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ちょっとアブナイショートストーリー

                       -葉書-

ねぇ、ちょっと「クニ」どういうことなのよ!

アンタって元カノのアタシに平気で結婚式の招待状送ってきたり、ラブラブの家族写真つきでメアドを載せた年賀状なんて送りつけてくる無神経な奴だったけどさ。

アタシもようやく踏ん切りつけてあの人とそれなりに幸せなんだからね!

今更1人の年賀状なんて送ってくるんじゃないわよ…そんなんでビックリしてアンタのメアドにアクセスしたり、アタシはもうしないんだからね…すごく気になるけどさ、「それぞれに出す先が違うから分けたんだ」ってしゃらっと言われて地雷踏むのがオチだって気もするからさ。

正月からドキドキさせんじゃないわよ、まったく…


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theme : 下手な短編小説ですが・・・。
genre : 小説・文学

チーン!

外は昼過ぎから冷たい雨が降り続いている。

その年老いた男は最近一緒に暮らし始めた「彼女」を待っていた。

「彼女」はある日突然男の部屋に現われた。そして当然のように彼の部屋に居座るようになった。彼は最初、当惑しながらもそれを受け入れた。そして、今や「彼女」なしには生きられない自分を感じ始めていた。

「雨に降られたりして大丈夫だろうか…あの子は傘も持っていないし…」
「彼女」のためにドアはいつも開けてある。

やがて「彼女」ははじめて来たときと同様にすっと玄関に立っていた。
「やぁ、お帰り。寒かったろう。」
彼は急いで乾いたタオルを取りに走って、タオルに「彼女」をすっぽり包んで濡れた体を拭いた。
「お前、お風呂は苦手だったよな…」
すっかり水気を取り去っても「彼女」の震えは止まらなかった。

「そうだ…これはどうかな。待ってなさい、すぐ温かくなるよ。」
「ミュゥ~…」

荷物もほとんどない彼の部屋におかれた真新しい白い箱。それは、日々の生活で自分の食事や「彼女」のミルクを温めるために重宝しているもの…

彼はその白い箱の中に「彼女」を入れてつまみを回した。

                     -チーン!…-

                          ※昭和55年10月に書いたもののリメイクです

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theme : 下手な短編小説ですが・・・。
genre : 小説・文学

彼方へ…

「妙に蒸し蒸しするよね」
その日は10月だというのになんだか汗の出る日だった。
「え?そうかな、そうでもないけど。」
夫はそれに対して笑ってそう答えた。普段は彼の方が暑がりで、クーラーの設定温度のケンカは日常茶飯事。まだ新婚の部類に入るのに、両手に余る。彼がいない間に設定温度を2℃上げるのが私のこの夏の日課?だった。

おかしいな…そう言えば体も重いし、気分も悪い。それに2~3日前から妙に胸が張る感じもする。何か病気?それとも…
私はそう考えてふっとほくそ笑んだ。

そういえばかなりきてなかった。もともとまともじゃなかったからあまり気に留めてはいなかったけれど、そういうのも考えに入れといた方がいいのかも…明日、病院に行ってみるかな。

そう思いながら寝る前にとトイレに立った。そしたら、出血していた。
(なんだ、違ってたのか…)
私はほっとしたようながっかりしたような気分でそこを出た。

そのとき…
「ママ、マー君を助けて…おねがい。」
小さな男の子の声がした。
「だ、誰?!」
私はあたりを見回してそう叫んだ。誰もいるはずはないのだ。私たちは結婚したばかり、私も彼も初婚で、ママと呼ばれるような子どもも連れてきてはいないから。
でも、もう一度声がした。
「今なら間に合うんだよ…早く!…お願いだから…マー君だけは助けて…」
よくよく考えてみると、その声は耳からではなく頭の中から聞こえてきていた。そう考えたら私は震えだし、止まらなくなった。
「あなた!助けて!!」
そうやって声に出して助けをもとめたものの、夫にこの事を上手く説明できる自信はなかった。ましてやこれから病院に行ったとしても医師に説明できるとは到底思えなかった。

それでも私はその小さな声を信じた。
私は、私の切羽詰った助けを求める声に、何事が起こったのかと慌てて寝室から駆けつけた夫の姿を見た途端ホッとしてその場に座り込みそうになった。彼はそれを寸でのところで私を抱えると、心配そうに
「どうした?何があった?変な奴でもいたのか?」
と言った。
「ううん、血が出てるの…赤ちゃんが危ないの…でも今なら間に合うって…」
私はひどく混乱していて、泣きながら思いつくまま今の危機を夫に伝えた。そんな取り留めのない説明に彼はうんうんと頷いて
「夜中にいきなり診てくれる産婦人科なんてわからないよ。」
と言いながら119番に電話した。

そうやって病院に駆け込んだ私。私はやはり妊娠していて、子供は非常に危ない状態だった。
「間一髪でした。朝まで我慢していたら助からなかったと思います。」
そう医師は言っていた。私は即座に絶対安静を言い渡され、2週間入院した。

しかし、退院してからはそんなことが嘘だったかのように、新しい命はすくすくと育っていった。
7ヶ月にはいったころだった。
「名前何にしようか。」
と、夫が行った。
「う~ん、護(まもる)真実(まこと)雅之(まさゆき)何がいい?」
「悪くはないけど、それって男名前ばっかりじゃない。お前、男の子が欲しいの?、俺はお前に似た女の子がいいのに…」
私が男の子の名前ばかり口にするので、夫は口を尖らせながらそう言った。
「だって、あの子が、マー君って言ってたんだもの。絶対に男の子なの。」
「あの子って誰さ?」
夫は私が自分のお腹を撫でながら返した言葉に首を傾げていた。
「本当なら生まれてくるはずだった、この子の双子の弟よ。」
でも、そう言うと夫は急に顔色を変え、思わず息を呑んだ。
「…お前、それ知ってたのか…」
それから夫はつぶやくようにそう言った。

あの時私が病室に運ばれた後、夫は残されて子供は双子で一人は既に流れていたと告げられたという。その時点では私がそれを知ると、助かった子どもまでまた危なくなるかも知れないと、医師は夫にだけ説明したという。
夫は私が言い出すまで、元気になっても私にそのことを言うべきか迷っていたらしい。

「あの子が知らせてくれなければ…『まだ間に合うよママ。』って言ってくれなければ…だから、この子は男の子。マー君じゃなきゃだめなのよ。」

そして私たちは生まれてきた子供に真実と名づけた。
私は誰にも言わずにあの子に彼方と名づけた。

私は時々鏡に映る真実の中に真実と一緒に成長する彼方を見る。
夫にはそれは悲しすぎると思うし、真実には重過ぎると思う。だから、私の中でだけ『もう一人の息子』彼方の成長を確認するのだ。
そして、その都度私は彼にありがとうと言う。

真実を助けてくれた-それだけじゃない、あなたも大切な私の息子。姿は見えなくても、私の宝物。私はあなたのママでもあるのだから。
あなたがいたことは、ママだけは絶対に忘れないからね。


theme : 自作小説
genre : 小説・文学

お題小説と言うものを書いてみました。

FC2小説に「お題小説」という、まったく脈略のない3つのキーワードで3P以内でのショートショートを書くというものがあるのですが、そこにインスピレーションの働くお題が載っていたので挑戦してみました。


