って会釈してデスクを離れた。
「八木ぃ~おまえ大胆♪」
それを見て、大和くんより入社の1年早い小久保くんがそう言って茶々を入れた。千夏ちゃんが事情を知りたくて、隣の席の野村さんを突っついているのが見える。
「昼休みにしてよ…」
私が小声で言うと、
「社長がそれじゃ捕まんないんだって。」
と大和くんから返ってきた。そうか…私たちはともかく、社長が居なきゃどうしようもないもんね。でも、朝一なんて恥ずかしすぎるよ!私はそう思った。

そして2人で行ったのはもちろん社長室。
「すいません、八木です。社長、少々お時間よろしいでしょうか。」
「おう、なんだ?大和。」
「この間ご指摘のあった件で、折り入ってご相談が…」
大和くんはそれこそどこかのクライアントにでもアポ取りするかのような口調で、社長室(扉なんてなくて、すりガラスのパーテーションで仕切ってあるだけなんだけど)の前でそう言った。
「この前の件って…そうか、あの件ね。それでどうなった。」
社長にそう言われて、大和くんは頭を下げた後、私とつないでいる手を彼に見せた。
「で、話し合った結果こういう結論に達したんで…社長には是非とも保証人の欄にご署名いただきたいと思いまして。」
と、私とつないでいる手を一旦離して、つないでなかった方に持っていたクリアファイルから婚姻届を出して社長の机の前に広げた。
「ほう…やっと決心つけたか、お前ら。にしてもえらく時間がかかったな。」
その婚姻届を見て、社長は嬉しそうにそう言った。
「お互いの親にも挨拶とかあったもんですから。」
大和くんがそう返すと、社長は
「そりゃ、そうだな。」
そう言いながら、うんうん笑顔で頷いた。
本当は大和くんが病院に行って検査をしているタイムラグも含まれているからなんだけど、たとえそれは社長でも、ううん、社長だからこそ言えない。
「で、もう1人は姉貴か」
社長は保証人の欄に署名して押印しながらそう聞いた。
「はい。」「はい。」
私たちはハモって返事した。

-*-

それから、私たちは総務部長である社長の姉-通称「お姉さん」のところに行った。彼女は早くになくなってしまった母の代わりに独身で父である先代社長を支え、2人の弟と1人の妹を育て上げた。
お姉さんは、彼女の机の上に広げられた婚姻届を見ると、
「私なんかが保証したら、碌なことがないかもよ。」
と笑いながら書き込んだ。
それから、氏名変更の用紙を取り出して、
「どうせ、あのままあそこに住むんだろうからこっちで書いても良いようなもんだけど、一応公的書類になるから、自分で書いてちょうだい。」
と言って私にそれを手渡した。その後、
「すぐにコレ、提出するの?」
と婚姻届を摘み上げて聞いた。
「いえ、戸籍を郵送で取り寄せたから、まだ届いてないんです。届き次第、行って来ます。」
「そう…届いたら、私に言ってね。」
大和くんがそう言うと、お姉さんはいたずらっぽく笑ってそう返した。

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ハムケ8

「おめでとうございます!山口さん、あ、八木さんって呼ばなきゃいけないのかな。」
席に戻ると、うるうるの瞳になっている千夏ちゃんから、そんなお祝いの言葉をもらった。
「まだ提出してないし、八木と混ざるから仕事の時は山口で良いよ。」
「でもホント、知らなくってビックリですぅ。で、きっかけはなんなんですか。」
千夏ちゃんの顔が芸能レポーターのそれになっていた。一言私がそれに対して返事をしたら、芋づる式に馴れ初めやらなんやら、逐一聞きだそうと手薬煉引いてるみたいな…女の子ってどうして仕事よりこういう話を平気で優先させられるんだろう。そういうとこ、分けて欲しいんだけどな。
「仕事中にそんな話しないで。」
素っ気無く私がそう言うと、板倉さんが
「樹里っぺは、いつもクールだよねぇ。仕事中には大和のことはおくびにも出さねぇもんな。」
なんて食いついてきた。そう言や、この人も社内結婚だ。2人目が生まれて奥さんの加奈ちゃんの体型がすっかり変わってしまっても、未だラブラブな…公私混同な奴がここにもいたか…

そうやって考えると、体育会系クラブっぽいウチの会社には、社内恋愛や社内結婚って人が結構いる。ご他聞に洩れず、私たちもそうなんだけどね。
「私は仕事とそれ以外とはきっちり分けたいから。」
だからこそ線を引きたい。そう思って今まで会社では大和くんと仕事の話以外は一切しないできたのに…
今朝のほんの何時間、いや何十分でそういうの全部ぐだぐだじゃん!

大和くんのバカ!!

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genre : 小説・文学

初日から残業?!-ハムケ9

初日から残業?!