お題:「雪 ゴミ置き場 あの人」

「ふぅ、終った…意外と時間かかっちゃった。間に合わないかと思ってヒヤヒヤしたわ。」
私は、ゴミ置き場に最後のゴミ袋を置いてひとりごちた。

それにしても最近の自治体指定のゴミ袋って、どうしてこんなに小さいんだろう。おかげですごい数の袋になっちゃったし…“分別する”のにもすごく時間かかっちゃったじゃない。

「冷たっ?!」
幾つにもなったゴミ袋を眺めて下を向いていると、私の首筋に冷たいものが落ちてきた。見上げると、例年より少し早く初雪がふわふわと風に乗って舞っている。

やがて、時期の早いそれは、ゴミ袋の名前の上に乗るとすぐに解けて水性マジックの文字を消す。私の全てを詰め込んだそれから、私の名前を…私の存在を消し去っていく。

-さよなら…愛しい人。世界で一番愛してた。-
私は小さな声でそう告げると、自分の部屋に戻っていった。

そして…私は自分の部屋の窓から私の全て-思い出の品と共に幾つにも“分別した”あの人自身-を乗せて走っていくごみ収拾車をぼんやりと眺めた。
「ホントに…全部終ったわ。」

一人きりの今夜は、ぐっと冷える夜になりそうだ…

                                         -完-


※ホラーは嫌いなはず…なんですがね。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

聖画

「これでどう?」
「いいよ、ありがとう。」
私は念願のマイホームのリビングにお気に入りの絵を掛けるように夫に頼んだ。
その絵は鉛筆書きのイエス様。
思いの外ごついイエス様が満面の笑みを浮かべて手を広げている。横には小さな羊。残りの99匹を置いてでも1匹の羊を探す聖書のお話しの絵。

その絵の作者は木原直人、彼の両親が先生をやっている教会学校に私も通っていた-幼馴染みとでも言えばいいのだろうか。
だけど、彼は話はそっちのけで先生であるお父さんの横で、ニコニコしながらいつも絵を描いていた。
イデオ・サヴァンと言うらしいが、日常生活は出来るくらいの軽度の知的障害だと聞いた。本人の中の時間がゆっくりな分、何か飛び抜けて素晴らしいものを持っていることが多いらしい。直ちゃんの絵は本当に見るものの心を温かくする力を持っていた。

あるとき、直ちゃんはイエス様を書いていた。
「直ちゃん、このイエス様ごっつくない?」
私がそう言うと、直ちゃんは、
「そうかな、イエスさまはどんなひとでもだきしめてあったかくするんだよ。だからごっつくなくっちゃ。」
と言って笑った。そのときの笑顔は絵の中のイエス様と同じだった。
「描きあがったらそれ、私にくれる?」
私はどうしてもその絵が欲しくなった。
「いいよ、かいたらあげるね。」
直ちゃんは即答するとまた絵に集中した。
そしてもらったのがこの絵なのだ。落書き帳に描かれた鉛筆書きのこの絵を私はお小遣いで買った額に入れて自分の部屋に飾った。
私にとっては、どんな巨匠のイエス像より、直ちゃんのちょっとマッチョなイエス様の方が本当の姿だと思えた。
私は不思議そうに絵を見た弟に、
「この絵を描いた子は将来絶対に有名になるわよ。だから、先にファンになっとくの。」
なんて言って笑った。

でも、そんな日は来なかった。誰よりも神様に愛されていた直ちゃんはそれから2年後、突然トラックに撥ねられて天国に帰っていってしまったのだ。神様はこんな荒れた世の中に、愛する直ちゃんを長く置いておけなかったのかも知れない。

直ちゃんのイエス様は辛い時悲しい時、いつでも私を励ましてくれた。
嬉しい時には一緒に喜んでくれているようだった。

-私の小さいものの一人にしたのは、私にしたのである-
『靴屋のマルチン』…彼はイエス様だったのかも。でも、私は彼に悪いこともしなかった代わりに、良いこともしなかったな。

「本当にこの絵、いいよなぁ。見てると心が温かくなる。」
かけ終わった絵を見てしみじみ夫がそう言った。

今度の休みには夫を誘って、直ちゃんの好きだった花を持ってお墓参りに行こうと思う。


                         -完-

                        

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theme : ショートショート
genre : 小説・文学

お題小説第二弾

え~、第二部chiffon sideが一段落したので、少し前にFC2小説に載せた「お題小説」を引っ張ってきました。一応、クリスマスバージョンのテンプレの内に載せておかないとと思いまして…


東京LOVER(クリスマス 勘違い 涙)


「イエス・キリストが生まれたのは、本当は12月25日なんかじゃないんだ。後世にヨーロッパの祭りと融合したもので…」
12月24日午後11時10分、私の待つ新幹線のホームに降り立ってあいつは、得意顔でいきなりそんな蘊蓄話を私に述べる。
だけど、挨拶もそこそこにするのがどうしてそんな話な訳?

世間の人々が信仰もないのにかの人の生誕を祝うのがバカバカしいと言いたいのかもしれないけれど、それが2カ月ぶりに帰ってきて恋人に最初にする話なのかしら。

「聞いてる?」
私があいつの話にノーリアクションなままでいたら、あいつはそう言って私の顔を覗き込んだ。
「聞いてるよ。」
「何、怒ってんのさ、今年はちゃんと帰ってきたじゃん、イブに。」
ああそうね、ちゃんとイブに帰ってきたわ。でもイブはあと何分あるの?あんたがそんなご高説を述べてる間に45分を切っちゃったじゃない。
「怒ってなんかないわ。」
「嘘、やっぱ怒ってる。」
怒ってはないわ。呆れてるだけよ。

「それでさ、俺もう、クリスマスに来るのやめるわ。ってか、お前ともう待ち合わせはしない。」
それからあいつは唐突にそう言った。
「何で?」
「何でって…その…」
聞き返した私にあいつは口ごもった。
「何で?!何で、何で、何で!」
何であんな訳のわからない蘊蓄話の後に別れ話なんかする訳?しかも、あったばかりよ!私の眼から涙があふれて止まらなくなった。
「あちゃぁ、勘違いするかな。」
「何が勘違いだっで言うの!」
勘違いだと言われて思わず怒鳴った私に、あいつは照れながらこう言った。
「あのさ、待ち合わせしないってったのは、もう待ち合わせする必要がないようにしたいんだよ。」
「へっ?」
待ち合わせしないで良いって何?
「あーもう、ちょっと広いとこ引っ越しすっから、俺んとこ来いってぇの。」
「へっ?」
「つまりだな…その…俺の嫁にならないかってこと!」
ってことは…これってプロポーズなの?!分かりにくっ!大体理屈屋だとは思ってたけど、ここまでだとは思わなかったわ。
「イヤよ。」
「イヤって…」
「そう、イヤ。こんなプロポーズなんてあり得ない。もう一度やり直してくれなくちゃ、行かないわ。」


「一体、どう言やぁ良いんだよ。」
「もっと、ムードがなきゃ行かない!行事に流されてもムードが欲しいのが女なのよ。」
私は腕組みして、あいつにダメ出しをしてやった。
そして、あいつは時計が午前〇時を迎えるまでに、ブツブツ文句を言いつつ、都合4回もやり直しのプロポーズをすることとなったのだった。

メリークリスマス!!



theme : ショートショート
genre : 小説・文学

ベストパートナー

宿題あるのに、遊んでる子供みたく関係ない物が書きたくなるのが人の常?!
クリスマスをテーマに一つ書いてみました。



ベストパートナー

-12月-町にクリスマスの音楽があふれる頃…

俺はある決心をして、震える手でその電話番号を押した。
1回だけのコールの後、
「はい、浪川です。」
と、聞きなれた声が俺の耳に届いた。
「あ、俺…」
「徹さん…久しぶり、今日は何の用?」
まるで詐欺師のような俺の言い草に、電話の相手-俺の妻の玲子は戸惑った様子でそう返した。
「あのな…聞きたいことって言うかお願いがあるんだが…」
そう言った俺の手は緊張でじっとりと汗ばんでいた。

2年前、俺たち夫婦の仲は冷え切っていた。まだ3歳の佑太が不安そうに見つめる中、どんな些細なことでもケンカせずにはおられなかった。
そんな矢先の遠地への転勤辞令…玲子は佑太や自分の両親の事を理由に一緒に行くとは言わなかった。

「それにね、お互いにもう少し距離を置いた方がいいと思うの。」
そう言う玲子に
「そうだな、それが良いかもしれない。一緒にいなければ、ケンカにもならない。」
俺も、肯いてそう返して…俺は一人任地に赴いた。
だが、一緒にいて埋まらなかった溝は、200km離れて尚更埋まる訳もなく、そろそろけじめをつけて別々に歩き出す方が良いのではないかと思い始めていた。

そんなある日、佑太が一人で電話をしてきた。
「ねぇ、パパ…パパはいつ帰ってくるの。」
「ああ、近々一度帰るよ。」
「ホントに!嬉しいな、お祈りが聞かれたぁ。」
俺が帰ると言うと、佑太は手を叩いて喜んだ。一度帰る-それは、玲子と別れるためだと言うのに…俺の胸がちりちり痛んだ。
「ボクね、このごろ毎日お祈りしてるんだよ、パパとママとずーっと一緒にいられますようにって。ママもお祈りしてるよ。ママが何を祈ってるのかは分かんないけど、お祈りするようになってから、ママ泣かなくなったよ。」
そして、佑太は玲子と佑太が最近、通っている幼稚園のある教会に通い始めたと俺に告げた。それにしても、あの気の強い玲子が泣いている?それも佑太の前で…
「ママ、泣いてたのか?」
「うん…でもママには内緒だよ。」
「ああ、聞かないよ。男の約束だ。」
電話の向こうで、佑太が安堵している様子が判った。

そして次の週末、家に帰った俺は、別れ話をせずに赴任先に戻って来た。玲子は今までとは何かが違っていたからだ。はっきりと何が違うとは言えないのだが、違っていた。そして、いつもとは違って、ケンカをせずに週末を過ごせたのだ。

俺は、玲子が変わった理由が知りたくなり、赴任先近くの教会の扉を叩いた。そこで、キリストに触れられた俺は、その年のクリスマスに洗礼を受ける決心をした。

そして、洗礼式が終わったら新しい自分として、「もう一度やり直したい。こっちに来て一緒に暮さないか。」そう言うために今電話をしたのだ。

「なぁ、クリスマスの週の日曜日なんだけど、こっちに出てこられないか。」
散々迷った挙句、意を決して俺は切り出した。
「どうしても外せない用があるの。行けないわ。ねぇ、その日じゃないとダメ?」
「ああ、今からじゃ予定を変えるのは難しいな…」
俺の他にも洗礼を受ける人がいるし、同じならクリスマスの礼拝の日にやりたかった。
「そう…こっちも私一人の問題じゃないから…」
すると玲子はそう返した。自分ひとりの問題じゃない…あいつの予定は相手のあることなのか。まさか…玲子は既に別の男と?!玲子が変わったのは教会に通い始めたからではなく、俺以外の誰かが支えているからなのか…俺は激しく動悸が打つのを感じた。

「でも、残念だわ。私の方もその日こっちに戻ってきて欲しかったのに…一緒にクリスマスを過ごしたかったわ。」
だが、続いて玲子はそう言った。何だ、勘違いか…俺はホッとして急激に体中の力が抜ける気がした。
「その日、佑太の生活発表会でもあるのか?」
それでも、玲子が俺に戻ってきて欲しいと思うのは、佑太がらみのことしか思い浮かばなかった。
「それは、2月よ。ミッション系の幼稚園が、そんな忙しい時期に発表会なんてしないわよ。」
だが、俺の質問に玲子は笑ってそう答えた。それから、おずおずと続けていった言葉に俺は驚いた。
「あのね、私…クリスチャンになろうと思うの。その洗礼式っていうのがその日曜日なのよ。」
なんてことだ、俺と同じ日に玲子も同じように受洗(洗礼を受けること)を考えていたなんて!
「あ…もしかして、こんなこと相談もなしに勝手に決めちゃっていけなかった?」
驚いて声も出なくなっている俺に、玲子は心配そうにそう尋ねた。
「あ、いや…そうじゃないんだ。実はな、俺がここに来て欲しかったのも、お前と同じなんだ。」
「同じって…」
同じと言われて玲子も驚いている。それはそうかもしれない。あいつは俺が教会に通っていることすら知らないのだから。
「最近、お前が変わった理由が知りたくて、俺も教会に行き始めて…イエス様を信じた。で、洗礼を受けるんだよ。」
「ホントに?!」
「ああ。」
電話口で玲子の鼻をすする音が聞こえた。
「…こんなに早くお祈りが聞かれるなんて…思わなかった。神様感謝します!」
そして、玲子は神に感謝の祈りを捧げた。
「ホントに…感謝だな。」
そんな涙声の玲子の祈りの言葉に、俺の目頭も熱くなった。

「それで、どうしようか…そう言うことなら俺の方をずらしてもらおうか?」
俺の提案に玲子はしばらくの沈黙の後こう言った。
「ううん、このままそれぞれの場所で信仰告白しようよ。私、教会の人にビデオを撮ってもらうから。でね…」
「それが終わったら、こっちに来て一緒に暮してくれないか。」
俺は玲子に言われる前に、言われるであろう言葉をひったくって言った。
「もう…それ私が言おうとしてたのに!そっちで一緒に住んでもいいかって。」
案の定玲子はそう返した。
「やっぱりな。」
「何がやっぱりなの?」
「同じタイミングで同じこと考えてる。」
「あ…」
俺たちはまた同じタイミングで吹き出しそのまましばらく笑い続けた。
「ホントね、私たちってベストパートナーなのかもしれないね。」
「かもしれないじゃないさ、ベストパートナーなんだよ。神様が俺たちを引き合わせたんだから。」
玲子の言葉に俺はそう答えた。

                  - Merry Chirstmas!-


theme : ショートショート
genre : 小説・文学

ピカルとコルロ

夏だね、とういうことで珍しく童話テイストなものを……ただ、つっこみどころは満載です。



ピカルとコルロ


ピカルとコルロは双子の天使。お空の雲を作るのが神様から言われた彼らの仕事です。

「どうだい、すごくいい出来だろ? この雲は」
ピカルはたったいま作ったばかりの自分の雲の自慢を始めました。
「そんなでもないじゃない。それより、この僕の作った雲の方が素敵だよ」
しかし、コルロはそれをちらっと見ただけで、自分の作った雲に目をやり目を細めながらこう返しました。。
「僕の作った雲の方が形が良い!」
「いや、僕の方が白くてきれいだ!」
「「なんだと!!」」
そして今日もまた、いつものケンカが始まってしまうのでした。