翌日、会社から帰ると戸籍が届いていた。

次の日、昼休みに最寄の役所に一緒に提出しようと約束して、珍しく一緒に家を出た。今日から夫婦になるんだもん、まぁ今日くらいは同伴出勤?しても良いかなって思ったから。だって、一昨日の一件であまり大きいとは言えないウチの会社全員に私たちの関係、知らせちゃったようなものだもんね。

「おはよう、八木君今日は早いね。あ、樹里ちゃんが一緒だからか。戸籍届いたの?」
会社に着くと、いつも一番乗りのお姉さんに開口一番そう言われた。
「昨日届きました。今日の昼休みに役所に行ってきます。」
大和くんがそう答えて、私たちはそれぞれの持ち場についた。

ところが…ウチの会社を、社長を私は甘く見ていた。
大和くんと私は業務開始早々社長室に呼ばれて、
「今すぐ入籍して来い。」
と社長命令で2人揃って役所に行かされたのだった。

「公私混同を社長が率先してどうすんのよ!」
ぶつぶつ言いながら、足の速い大和くんに必死について歩いた。
「ま、それだけ心配してくれるってことだろ。」
「解かってるよ!」
解かってるけど、恥ずかしいじゃん。私たちが社長室を出たら、一緒にフロアまで出てきて、
「ゆっくり行って、夫婦になったのを噛み締めてこいよ。」
なんて大声で言うから余計に。
ホントにここは会社なのだろうか。金儲けのできるどっかの学校のクラブ活動なんじゃないかと一瞬思ったほどだ。
ま、社長からしてこうだから、ウチの会社の社内成婚率は高いんだろうなぁと、妙な納得もしたけど。

-*-

そんなこんなで私たちは、午前中に夫婦になり、私は公的には八木樹里になった。でも便宜上、仕事では山口樹里を通すつもり。子供の予定なんかないから、ずっと勤めるつもりだし。

でも、お昼過ぎ…高階部長が、
「わりぃ、山口、あのプレゼンだけどさ、かなり変更でたんだわ。今日中にコレに差し替えして欲しいんだけど。」
って、この間からずっと打ち込んでいたプレゼン資料の変更を言ってきた。そういうのはよくあることなんだけど、問題はその量…半端じゃなかった。それ、ホントに今日中なの?今日ぐらいは早く帰って、美味しいものでも作って2人で祝杯挙げたいと思ってたのに。

こんな日に残業か…ホント、「すまじきは宮仕え」だわ。
私はため息を1つ落としてから、それでも一刻も早く上げちゃおうと思ってパソコンにかじりついた。

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ハムケ10

それこそ千夏ちゃんが淹れてくれた3時のコーヒーも、ひったくるようにして飲んで差し替えたんだけど…
通常の就業時間では、半分をチョイ超えたとこで時間切れだった。
残業決定…それなら本腰入れてかかるしかない。私はそれ用のコーヒーを淹れに給湯室に行くと、千夏ちゃんと大和くんの部署のやっぱり入社1年目の上島くん、更に小久保くんまでが帰る所だった。
ペーの2人はともかく、小久保くん-入社7年目で私と同じ仕事をしているあんたが帰っちゃう訳?!あのプレゼンにはあんたも関わってるでしょうが!
そりゃ、この資料は最初から私の担当だけどさ…
「みんな、お疲れ。」
それでも一応、彼らには労いの言葉をかけたわよ。一応、社会人の礼儀としてね。
「あれ、樹里は残業?あ、アレね…昼間部長テンパっってたもんなぁ。」
「そう…今日中だって。」
「それはご愁傷様。じゃぁ、俺は用事あるんで、お先!」
そう言うと、小久保くんは満面の笑みを残して去って行った。もう…今日ぐらい手伝いなさいよ!!

ずーんと重い気持ちになってデスクに戻る。こんな精神状態じゃ、いっぱい誤植作りそう。今日中に…終るのかな。
そうやって、小一時間ぐらい集中して入力していただろうか…
「みんな、会議室に集合!社長命令。」
顔を上げると、いつの間かに会社に舞い戻ってきた小久保くんがいた。そんな彼の「鶴の一声」で残っていたうちの部署の面々がぞろぞろと一斉に会議室に移動する。
…って、入力にかまけてて気付かなかったけど、ウチの会社ってばいつも無闇に忙しいんだけどさ、何か今日は特に残業率高くない?あのプレゼンってよっぽど難航してるのかな。変更内容ってばいたって普通だったけど。
何の話だろ…

そう思いながら私は会議室に足を踏み入れた-そして私は、今日の残業率の高さの本当の理由を瞬時に理解した。
そこには机狭しと並べられたオードブルとビールの山、そして真ん中にはご丁寧に、
「Happy wedding YAMATO&JURI」と書かれた巨大なケーキまで置かれてあったからだ。

私はこの体育会系クラブ延長株式会社をホントにナメてかかっていた。たかが1社員(あ、2人とも社員だから2社員か)の入籍ごときで、こんな…こんなサプライズパーティー企画する?!
「お、気付いてなかった?作戦成功ってか、嬉しいねぇ。」
板倉さんがぽっかりと口を開けたままになっている私にそう言うと、奥でマイクのセッティング(この狭い会議室でマイクなんて必要ないってば!)をしている小久保くんと顔を見合わせてグッジョブポーズ。
続けて入ってきて同じように素っ頓狂な顔をしている大和くんと2人、この会議室の上座に押しやられた。

「お前ら、結婚式するつもりもないんだろ。そう思ったから、俺と姉貴とで企画した。」
恐縮する私たち2人に、社長はそう言って笑った。

今日朝一から入籍しろと追い出されたのは、その間にこのパーティーの段取りをそれこそ全社一丸となって取り組んでいたらしい。こういうことで一致団結できるトコがまさに「ウチの会社」らしいっちゃそうなんだけど。

そして、帰ってきた私に、高階部長が慌てた様子で本当なら来週半ばまでに仕上げれば良いプレゼン変更を、今日中だって言って持ち込む。そうすれば私はパソコンにかかりきりになり、余計な雑音もみんなが挙って会社に残っていることにも気付かなくなるっていう寸法。