こんなですから、ピカルとコルロの仕事はちっとも進まないのでした。



神様はこのことに非常に心を痛めておられました。
「どうしたら二人を仲良くできるだろうね」
神様は二人をお側に呼び寄せました。

「「神様何かご用でしょうか」」
神様のお側に着いた二人は同時にそう言いました。
「ピカル、コルロお前たちはいつでもケンカばかりしているが、どうしてそんなに仲が悪いのかな。」
神様がそう尋ねると、二人はまた全く同じタイミングでお互いを指さすと、
「「それは、この『ピカル』『コルロ』が悪いんです!」」
と自分たちの名前の部分だけをのぞいて同じ言葉を吐いたのでした。こんなに似ているのに、どうしてお互いを認めることだけができないのだろう、それを見た神様は深くため息をつかれたのでした。
「そうか、お前たちの言うこと解った。しかし、ケンカはいけない。だから私はお前たちに罰を与えることにする。次にお前たちがケンカをすればどうなるか……それは、お前たちの目で確かめなさい」
そして、神様はそう言い渡し、二人を下がらせました。



自分の持ち場に戻った後、ピカルはこう言いました。
「コルロのせいで神様に叱られたじゃないか!」
しかし、その言葉が終わるかどうかと言うとき、言葉が突然ものすごい光を発して下界の町へと飛んでいったのです。
「違うよ、それはピカルが悪いんだろ! 僕はそのとばっちりを受けただけだ」
その光に少しビックリしながらも、コルロはそう言って反論しました。するとコルロの言葉は大きな爆音となってドドンと辺り一面に響き渡ります。

二人はその光の落ちた部分をそっと覗いてみました。すると、そこにはその町で一番大きなクスノキの木があったのですが、真っ二つにおれて真っ黒になってしまっていました。その木はいろんな鳥たちが集い歌を歌うので、二人も大好きな木でした。
「あのクスノキが真っ黒になったのは、お前が悪い」
「いいや、お前が悪い」
そして、二人がそう言ってののしり合うたび、言葉は何度も光り、大きな爆音を何度も響かせました。道に大きな穴が開き、小さな子供が怖がって泣き叫ぶ声が聞こえます。
二人は、お互いを見つめたまま固まって何も言えなくなってしまいました。

「ピカル、コルロ」
その時、神様が二人に呼びかけられました。だけど、二人は先ほどから何か話すと光って爆音を立てるので、声を出すことが怖くて返事ができないでいました。
「心配しなくていい、普通に話すことには何も起こらないから」
「「ホントですか!」」
二人はまた同時にそう言いました。その言葉は光ることも大きな音もしませんでした。
「そうだ、普通に話すときには何も起こらない。しかし、お前たちが互いのことを悪く言うとき、それはいかずちとなり地上に降り注ぐ。その場にある木はなぎ倒され、生き物はその命を失うことになる。ふたりは地上のものたちが好きか?」
「「はい」」
「ならば地上のものたちが傷つかぬよう、お互いの言葉を慎むように」
「「はい」」

それから二人がケンカをすることはほとんどなくなりました。

でも、時々はまだ意見が合わなくてケンカになってしまうことがあり、ピカルの言葉は稲光となり、コルロの言葉は轟音となって降り注ぐのです。

そして、ケンカが終わった後、二人は自分たちのことが情けなくなり、いつもわんわんと泣いてしまうことになるのでした。

雷の後大雨が降るのは小さな双子の天使が流すごめんなさいの涙なのです。

                                  
                           -おしまい-






とけちゃった……

青木賞のメンバーがエッセイで発案した「夏休みの宿題」お題:アイスです。


とけちゃった……




 父が寄る年並みで小さな段差に足が上がらなくなって転んで、足の骨を折った。入院中に家をバリアフリーに改造することになり、この際だから要らない物を整理しようと言うことになって、そのために私と姉、それから姉の旦那様達ちゃんが実家に集結した。

「これ、二実ちゃんのだよねぇ。初穂さんはこんなかわいいノートはたぶん使わないだろうから」
そう言って達ちゃんが出してきたノートの束に私はぎょっとした。ちなみに初穂さんというのは、お姉ちゃんの名前。達ちゃんは結婚してもうすぐ30年も経つというのに、未だにお姉ちゃんのことをそう呼ぶ。

 そして、そのノートの束は間違いなく私のものだ。書いている内容も分かっている。社会人になりたての頃、ちょっとだけつきあって別れた大地に対しての愚痴の記録だ。
「げっ、中味読んだ?」
「いや、たぶん二実ちゃんのだと思ったから、開けてない」
良かった……読まれてたら、恥ずかしさで死んじゃうよ、私。

「暑っ、ねぇお茶にしない?」
そしたらジャストタイミングでお姉ちゃんがお茶と高級そうなカップアイスを持ってその部屋に入ってきた。
「頂き物らしいけど、お父さんたちこんなの食べないでしょ。食べといてって、お母さんからの伝言。」
私が不思議そうにアイスを見つめてると、お姉ちゃんはそう付け加えた。お姉ちゃんもどっちかというとアイスは苦手だからだ。その実、アイスは私と達ちゃんの分、2つしか置かれていない。私はその内の一つを取り、どっかと床に腰を下ろして、さっき受け取った「恥ずかしい記録の」の一つを開いた。
 
1ページ目を開くと、本文の上に――なべて事なし――なんていきなりタイトルが冠してある。私、学生時代文章を書いていたりしたから、日記と言うより毎日エッセイを書いているって形式。

 そして、いつしか私は自分の25年も前の文章を読みふけっていた。23歳の等身大の私は、泣いて笑って大地に恋していた。
 だけど、『かわいい』とほくそ笑みながら読んでいた私の手が止まった。そこに大輔という名前を見つけたからだ。

 私は大地が好きだった。ものすごく好きだったから自分からコクって……大地はそれを断らなかったからつきあい始めて、でも盛り上がってたのは自分だけでその内振られた。私はあの頃のことをそういう風に記憶してた。

 だけど、実際の私は大地は好きなんだけど、何も言ってくれない彼にしびれを切らせて逆に私にコクってきた大輔とつきあうと、大地に告げていた。
その時に、大地が
「しあわせになれよ、でも残念だな、俺お前のこと好きだったのに」
って言われてめちゃくちゃ焦ってるし、おまけにその後二股の上、最終的に大地を選んでいた。

 私ばかりが追っかけていると思っていたのに、出てくるのは大地が私にヤキモチを焼く台詞ばかり。

 結局、大地と別れてから大輔とより戻してるし、なんて女なんだ、私……
自分のイヤなところ記憶すり替えてるよ。

「ねぇ、この残りのアイス明雄さんに持って帰る?」
お姉ちゃんにそう言われて我に返った。見ると私のアイスはもうどろどろに溶けてしまっていた。それをスプーンでぐるぐるとさらにかき回す。
「ううん、ウチだと持って帰るまでに溶けちゃうよ」
お姉ちゃんの言葉に私はそう答えた。
車で30分もかかるから、溶けちゃうのも事実なんだけど、ホントは、こんな私を大事にしてくれる夫には、なんか貰い物のアイスじゃ申し訳ない様な気がしてきたからだった。

 今日は彼の大好きなチョコミントのアイスを買って帰ろう。そう思った。

                       -END-







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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

大当たり!! (溶けちゃった……続編)

 お土産

 午後八時、怪我をして入院した義父のために実家の掃除をしてきた妻の二実子を出迎えた。
「ただいま、やっぱり、明雄さんの方が早かったね」
「たいへんだったろ、ごくろうさま」
「ううん、お姉ちゃんも達ちゃんもいたから。はい、お土産」
彼女は、そう言うとスーパーの袋からマルチパックのチョコミントアイスを取り出した。
「どういう風の吹き回しだい? チョコミントだなんて」
チョコミントアイスは私の大好物だが、二実子はいつも『歯磨き粉食べてるみたいで』と言って、私が一緒に出かけてスーパーの買い物カゴに入れない限り、彼女が自主的に買ってきてくれたことなんてなかった代物だ。
「うん? ちょっとね。たまには旦那様孝行しても罰は当たらないかなと思って。でね、私のはこっち」
二実子はそう言うともう一箱取り出した。
「ああ、それ懐かしいな。それを見ると俊樹を思い出すよ」
「俊樹って堀木さん?」
私は二実子の言葉に頷いた。


“あたり”で大当たり

 堀木俊樹。中学・高校を共に過ごしたその男は、陽気で人が良くて、一緒にバカをやると必ず一人だけ捕まるという、ちょっと要領の悪い奴だった。

 夏休みになったばかりのある日のことだった。私たちは野郎ばかりでプールに出かけての帰り、くじ付きのアイスを買って食べながら歩いていた。
「やっぱはずれか……」
「そうそう当たりっこないって」
次々とはずれと書かれた棒が現れる中、最後まで食べていた俊樹がいきなり素っ頓狂な声を上げた。
「当たった!」
その声にみんなが一斉に俊樹の手元を見る。
「どれ、おっ、マジかよぉ。いいなぁ俊樹」
「俺も、もう一本食いてぇなぁ」
「ダメだ、やんねぇぞ!」
慌てて俊樹は手を引っ込めて、
「これは明日食うんだよっ」
と、ご丁寧にアイスを包んでいた紙に棒を包み直して鞄に放り込むと、
「当たった当たった~」
と小躍りして、歩道と車道の境目にある低い縁石に上り、そこを平均台のようにして歩いていった。
 
 たった一本のアイスで……いつもより浮かれていたのかも知れない。たたたっ、と十数歩歩いた後、俊樹はバランスを崩して車道側に倒れた。しかも、そこに運悪くトラックが通りかかり、俊樹はそのままそのトラックに轢かれた。

 一本のアイスの小さな幸せが一瞬にして悲劇に変わった瞬間だった。

 
 私たちは大騒ぎで救急車の手配をし、俊樹を病院に運んだ。

 事故は縁石でバランスを崩して転倒した後だったので、大部分は車体の下の隙間に潜り込んだ格好になり、俊樹は奇跡的にタイヤで轢かれた両足の骨折だけで済んだ。

 それでも全治2ヶ月。俊樹はまだ始まったばかりの夏休みをまるまる棒に振ることになってしまった。

 さぞかし退屈な思いをしているだろうと見舞いに行った私は、病室に入ろうとしたとき、女の子の笑い声を聞いた。そっと覗くと、それは中学3年の時の同級生櫻井智佳子だった。私はその日、病室には入らずそのまま帰った。

 やがて、俊樹は高校卒業後、大学には行かずに就職し、二年後二十歳で智佳子と結婚することになって、私はあのときの野郎たちと共に披露宴に招待された。
 そして、披露宴もたけなわの頃、デザートとして出されたアイスはあの当たりくじ付きのアイスだったのだ。 他の招待客が首をかしげる中、私たちその場にいたメンバーは笑いをこらえるのに必死だった。
 きれいな皿に乗せられたアイスを取り、銀紙をめくって口に放り込む。甘ったるさが口の中に広がる。二人の幸せの味だと思った。

 あのとき俊樹が引いた当たりくじは、アイスだけではなかった。
そう言えば、あの棒には「大当たり!!」と書かれていた様な気がした。


                       -END-

theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

立証-25年目のラブレター

 私はガチガチに緊張しながら高壇に立った。クリスマス礼拝のこの日受洗した私は、その後の祝会でクリスチャンになった理由、あるいは起きた問題に対してどんなみことばが与えられて解決したなど、自分の言葉で信仰を表明する「立証(あかし)」を今からするのだ。

「みなさん、クリスマスおめでとうございます」
と、私は型通りの挨拶から始めた。
「私が今回受洗したのは、みなさんご存じの通り夫杉山基樹が教会でずっとお世話になっていたからですが、私は杉山と結婚22年、結婚前のつきあっていた期間も入れると24年ずっと夫が毎週のように「教会に行こうよ」と言うのをスルーしてきました」

-*-*-*-

 私の夫基樹は、私の会社の上司だった。向こうは一目惚れだったらしいんだけど、私の方は9歳も年上のその人は、気のいいオジサンという感じで全くの恋愛対象外だった。
 その30歳過ぎのオジサンの恋に周りは協力的で、何かというと彼の残業のお供をさせられた。そして遅くなった事に基樹が気を遣って夕食を奢る。もちろんその席ではお酒は出なかったし、ちゃっかりと休日に誘いをかけたりしない。私は最初、周りに踊らされて仕方なく一緒にいるのだろうと思っていたくらいだった。
 残業はするけど、休日には絶対に仕事を残さない基樹に、私は次第に惹かれていった。周りの思惑に乗ったみたいで、そのことを誰にも言わなかったけれど。
 だけど、その休日には仕事を残さない基樹が12月の24日、年末のクソ忙しい日に休むという。その理由が「クリスマス」だって言うんだから、なお驚きだった。
「脇谷さんも参加しない? カロリング。僕は参加してくれる子供たちに配るお菓子とかを準備するんで休むけど、脇谷さんは夕方教会に来てくれればいいからさ」
と言いながら『クリスマスは教会へ』というチラシを私に渡す。
 クリスマスイブだからといってとくに用事もない私は、カロリングに参加した。でも風花の舞う中、よく知りもしない賛美歌を歌いながらかなりの距離を練り歩いた私は、翌日風邪を引いて熱を出した。
 以来、私は基樹がどんなに誘おうが教会には行かなくなった。交際が親密になり彼と結婚しても、否、結婚したからこそ尚更家族より仕事より礼拝を大切にする彼の姿勢に反発を感じていたのだ。
 唯一、子供たちの献児式にだけは参加した。しかも彼と一緒には教会に向かわず、牧師のメッセージが終わる頃を見計らって。 
「ねぇ、一回で良いから礼拝に出てよ」
「はいはい、基樹が死んだらね」
「それでも良いから、ちゃんと出てよ」
いつしか、日曜日の朝には毎度そんな会話が交わされるようになった。