一方、大和くんの方は、昼から外回りに行かされていた様だ。
「ねぇ、八木君結婚指輪は?」
「あ、まだですよ。今度の休みの時にでも一緒に買いに行こうかなと思ってます。」
出掛けに大和くんは夏目さん(女性)に声をかけられた。
「出たついでに買ってらっしゃいよ。それ今晩渡したら彼女泣いて喜ぶと思うよ。」
と夏目さんは極めてさりげなく、しかし誘導的に「結婚指輪」を買うことを入れ知恵する。
けじめとして、今日の方が良いかなと思ったという大和くんは、バカ正直に指輪を買って会社に戻ってきたらしい。

そして、それが見事にこのサプライズ結婚式に華を添えた。
「でも、コレ…どこから出てるんですか?」
恐る恐る私が聞くと、
「あら、会社からに決まってるでしょ。」
と、ウチの会社の総務省、お姉さんが当然のように言う。
「こんなことに遣っていいんですか!」
大和くんがそれに対して噛み付くと、
「バカ言え、これが本来の福利厚生費の遣いかただぞ。」
とニヤニヤしながら社長がそう返した。

バカばっか集まった…サイコーの会社だわ、ココ!!
私は涙でぐちゃぐちゃになりながらそう思った。

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1年後の夏-ハムケ11

1年後の夏


そんな風に降って湧いたような結婚式にうるうるした私だったけど、翌日からは当たり前に仕事する日々。家に帰ってからも、6年も一緒に住んでいるんだから、今更新婚気分が味わえる訳もなく…でもそれが幸せなのだと思った。

仕事や飲み会なんかでとんでもなく大和くんが遅くなっても、もう戻って来ないんじゃないだろうかと不安に駈られないことが。
大和くんがにやけた顔で他の女の人を見る時に、内心めちゃくちゃムカついているのに、それをスルーしないで、
「どこ見てんの?」
って睨んでしまえることが。そして、慌てふためく大和くんに余裕の笑みをかますことができることが。
たった1枚の紙切れのこと…なのにね。安心していられる。

別段変わったこともなく、結婚から一年余りが過ぎた。
その年はすごく暑い夏で、おまけにとんでもなく仕事が忙しかった。あまりの暑さと忙しさで、あの肉食恐竜の大和くんが、わりとあっさりとしたものしか受け付けなくなったほど。

「あっつ~、溶けそう。」
「ほんと暑いね、でも、樹里ちゃんが暑がるのって珍しいわね。」
私がそう言うと、野村さんがそう返した。
私は普段、そんなに暑がらないほうだ。真夏でもクーラーが効いている事務所でパソコンを操ってばかりの時は、大体長袖着てるくらいだし。
「なんか妙に汗かいてない?大丈夫?」
「ええ…」
ホントのこと言うと最近疲れやすいし、胃の調子も悪い。
でも、結婚してから私はあまり薬を飲まなくなった。大和くんが結婚前に一旦別れようとした理由がある薬の後遺症だと効いてから、私はどんな薬も気楽に飲めなくなったのだ。
たぶん、風邪薬や胃薬なんて飲んだって何もないにきまっているんだけど…ブレーキがかかってしまう。

そして、お昼休み。いつもならお弁当を作って持参するんだけど、今日はそれもかったるくって、たまにだから冷たいお蕎麦でも食べようと外食することにしたのだ。
弁当なんかはなから持ってくる気のない若い女の子たちと一緒に、私は会社を出て炎天下の街に出た。
「うわっ。」
むせ返る熱気に思わず声まで出た。あまりの暑さに、本当に溶けてしまいそうだ。
心なしか地面も歪んで見える。
…ってか、ホントに歪んでるよ、地面。
「山口さん(仕事では未だに旧姓で通している)どうかしました?」
「えっ、暑すぎて地面が…」
私は見たままを言ったつもりだった。
「地面がどう?」
でも、他の子にはそうは見えなかったらしい。1人の子が首を傾げてそう返した。
次の瞬間、私は目の前が真っ暗になっていた。そして、私はそのままその歪んだ地面とオトモダチになっていたのだ。
「きゃぁ!山口さん、しっかりして!チナ、119番!!」
その子が私を抱きかかえて、千夏ちゃんに救急車の手配を叫んでいる声が遠くのほうで聞こえた。その子は私を抱きかかえて叫んでいるのに。

そして私はそのまま救急車で病院に運ばれて…次に気がついた時には、ベッドの上にいた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

ハムケ12

「ゴメンね、付き合い長いから忘れちゃってたわ。樹里ちゃんが人妻になってたってこと。」
ベッドの横にはお姉さんが付き添ってくれていた。でも、人妻が何で関係あるんだろう。暑いのは誰だって同じじゃない?首を傾げる私にお姉さんは続けてこう言った。
「仕事はどんなことしてでも振り分けさせるわ。だから、これからは自分の体を優先させてね。もうお母さんなんだから。」
「はい?」
お姉さん、今…何て仰いました??絶対に呼ばれないであろうと思われる呼称で呼ばれた私は、軽くフリーズしていた。
「やっぱり気付いてなかったの?既婚者だって言ったら検査してくれて…樹里ちゃん、おめでただってよ。」
その返事にお姉さんはウインクして答えた。
えっ?えっ?!え~っつ!!マジっすかぁ!!!そのときの私の表情と言えば、たぶん「ムンクの叫び」だったに違いない。
信じらんない。だって…

そりゃ、身に覚えはあるわよ。ないとは言わない。
でもさ、私が大台に乗るまでに籍を入れたいと、大和くんがどんなに頑張ってもダメで、その上、お医者さんにまで「普通じゃムリ」って言われてたんだよ。それが、この忙しい最中にぽっこり出来ちゃうって何?
「そんなにビックリしないでもいいじゃない。後で先生が最終月経を教えて欲しいって。それで正確な週数も出るからって。たぶん、状態から見て3ヶ月半ばってトコかなって言ってらしたけど。」
お姉さんがそう言った。うわっ、ホントに?ホントに私、お母さんになれるの?3ヶ月半ばという具体的な数字が妙にリアルで、そう実感した途端私はぼろぼろと泣き出した。

「樹里、大丈夫か?!」
その時、私が倒れたと連絡を受け、大和くんは出先から血相変えて病室に飛び込んできた。
「うん、大丈夫。」
私はにっこりとしてそう返した。でも、泣いた後だったから、大和くんはムリして笑顔を作ってるんだと思って、逆に心配そうな顔をしてそんな私を見た。
「そうよ、これからは八木君が頑張らなきゃ。樹里ちゃんを労ってあげてね。」
「はい…忙しくてそこまで頭が回んなくって…すいません。」
お姉さんがそう言うと。大和くんは神妙にそう言って頭を下げた。
「よしっ、頑張れ新米パパ。」
それからお姉さんはそう言って大和くんの肩を叩いた。
「パパ?」
お姉さんの言葉に大和くんはものすごくビックリした顔をした。あり得ない!っていうのが満面に出ていた。
「あ、樹里ちゃんが気付いてなかったから、八木君が気付いてる訳ないわね。おめでと、あなたもうすぐお父さんらしいよ。」
「子供…」
「うん、3ヶ月半ばだって…」
恥ずかしくて真っ赤になっていく私とは対照的に、大和くんの顔はどんどんと青ざめていった。そして、少しの沈黙の後、大和くんはこう真顔で言ったのだった。
「樹里、正直に言え。それ、誰の子だ。」
と…

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genre : 小説・文学

ハムケ13

「そんなの決まってんじゃない、大和くんのだよ。」
私がそう言ったら、大和くんは間髪入れずに、
「ウソだ!」
と返した。
そこにちょうど、社長に様子を見て来いと言われた小久保くんが呑気そうに入ってきた。それを見た大和くんは、私と小久保くんをぎっと交互に睨んで、
「樹里、ホントのこと言えよ!相手は…小久保か?!」
ってものすごい剣幕で怒鳴った。
大和くんの気持ちは解からなくもない。私だって最初はウソだって思ったもん。だから、男の…しかも子供はムリだと診断されて、私のために別れるとまで言ってくれた大和くんが、「出来ちゃいました」と言われて、簡単に「はい、そうですか」ってすぐに受け止められるとは思えない。
でも…でもね、誓って言うけど私、浮気なんかしてないよ!!
「そんな訳ないじゃない、大和くんの大バカ!!」
私はそう叫んで、ここが病院だってことも忘れてわんわん泣いてしまった。
「八木君…どうしたの、突然…」
お姉さんもフォローできなくておろおろしている風だった。

その時、カーテンが開く音がして…
「ちょっと、そこのご主人?!あんた一体何考えんのよ!取り返しのつかないことにでもなったらどうするつもりなの!!」
って女性の怒鳴り声が響いた。
「奥さんがそう言うんだから、絶対にあんたの子に決まってるじゃないの!あんたね、どんだけ仕事が忙しかったか知らないけど、やることやってんでしょ?!それとさ、奥さん3ヶ月の半ばなんて微妙な時に、しかも倒れてここにやって来たんでしょうが。そんな時に、ショックなんか与えてもしもなんてことになったら、あんた泣くにも泣けないわよ!ちっとは考えたらどう?!」
声の主は病室の隣のベッドに寝ていた。私のことなのに、真っ赤になってぶるぶると震えている。
「何も知らない奴が聞いた風な口を利かないでくれ!俺の子供なんてできる訳がないんだから。」
大和くんも売り言葉に買い言葉で、そう答えてしまっていた。その台詞に、お姉さんも小久保くんまでもが完全にフリーズしてしまっていた。それを聞いた隣のベッドの人は、一瞬ハッとした顔をしたけど、
「それって、医者にまったく子種がないって言われたわけ?」
と、ずけずけそう聞き返した。
「全然じゃないけど、約25%だって言われた。それに、どんなに頑張っても出来なかったのに、このクソ忙しい時にぽこっとできてたまるかよ。」
それに対して、大和くんは吐き捨てるように彼女に言った。
「なんだ、そうなんだ。それならやっぱりバカなのはご主人、あんただわ。」
それを聞くと隣のベッドの人は、不敵な笑みさえ浮かべてそう言ったのだった。

…で、この人、一体何者??