 しかし、結婚22年、私がその挨拶代わりの一言を激しく後悔する事態が起こった。基樹に肝臓癌が見つかったのだ。しかもそれは末期で、リンパへの転移も見られた。

 基樹は病院から教会に通った。彼はそれを
「日曜日になると神様が元気をくださるんだよ」
と言った。そしていつものように、
「尚美、一緒に行こうよ」
と言った。でも、私はいつもみたいに、
「はいはい、基樹が死んだらね」
とはとても言えなかった。すると基樹は
「あ、そうか死んだら行ってくれるんだったな。もうすぐだな」
と笑った。
 本当は心配だから一緒に出席したかった。でも、それは基樹が死んでしまうことを認めることのような気がして、私は相変わらず礼拝に出席できずにいた。
  
「最後だから、クリスマス礼拝には絶対に出るんだ」
そして、そう繰り返し言った基樹。クリスマス礼拝は命の期限から2ヶ月も後だった。けれど木枯らしが吹き始めた11月、基樹は一度危篤状態に陥ったが、奇跡的に回復し12月20日、クリスマス礼拝の当日を迎えた。

 私は、基樹を病院に迎えに行き、教会まで車で送って行った。
「尚美も一緒に出ればいいのに」
と言う基樹に、
「杏奈と良也のお昼を作らなきゃ」
と言って帰った。本当は病院に行く前にちゃんと用意してあったけれど。たぶん私は念願だったクリスマス礼拝に出られた喜びを露わにするであろう基樹を、泣かずに見られる自信はなかったから。
 礼拝と祝会が終わった時間にまた迎えに行き、病院に送り届けた。
 
 ……それからすべての仕事を終えたかのように、翌日基樹は意識不明になり、22日に54年の生涯を終えた。
 基樹の葬送式はクリスマスイブに。大好きなクリスマスソングに送られて天国へ凱旋していった。
 
 私は、基樹の代わりに教会に通い始めた。本当のことを言えば最初は行きたくなかった。基樹の話を聞く度、彼がもういなくなったことを再認識してしまうから。
 でも、いろんな人の口から出てくる基樹の私の知らないエピソードを聞くにつけ、彼が本当に教会の人たちに愛されていたのだと知った。
 大好きな基樹と天国でまた会いたい。私は聖書研究に参加するようになり、イエス・キリストを主と迎えた。

 そして、受洗したいという旨を牧師に伝えたとき、先生は
「ああ、杉山兄弟の祈りが25年かかって聞かれたんですね」
と言われた。
「杉山兄弟はね、あなたの名前を聞いたとき、自分と結婚する導きと、あなたの救いを確信したと言っておられましたよ」
私の名、尚美(ナオミ)は聖書のルツ記に出てくる、ルツの姑の名前だそうだ。
 そのとき私は、24年間頑なに礼拝に行くことを拒んだことを後悔した。一回でも一緒に礼拝に出たら良かったと思った。

-*-*--*-*-

「だけど今、受洗して思うことは、これで良かったのかなと。夫と一緒に教会生活をしていたら、私は夫を失うことで逆に教会を捨てていたかもしれません。すべての事柄には時がある、そう思えるようになりました。これで私のつたない立証を終わります」

 私は一礼をして、高壇を降りた。私はそのとき、礼拝堂の一番後ろで、基樹が笑って拍手を送ってくれているような気がした。
         

             ーMerry Christmas!!ー


 

 
 





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回想――祈り――

 あれから16年、またお父ちゃんを思い出すことが起きてしもた。お父ちゃんはあっちの方で、そこに行ったられへんもどかしさを噛みしめてんのやろうか……


 私は、父が嫌いだった。いや、正確に言えば父の職業が嫌いだった。父は葬祭会社、俗に言う葬儀屋に勤務していた。私は友人たちにそれを知られるのが嫌で、「お父さんの仕事は?」と聞かれると「会社員」だと答えていた。まぁ、父がその会社を経営しているのでない以上、それは間違った返答ではないのだが。たいていの場合話はそこで終わってしまうのだが、しつこく業種を聞かれた場合、私は
「接客業」と答えていた。お客様を送り出す仕事だ。それに間違いはないと思う。そのお客様がご遺体と言うだけだ。
 そうじゃなくても、思春期の女の子と父親には会話なんてなかった。
 それも、私が専門学校を卒業して、社会に出てからは少しは話す様にはなっていたと思う。
 平成7年1月17日に兵庫県を震源として起こった阪神大震災。大阪の我が家は食器がいくつか割れただけで、怖い思いをしたけれど、特にそれ以外は何もなかった。私たちは夜が明けてから、刻々と伝わってくる悲惨極まりない映像をそれこそ映画みたいに眺めるだけだった。申し訳ないなぁと思いつつも、傍観者になるしかなかった。
 しかし、震災から一週間、帰宅した父は葬祭ボランティアとして被災地に行くと言った。生きている方へのボランティアは多いけれど、なくなった方のためのそれは少ない。大体、ご遺体に触れない方も多くいる。
「これはあん時のお礼や、そう思て行ってくる」
その時父は最後にそう言った。父は戦時中、有馬に疎開していたのだという。まだ幼かったので細かいことは覚えていないらしいが、祖母は繰り返しそのときのことを子供たちに話して聞かせていた。多くの人の善意がなければ、母子5人生きてはいけなかった。だから、困っている人があれば自分から手を差し伸べなさい。『情けは人の為ならず』あなたたちは既にそれを受けているのだからと。
 被災地にいる父からは当然だが何の連絡もない。母はそれを『便りのないのは良い知らせって言うやんか』と笑い飛ばしていた。
 そして、父はそれから20日後突然帰ってきた。
「風邪引きや。身元確認の方もそろそろ一段落してきたし、避難所の中は狭い、一人引いたらみんな移ってまうからな」
父はガラガラの声で私にそう言いながら、風呂のスイッチに手をかける。
「お父ちゃん、風邪引いてんやったら風呂入ったらあかんやんか」
「わし、ずっと入ってへんのやぞ」
「風呂入らんかっても、人間死なんわ」
「アホな、死ぬわ。帰ってきて風呂入るのが一番楽しみやったのに」
被災地の入浴事情は分からなかったが、全くゼロではなかったにせよ、それは20日間の中で数えるほどしかなかったろう。風呂好きの父にはそれが一番辛かったのかもしれない。
 しばらくして、父の調子っぱずれの歌が風呂の中から聞こえた。
 案の定、翌日父は38度5分の熱。
「オトン、薬だけやったらあかんぞ、医者行けよ」
弟の睦(むつき)が学校に行く用意をしながらそう言うのに、
「分かっとる、分かっとる」
と返事はしているが、医者嫌いの父が素直にそれに従うとは思えなかった。
 そうだ、父のそんな性分が解っていたのだから、父に黙って従ってきた母が言えなくても、私たち子供たちがムリにでも病院に引きずって行けば良かった。何より私たちは、父が被災地でどんなに心身共に疲れていたのかを理解していなかった。母も私たち子供も父一人を残したまま仕事や学校に出かけて行き……