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genre : 小説・文学

医者?看護師?それとも何なの?!あんたってば…-ハムケ14

医者?看護師?それとも何なの?!あんたってば…


「俺のどこがバカだってんだ!」
「ねぇ、ちょっと質問して良い?あんた最近食い物の好み変わってない?」
いきなりバカ呼ばわりされてキレた大和くんにビビることなく、隣のベッドの人は質問なんか始めた。
「それがどうした!」
「聞かれた事に答えて。」
「暑くて肉なんか食ってらんないって思うようになったけど?」
「奥さんも?」
その言葉に私は黙って頷いた。
「で、25%の宣告を受けたのはいつ?」
「去年の春だっけ…私の誕生日の少し前だったから。」
これは私が答えた。
「じゃぁさ、このごろめちゃくちゃ忙しいって言ってたよね、前よりあっちの回数減った?」
「!」
何?!そのストレートな質問は!初対面の相手に聞くことじゃないでしょ?
「ねぇ、重要なことなんだけど。」
黙ってると彼女からそんな声が飛んできた。
「ああ。」
見ず知らずの女に何でこんなことを尋ねられなきゃならないんだという顔で、ウザそうに大和くんは頷いた。
「やっぱりね。バカ決定。」
彼女はそれだけの質問をすると、しれっとそう診断を下した。
「何がやっぱりだよ!医者に普通じゃ子供なんでできないって言われたんだぞ。」
大和くんは得体も知れない女に好きなように言われて、ムキなってそう反論した。
「でもね…25%はゼロじゃないわ。ゼロじゃなきゃ、たとえ有効数が1%だったとしても可能性はゼロじゃない。ましてや25%もあるんでしょ?」
でも、彼女は怯まなかった。むしろ…この展開を心底楽しんでる?ニコニコしながら話を進めた。
「数学的な確率の問題じゃないだろっ、これって!」
「そうよ、確率の問題じゃない。解かってんじゃない。確率の問題じゃなくてこれはタイミングの問題なの。だから、アリなのよ。まったく、往生際が悪いわね。いい加減自分の蒔いた種なんだから、納得したらどうなの?」

そして…その正体不明の隣の入院女性の大和くんへのレクチャーが始まった。

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ハムケ15

これはあくまでも私の私的見解ってことできいてくれるかな。」
彼女はそう前置きしてから話を続けた。
「まずね、体質改善ってやる人がいるくらいだから、食べ物変えると体質って変わるのよ。
それから、、私も今お世話になってる身で、大きな声では言えないんだけど、医者って時々行かない方が良い時があるのよ。特に、こういうデリケートな問題じゃぁ、却って萎縮しちゃって、いい結果が出ないものよ。不妊治療してたツレが、止めた途端出来たっていうのを何人も聞いてるのを考えてもね。
それからこれもね、大きな声で言うのは何なんだけど、あんまりマメにやりすぎると却ってダメみたい。」
彼女はそこでちょっと咳払いをしてから、声のボリュームを落として、
「薄くなっちゃうんじゃないかしら。それより日を決めて狙うほうが確実。」
と言って笑った。大声だろうが小声だろうが、結婚している私たちはともかく、未婚のお姉さんと、小久保くんにはかなり刺激的な内容なんですけど。
「以上のことを踏まえると、充分に可能性としてアリなんだよね。有効数ゼロって診断を下されてるならともかく、そうじゃないなら…もう、じれったいなぁ、ってか奥さんが浮気とかしてないんだったら、100%どんなことがあってもご主人、あんたの子供でしょうが!しかも、その怒りようじゃ、あんた奥さんにベタぼれなんでしょ?惚れた女の言うこと信じないで、一体誰の言うこと信じる訳さぁ。」
「あ…」
彼女に捲くし立てられるように言われた大和くん、トドメの一撃まで食らって、一言呻いて俯いた後、済まなそうに私を見た。
「ゴ…ゴメン、俺…」
「いいよ、解かってる。私だってウソだって思ったもん。でも、私は自分の事だから、大和くんだけだって。」
私がそう言うと、大和くんはふーっと大きく息を吐いてから、
「ホントに俺、親父になれるんだぁ。」
ってしみじみそう言った。
「そうよ、-信じるものは救われる-だよ、ご主人。」
それに対して、名前も知らないその女性が、大和くんに向かってグッジョブポーズで応えた。
「俺…俺…あの時、樹里と別れてなくてホント良かった…樹里、お前ってサイコーだよ…」
その後、大和くんはそう言って、男のクセに子供みたいにぼろぼろ泣きながら、私の手をぎゅっと握り続けた。

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真理子という女性-ハムケ16

真理子と言う女性



しかし、この人、一体何者なんだろう…

嵐のような30歳直前男への“性教育”が終って、いきなり氷河期に放り出してしまった感のある独身2人も何とか現実世界に戻ってきたようだ。
特にアラフィフと言ったって、どっかお花畑に生息していそうなお姉さんには、正直きつい話だったろうなぁ。小久保くんは大丈夫なような気がするけど。なんか遊んでいそうだし。

「ま~りこ~、寂しかった?」
その時、病室にいかにも軽っぽそうな作業着姿のイケメン男性が、やんちゃそうな3~4歳の男の子を連れて、1歳くらいのお人形みたいにかわいい女の子を抱いて入って来た。
「あ、トモミチぃ、待ってたぁ。ちょっと寂しかったよぉ。でもね、今はこのお隣さんが遊んでくれてたから…」
するとさっきとはうって変わってまりこと呼ばれたその女性は、くねくねとブリトークを始めた。
その様はさながら女子高生のようで…どう見ても私と同世代の顔とはマッチしなかった。
それに、今入って来た人が旦那様なら、この人2人の子持ちな訳だし…
「あ、こいつが何かご迷惑おかけしたんじゃないっすか?俺、この佐竹真理子の旦那の佐竹智道って言います。」
遊んでもらったという台詞に反応してか、やっと名前の分かった佐竹真理子さんの旦那様の智道さんは、そう言って頭を下げた。
「いえ…とんでもないです。こちらこそ助けていただいて…」
私がそう言うと、
「そうだよ、夫婦の危機救っちゃったんだから、私。」
と、真理子さんは智道さんに胸を張った。
「バーカ、やっぱまたお節介焼いてんじゃん。ホントすんません。けど、根は悪い奴じゃないんで…」
と、恐縮してまた頭を下げた。
「いや、ホントに助かりました。」
と、大和くんも頭を掻きながら智道さんに頭を下げる。男二人が赤くなりながら頭を下げあっているのを見て、真理子さんはけたけたと笑った。

「あ…あの、私たち帰るわね。」
その時、お姉さんがやっと完全復活してそう言った。
「あ、すいませんでした。悪いですけど、俺今日はこのままここに居ていいですか?」
大和くんが慌ててお姉さんと小久保くんに頭を下げる。
「ええ、もちろんそうして。じゃぁ、小久保君、行きましょう。」
お姉さんに促された小久保くんは、右手を挙げて、
「じゃぁ、お疲れ。社長にお前らのラブラブ振りをよーく伝えとくよ。」
と、ニヤニヤ笑いながら帰っていった。
お姉さんはともかく、あの小久保くんが社長にどんな報告をするのかいまいち不安。そう思って大和くんの方を見ると、彼はなんとも言えないという表情をしていた。
大和くんは何を思ってたんだろうか。

-*-

あの後、千夏ちゃんに聞いた話では、小久保くんは会社に戻った後すぐに社長室に向かったらしい。
「直哉、樹里の具合はどうだった?」
「あ、かなりきてますよ。山口…仕事にはもう復帰できないかも知れませんね。」
「ちょっと、小久保君!」
事情を知っているお姉さんが、思わず声を荒げる中、小久保くんはニヤニヤ笑ってお姉さんに目配せした後、
「八木が心配で山口を出せないと思いますよ。」
と言った。
「樹里、そんなに悪いのか?姉貴…」
「ま、まぁね。今は大事にした方が良いとは思うけど…取り返しのつかないことになっても困るし…」
そして、お姉さんまでぼかして言うもんだから、社長は私を心配して頭を抱えてデスクに突っ伏したという。
「そうですよね、どんどんと大きくなりますからね。心配で出せないですよ。」
続いて小久保くんはそう言ったんだと。
「は?大きくなる?」
社長は意味が解からない。
「ええ、あと半年も経ちゃぁ出てきますけどね。」
「ぷっ、樹里ちゃんおめでたなのよ。」
そこでこらえきれなくなって、笑いながらネタ晴らし。
「そうか、子供…直哉、姉貴…ビックリさせんなよなぁ。」
社長は突っ伏した顔を一旦上げた後、一気に脱力したんだと…

会社でそんなやり取りがされていた事を知ったのは、私が産休に入った後だった。

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genre : 小説・文学

ハムケ17

「おかぁ、いつ帰ってくるの?」
「うーん、お腹切ったからもうちょっとね。」
一方、真理子さんはというと、纏わりついてきた男の子にちょっと寂しそうにそう答えた。そっか、おかぁって呼ばれてるのか、真理子さん。
「早く帰ってきてよぉ、初羽怖いよぉ。」
「それは翔真がバカばっかやってっからだろ。」
真理子さんに泣きつく男の子-翔真くんの頭を荒っぽく撫でながら智道さんは笑った。
「お母さんがいないと寂しいよね、翔真くん。」
私は翔真くんに向ってそう言った。
「あれ、翔真寂しい?あ、樹里さんって言ったっけか、紹介するね。この子は3男の翔真。そんでこの子が次女の華野。はい、はーちゃん、ご挨拶は?」
真理子さんにそう言われて華野ちゃんっていう女の子はぜんまい仕掛けみたいなお辞儀をした。かっわいい~!私ももうすぐ、こんなかわいい子供が生まれるのかなぁ、何かワクワクしてきた。
でも、そんな華野ちゃんの仕草に連られて笑顔になった後、私はハタとあることに気付いた。
翔真くん、3男って言ったよねぇ、んで、華野ちゃんは次女って。ってことは…
「ウソ…真理子さんって5人の子持ち?!」
驚いて叫んじゃった私に、真理子さんはゆっくり頷いた。そして、
「うん、そうだよ。子供は5人。でも、正確に言うと、一昨日までは6人目がお腹にいたよ。」
って何でもないようにさらっとそう言った。

「子宮外妊娠でね、その子産んであげられなかったの。」
続けて真理子さんは、遠い目をしてそう言った。涙は出てなかったけど、心は泣いてるのがよく解かった。
「上に5人もいるんだから、これ以上大変にならなくて良かったんじゃない?っていう人もいるんだよね。でもさ、私のお腹に来てくれたその子は…その子しかいないんだよね。」
そう言うと、もう誰もいなくなった自分のお腹を一撫でした。それを見た智道さんが、真理子さんが何故子供を産むことに拘るのかを説明し始めた。

「こいつの17歳の時にね、こいつの兄貴がガンで22歳の若さで死んだんですよ。
ホント、あっと言う間だったな…で、こいつね、葬式の後いきなり俺に迫ったんです。『私、子供が欲しい』って。
正確に言うと、『私、お兄ちゃんをもう一度産みたい』だったんですけど…俺、一旦は引いちゃったんですが、こいつの気持ちはすごく伝わってきたし、俺もこいつの事が好きだったから…迫られると断りきれなくてね、そのまま…ははは、出来ちゃいました。」
智道さんはそう言って照れながら笑った。
「けどね、まだその時こいつ高校生ですよ。こいつの親に怒鳴られるやら殴られるやら…それでも、産むことも許してくれて、こいつと一緒にもしてくれました。
けど、生まれてきたのは初羽(ういは)っていう名前なんですけど、女の子だったんです。」
「それは残念でしたね。」
生まれてきたのが女の子だったと聞いて、大和くんがそう相槌を打った。
初羽ちゃんって、一番上の娘さんだったのか…きっと、入院したお母さんの代わりを頑張ってやってるんだろうな。だから、翔真くんが怖がるくらいにガミガミ言っちゃうのかもしれない。
でも、智道さんは、大和くんの相槌にかぶりを振ってこう言ったのだ。
「いいえ、女の子で本当に良かったと思っていますよ。なまじ男なんか生まれていたら、俺たちきっと、初羽を裕也さん-こいつの兄貴の名前なんすけどーの生まれ変わりとしてしか見られなかったかもしれないです。
でも、そうじゃないでしょ?裕也さんは裕也さんだし、初羽は初羽です。」
智道さんのその言葉に、真理子さんも横で深く頷いた。
「けどさぁ、初羽が生まれた途端、お兄ちゃんが死んで暗くなってたウチの中が一遍に明るくなったんだ。もう、魔法みたいにさ。ああ、赤ちゃんっていいなぁ、偉大だなぁって思ったら、私子供がいっぱい欲しくなっちゃったの。で、14年で6人って訳。」
14年で6人。その6という数字に、生まれてこられなかっ命もカウントしている真理子さんの母心を感じた。