「姉ちゃん、すぐ市民病院に来い!」
 夕方、睦が切羽詰まった声で仕事場に電話をしてきた。睦が学校から帰ってきた時、父は台所に倒れており、既に昏睡状態。慌てて救急車で病院に運んだという。若い頃肝臓を病んだことのある父は、極度の疲労と相まって、ただの風邪が重症化したのだ。
 父は次の日、手当の甲斐もなく、55歳の生涯を閉じた。あまりに突然のことで、何だか悪い夢でも見ているようだった。
 会社の要請で葬儀ボランティアに出かけた父は、支店次長に格上げされ、社葬として送り出された。
「大変な場所やからて若い俺らが後込みしてる中、向井さんが率先して手挙げたんです。『わしは戦争を経験してる。こんなん空襲に比べたらマシや』そう言うて」
30代らしき父の同僚が真っ赤な目をして、そう教えてくれた。でも終戦時、父はまだ3~4歳。戦時中のことはあまり覚えていないと言っていたのに。
「向井さん、あの○○のことも引っかかってたんちゃうかなぁ」
そう思っていると、別な人がぽつりとそう言った。
「ああ、アレは俺もな」
それに対して、先ほどの人も頷く。
 ○○とは大阪にもたくさん店舗のある大手外食チェーンの名前だ。本社が神戸にあり、そこの会長のお孫さんが震災で命を落としたという。わずか6歳での死に、家族ができるだけのことをしたいというお気持ちはよく解るけれど、会長は震災からわずか二日後に自力で船をチャーターして大阪にお孫さんを連れ、大阪の父の会社の会館で葬儀を行ったという。
『金があるもんはそれができる。けど、金も力もないもんはあの場所におるしかない』
ご遺族が帰った後、父はその人にそう洩らしたそうだ。父は、一人でも多くの方が少しでも心安らかに旅立ってほしいと願っていたのだろうと思う。
 お通夜の夜、祖母は、
「今夜で憲三の顔は見納めやからな、よう見とかんと顔忘れてまうがな」
と、愛おしそうに父の顔をじっと見つめていた。
「お父ちゃんは親不孝やな、お祖母ちゃん」
そんな祖母に私がそう言うと、祖母は首を振った。
「そんなことあらへん。あの子は覚えてなかったと思うけどな、大阪の大空襲の時に、もうホンマに死んでてもおかしない状況やったんや。命拾たと言うてもええ。嫁も孫も見してもろたしな。私は50年分親孝行してもうたと思とるよ」
「私はお父ちゃんが嫌いや」
息子に誇らしげな表情を向ける祖母から父に目を向けて私はそう言った。
「何でなん」
祖母が首を傾げる。
「さんざんかっこええこと言うて、さっさとおらへんようになって。まだ、私や睦の子供も見てへんのに」
「そやな、憲三は親不孝やのうて子不幸やな」
祖母がそう言って笑った。

 そして、17回忌のすぐ後に起こった未曾有の大災害。一介の主婦の私にはできることなんて本当にないけれど、助かった方が少しでも笑顔でいられるように、そして亡くなった方がどうか安らかでありますようにと、私はコンビニの募金箱に釣り銭を入れて祈りを捧げた。










 


 

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theme : 誰かへ伝える言葉
genre : 小説・文学

ユダヤ人の王

※これは昨年クリスマス、「なろう」の「もみのき企画」に参加した作品です。
「クリスマス」
「聖夜」
「サンタクロース」
というワードをNGとしての短編というルールに則って書いたモノです。


『ユダヤ人の王』



『ナザレのイエスが捕まった』
 その噂がこのベツレヘムで宿屋を営むアサとハンナに耳に届いたのは彼が捕らえられた翌日のこと。
 彼らはそれを聞くと逡巡したが、結局店を息子夫婦に任せてエルサレムに向けて出発した。
 元々エルサレムは10kmほどの距離だ。遠くないのでここを経由して神殿に向かう客などあまり多くはないから、余程のことがなければ大変なことはならないだろう。
 彼らがゴルゴダの丘に着いたとき、イエスは既に十字架につくことが決まっていた。
罪状は『ユダヤ人の王』パリサイ派(ユダヤ教の中で律法の遵守を第一とする一派)と思しき者が、
「こんな大罪人が我々の王であるはずがない」
としきりに抗議しているが、ローマの役人は
「それはもう決まったことだ」
と歯牙にもかけない。
(そう、あのときも『彼』はそう呼ばれていた。宿を貸したものとして、それは誇らしくもあったのに……)
それを遠巻きに見ながらハンナは、30年あまり前の出来事に想いを馳せていた。

 30年程前、時のローマの皇帝、アウグストから人口調査をせよとの命が下る。それはローマの支配下に置かれたユダヤの国も例外ではなく、いやむしろそういった所謂属国に更なる課税を模索する為の彼らの錬金術と言った方が正しいのかもしれない。人々は己が在所に戻り、その場で登録をせねばならなかった。
 そうしてアサたちの宿を訪ねたのがナザレのイエスの両親、ヨセフとマリアだった。
 きちんとはしていたが、あまり裕福そうでない彼らは、もう既にベツレヘムのそこここの宿で宿泊を断られてきたらしい。
「どんな場所でも良いですから泊めてください」
と、彼らは懇願した。しかし、受け入れる宿はなかった。
 それはそうだろう。まだうら若いそのマリアという女性は明らかに妊婦と判る大きなお腹をしていたのだ。あの様子では早晩生まれるに違いない。それなのに、夫ヨセフ以外誰も一緒ではなかった。
 何よりも家系を重んずるのがユダヤの民だ。彼らの親が既にいないのだとしても、誰かしらサポートをする親類がいても不思議ではない。むしろ、いないことがおかしい。
 どうせ、婚約期間中のフライングなのだろうと、アサたちは思った。それで、周りは2人きりで登録地を往復することによってその間に出産し、月足らずの禊ぎをそこでさせようという腹積もりなのだと。
 実際、客室は満室なのだし、他の宿屋同様に突っぱねることはできたのだが、先年3人目となる娘タマルを生んだハンナにはどうも無碍に断ることは出来なかった。
 それはアサも同じだったようで、
「厩(うまや)なら空いてるが。それで良ければ」
と彼らに提案した。彼らはもちろんそれを喜んで受け入れ、マリアはそこで『彼』-イエスを産んだ。彼らはイエスを布に包んで飼い葉桶に寝かせた。逆にそうやって見てみると、この飼い葉桶というのは赤子の寝台には打ってつけに見えた。

 その夜、星に導かれて羊を飼う者が彼らを訪れて、産まれたばかりのイエスを伏し拝んだ。
 神殿に行けば、神殿で祈り暮らしている年寄りは涙を流してその誕生を喜ぶ。
 待ち望んでいたメシヤが産まれたのだ。そしてその手伝いをすることが出来たアサたちは非常に誇らしかった。
「私たちがメシヤを無事生まれさせたのだ」
と近所を触れ歩きたい気分だった。

 だが、遠い東の国から訪れた星読みたちによってその様相は一転する。
 こともあろうに、ユダヤの地理に不案内な彼らは、王宮に出向いて、
「ユダヤ人の王としてお生まれになった方はどちらですか」
とこの国の為政者にイエスの居所を尋ねたからだ。
 自分はそこそこの歳だし、子供たちもすでに大きい。いったい誰のことだ。不安を感じた時の王ヘロデは、自国の学者たちに預言の書を徹底的に調べさせ、その幼子がベツレヘムにいることを突き止めた。
 そこでヘロデは、
「ユダヤに王は2人要らない」
と言い、ベツレヘムの街にいる2歳以下の男児の皆殺しを命じた。
 ただそれは、神が父ヨセフにその危機が迫っていることを夢で教え、彼らが無事エジプトへと逃れた後のことだった。
 残されたのは、関係のない幼子たちの亡骸と、それを呆然と見つめる母親たちの姿だけ。アサたちの一番下の子は女児だったため難を逃れたが、もし、男児であったならと思うだけで、アサもハンナも震えがいつまでも止まらなかった。