-*-

「今度の出産はお姉ちゃんとこで産めると思って、楽しみにしてたんだけどなぁ…」
そして、真理子さんは悔しそうにそう言った。
「お姉ちゃん?」
「あ、ゴメン。お姉ちゃんって、お兄ちゃんの婚約者だった人。看護師で、今は別の人と結婚して子供もいるの。でも、今でもホントの姉妹みたいに付き合ってるし。
そのお姉ちゃんが私を見ててね、命が生まれる手伝いをしたくなったって言い出してさ、助産師の資格を取って、最近助産院を始めたの。
だから、今度はお姉ちゃんに取り上げてもらえるって思ってたから、余計ショック…」
「そっかぁ…なら、そのお姉さん、私に紹介してくれない?」
それを聞いて私は思わずそう言っていた。見ず知らずの大和くんの事を、顔を真っ赤にして怒ってくれた真理子さん。そのお兄さんが愛した人なら、安心して子供を任せられそうな気がする。
「えっ、ホントに?喜んで紹介するよ!」
真理子さんはそれに対して嬉しそうにそう答えた。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

それから-ハムケ18

それから


そして、私は次の年の春、真理子さんのお兄さんのかつての婚約者、楓さんの助産院で女の子-杏樹を産んだ。
諦めていた、でも本当に欲しくて仕方がなかった家族の誕生に大和くんはもうメロメロで、その時はまだ聞いてなかったんだけど、小久保くんが社長に言ったようにそのまま仕事を辞めさせられそうになった。それこそ高校卒業から勤めてる会社なんだもん、私にだって任されてる仕事もあるから、その引継ぎとかも必要だし、何より予定してなかった子供の誕生は、経済的なことを考えても私がしばらく仕事をしてるほうが良かったし…それで、私が説得しまくって、大和くんが渋々折れたって感じかな。で、結局、杏樹が生まれて私、復帰したしね。
赤ちゃんの方も、ぜんぜん気付かないパパママに自分の存在を知らせるために、あんなトラブルを起こしたんじゃないかってくらい、それからは順調だった。

私は、約束通りお母さんに電話した。お母さんとの久々の再会の時、男の人が送ってきてた。その人と再婚したって言ってた。
「私はちゃんと入籍前に報告したのに、事後報告?」
って、嫌味は言ったけど、お母さんの穏やかな笑顔に、今ちゃんと幸せだってことがすぐに分かって嬉しかった。
もしかしたら、私の入籍の電話の時にホントは知らせたかったのかな。娘に恥ずかしがってどうするのよ、お母さん…私は、お母さんが幸せなほうが嬉しいよ。
だって私、いまとっても幸せだもん。

杏樹が生まれた後はもう大変。私は大和くんに
「私が仕事するから、杏樹は大和くんが育てる?」
って聞いたくらいだ。大和くんはその提案に一瞬応じようかなって顔をした。

それから、あの小久保くんが結婚した。結婚するって聞いたとき、会社の誰かだって思ったら、違ってた。相手は大学時代の同級生。
と言うと、何か純愛っぽいでしょ?でも、この2人2度目…実は、小久保くんとその奥さん真奈美さんは、大学時代に1度籍を入れてる。なんと元鞘!しかも、一度目の入籍理由はデキ婚。渉くんっていう男の子がいるんだって言うから、もうビックリ!!
「あんときさぁ、俺お前の態度に結構ぐっと来たんだよな。それからのお前って、ほんと親バカ道まっしぐらだったし…そんなお前見てると、なんか無性に渉に会いたくなった。で、何かって言うと真奈美に電話しててさ、あいつ最初は今更ってウザがってたけど、その内…なんつーか自然にな…。」
小久保くんは照れながら、そんな仕切り直しの結婚報告を大和くんにしたそうだ。

-*-

そしてもっとビックリなのは、杏樹が生まれて2年半後、私はまた妊娠して、今度は男の子-風太を産んだのだ。ミニ大和くんの誕生に、今度は私がメロメロ。風太の妊娠を機に、私は仕事も辞めた。

「私だけが家族じゃ不満?」
そう言って始まった私たちの結婚生活。だけど、そこにこんな素敵なサプライズが待ってるなんて思いもしなかった。私たちはホントにただ、
「ずっと2人だけで良い、それでも一緒にいたいから。」
ってそう思っていただけなのにね。

風太におっぱいをあげている姿を見ながら大和くんがしみじみと、
「本気で考えなきゃな、明るい家族計画って奴。」
って言った。私はそれを聞いて涙をこらえるのに必死にならなきゃならなかった。

今年で、結婚してから15年。杏樹は中学生。
「ねぇママ、もういい加減年賀状に家族写真使うの止めようよぉ。ハズいじゃん。」
いつの間にか杏樹はもうそんなことを言うようになっていた。
「ウチはそんな恥ずかしい家族なんかじゃないぞ。杏樹、お前が結婚するまでパパは家族写真の年賀状、止めるつもりないからな。」
私が返事する前に、間髪入れず大和くんがそう答えた。
「ウソ、マジ勘弁よ!ねぇ冗談は止めて。」
杏樹がムンクの叫びのポーズでそう返した。
杏樹、冗談だって思ってる訳?悪いけど、パパ本気よ、たぶん。

んでね…ママはパパのそんなところも大好きだから。
ウチの娘に生まれた以上、それは諦めなさい。

                                   -THE END-

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

オジッ ハムケ イッソ

如何でしたでしょうか。リア友雫ちゃんリクエスト…ハムケ。

まず、この奇妙なタイトルは何?と思われた方も多かったのではないでしょうか。韓国語を勉強されている方は気付いたかも知れません。

ハムケ-これは韓国語で「一緒」という意味です。気持ちは同じなのに決して交わらない「パラレル」を意識して付けました。共に歩こうという意味を含んでおります。この記事のタイトルは、訳すとただ一緒にいようよとなります。ただって言うと軽いかな…ひたすら、ずっと一緒にいようよかな。

雫ちゃんのリクエスト項目はずばり、「ハッピーパラレル」でした。

体調を崩してまで龍太郎に入れ込んで書く私に、
「死にキャラ書くの止めなさい。」
と怒った彼女。2度の奇跡を言及し、
「そんなこと実際にあるの?」
と聞いてきたので、ついペロッと、
「うん、昔の友達でね…」
とばらしてしまい、それを書けということになったんです。

だから…このお話にはモデルがおります。
ただ、こういう性質のお話ですので、2度の奇跡のこと以外はできる限りくずしてご本人様とは全く違った人物像に仕上がっております。

美男美女のカップルで、実はやっかんでいたくらいだったんですが、その彼らにこんな過去があると聞いて、みんないろいろな悩みを抱えているのだなと思ったものでした。

現在、私も彼らもお互い複数回引越しをし、音信不通なのでこのままシカトをこきます。
どうかリアル大和くん、リアル樹里ちゃんが私だと気付きませんように…

theme : 今、思うこと。
genre : 小説・文学

脇キャラに愛を込めて1

今回皆さんがよくされている「自作内リンク」を入れてみました。

お気づきでしたか?樹里の同僚の板倉さん…「切り取られた青空」の修司です。「青空」に出てきた北川くんも出せばもっとリアルだったかなとあとで気付きましたが。トランスで無理やり出番作ろうかしら。

ちなみに、加奈子は大和の部署にいました。
そう、板倉夫妻の結婚に大和と小久保はいっちょ噛みしてるんです。入籍部分のサプライズにノリノリだったのは、その辺のお礼の意味も込められてます。
ホントに、仕事してんだか恋愛してんだかわからん会社ですわ。

作者としては小久保くんも社内恋愛とか思ったんですが、彼、物語が進んできたら済まなそうに私のとこに来まして…いきなり元妻と子供のカミングアウトですわ。奥さんが云々より渉くんの話を嬉しそうにし始めた彼に、
「もう一度やり直しなさいよ。」
と作者説教いたしまして…同じ女性との再婚の運びとなりました。

彼らはデキ婚です。勢いで子供作って、出来たから籍入れたものの、けんかばかりで最後は小久保の浮気が原因で離婚。それをまた全部大学在学中にやってるとこが彼らしいですけどね。

あの~書ききれなかったんですけど、社長はちゃんと結婚してます。お姉さんは独身を通しましたけど、後を継いだ社長以下あとの弟妹はそれぞれパートナーを見つけました。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

脇キャラに愛を込めて2

今回脇キャラとして外せないのが佐竹真理子。

でも、彼女は…お気づきの方もいらっしゃるかもしれません、(坪内)久美子です。
本当は「遠い旋律」をリンクさせたかったんですが、「切り取られた青空」はぼかしてはありますが、時間的なものを考えると、修司が樹里より1歳年上、加奈子が大和と同い年。さくらとの時間軸の調整がつかず、名前を変えることにしました。

名前を変えたんだからとキャラいじりをしたら、久美子ヤンママになってしまいました。もう全然違う人です。良かったのか悪かったのか…謎です。
ただ、高広の死によって、久美子が命の尊さに目覚め、6人の子供を儲けること、さくらもそれに触発されて助産師の道を選ぶことは書こうと思っていたことでした。
坪内久美子のキャラクターのままでは子沢山にはできなかったと思うので、佐竹真理子に改名して?正解だと思うことにします。
尚、真理子は懲りずに残った子宮で6人目の女の子彩加を儲けます。


実際のジュリヤマ(まとめてどうする)はたぶん誰にも言わず夫婦でこの問題を乗り切って、そして何でもない調子で私に語ってくれたのだろうけれど、私はあえてそれを真理子に説教される形で乗り切らせました。


一言だけ言わせてください。
龍太郎へ…
君の性格ではたぶん、女性に相談なんかは絶対に出来なかったと思う。
でも、君の相談した相手がもし、男の医者ではなく何人も子供を育てた自社のパートのおばちゃんだったら、結末はすっかり変わっていたのかもしれないよ。
君はやっぱ馬鹿だわ、ホントに…

これが言いたくて、私は真理子(久美子)リンクさせたかったのだと思います。

theme : つぶやき
genre : 小説・文学

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