 それだって、このときの幼子-ナザレのイエスが本当に長じてユダヤ人を統べてくれたなら、それを御心として受け入れられると思った。だから、彼が預言の通り世に現れ、エルサレムに入場し、人々が棕櫚を敷いて熱狂したと聞いて、やっとそれが成ったのだと心底嬉しかった。

 なのに……あれから、たった一週間である。一週間で事態はまた最悪に転じた。

 神よ。どうしてあの時、あなたは十字架につくような男を救ったのですか。それではあのとき潰えた小さな命は全くの犬死にではないですか。ハンナは母としてどうしても納得できなかった。

 そして、今度は以前のように神の助けもなく、イエスは十字架につけられて死んでいった。アサたちはやるせない想いを抱いたままベツレヘムに戻って行った。

 だが、それから3日後、イエスはよみがえったという噂が。今度は騙されまいと身構えるアサたちの宿屋に一人の男が訪れた。
「神がおられるのなら、どうして罪もない命の代わりにあんな男を救ったりしたのですか」
イエスの話をし始めた男に、ハンナはアサが止めるのも聞かずに毒づいた。すると男は、
「その子らは人の罪の為の犠牲の雛形。
ただ、罪ある者がその罪を雪ぐことができるのはその時だけ。
しかし、これは罪なき者が全ての罪を代わりに背負って十字架につき、その者は死に打ち勝ったということ。
それ故、人の子を信じる者は全ての罪許され天国に入ることができるのだ。
ユダヤ人のみならず、全世界の人が」
とハンナに優しく諭した。
「罪なき者が全ての罪を代わりに背負う……ユダヤ人のみならず全世界の人がですか……」
しかし、アサが男の言葉を反芻したとき、既に男の姿はなかった。
 幼子のような澄み切った瞳……その時彼らは、男が復活の主だと悟った。

 やはり、御心は成ったのだ。人智を遙かに超える形で。

 その後、アサたちはイエスを伝える者となり、イエスが産まれたその厩(うまや)は、生誕教会として、今も残されている。

『神はそのひとりごをお与えになったほどに、世を愛された。
それは御子を信じる者が一人として滅びることなく、永遠の命を持つためである』
      新約聖書ヨハネの福音書3章16節

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theme : 自作小説
genre : 小説・文学

ここに教会がある

 拓也がこの地で牧会して初めて迎えた12月のことである。
「菅沼センセ、もうすぐイエス様のお誕生日なんだよね、教会はいつピカピカにするの?」
12月最初の教会学校が終わって、拓也にそう聞いたのは、5才児の戸田祐司だ。だが、
「本当はしたほうがいいんだろうけどね。御降誕までは忙しいからムリだよ。でも、今年は次の週もあるからね、その日にしようと思ってるんだ。祐司くん、手伝ってくれるのかな」
ピカピカにすると言うからてっきり大掃除だと思ってそう答えたた拓也に、
「センセ違うよ。夜になったらピカピカする奴だよ」
と、口を歪めて言う祐司。ああ、どうりで変だと思ったら、イルミネーションのことか……
 拓也自身、子供の頃から何がイヤだと言って、年末の大掃除ほどイヤなものはなかったので、それを家でもないのに率先してやってくれるのかと思い、びっくりしたのだが。さすがに5才児がそんな心配をする訳がないかと苦笑する。それで、
「礼拝堂のツリーは光らせるつもりだけど、表には何もする予定はないよ」
そう言った拓也に、祐司は、
「何で? ボクのお隣の家、教会に来てないけどいっぱい電気つけてるよ」
と言う。祐司の家は新興住宅街にある。ああいう所は一軒がそういうものを飾ると次々とそういう家が増えてくるようだ。
「ああ、そういうお家は多いね。でも、先生の家も明日美先生の家もしてなかったな」
そう、拓也は親から、明日美は祖父母の代からの信者だ。
 しかし、菅沼家ではこの時期、イルミネーションはおろか、ツリーにも電飾は施していない。降誕の風景を模したジオラマは玄関先に置かれているが、それは通年。クリスマスだからというからではない。
 それは父菅沼篤志の、
『イエス様の誕生は一年中いつでも祝い感謝するもの』
であり、
『外側を飾ることに電力会社に支払う金があるのなら、それを全て献金する』
という確固たる信念からくるものだ。
 明日美の実家ではどうだったか。ツリーに位は点いていたような……しかし、ドアに手作りのリースはあるが、光で彩ってはいなかった。別にそれは、強制ではないのだが、多くの信者が同じ考え方をしているのか、信者で電飾に拘るものは少ないと思う。
「アレってね、結構お金かかるんだよ」
それを後押しするように、拓也の妻明日美がやってきて祐司にそう言った。だが、祐司はそれを聞いて
「お金って100万円?」
すかさずそう返した。拓也と明日美は具体的な金額を出されて、思わず互いを見る。しかし、祐司は大金=100万円と思っているに過ぎない。
「100万円もかからないけど、お家全部をピカピカにしたら、パパのお給料が1回なくなるぐらいはあるかな。そしたら、パパプレゼント買ってくれないかもね」
それが証拠に明日美が祐司にも分かるように説明すると祐司は、
「そんなのやだぁ。じゃぁボク、ピカピカ要らない」
自分のプレゼントがなくなると聞いて、あっさりと前言を撤回する。だが、それを聞いていて、
「でもさ、一番のイベントなんだから、ちょっとぐらいした方が良くない? 十字架だけでもライトアップするとかさ」
今は宣伝の時代っしょと、言いだしたのは、中学1年の三木彩菜。
「『あかりは机の下に入れちゃいけない』んでしょ。イエス様は『世の光』だから。それで十字架は屋根にあるんだよね」
それに、同調したのは小学5年生の彩菜の妹、三木和葉。
 若干認識に難はあるが、言わんとするところは解る。いや、寧ろ和葉の言うのが実は正解なのかも知れないと拓也は思った。24時間、全てのことで主を証しする。ここに教会があると伝えることもその一つではないのかと。
 拓也は早速翌日ホームセンターに向かった。そこで手にしたのはガーデニング用の照明で、ソーラー発電タイプのもの。そうでないと配線しないといけないし、屋根なら陰になることもない。拓也は屋根に登り、十字架に向けてそれを取り付けた。
 教会堂を献堂する際に、ヨーロッパ風に三角屋根にしている教会も多いが、ここは信者だった老婦人が娘夫婦と同居するからと格安で教団に譲ってくれたものを、礼拝用に居間をフローリングにするなど少し手を入れただけのもので、ごく普通の日本家屋だ。拓也は今回そのことに感謝した。

 結果、この年、その光に導かれて二組の家族が教会に訪れた。
 そのうち一組の妻のイさんは韓国から嫁に来たばかり。日本よりずっと信者数の多い韓国。夫に付いてきた日本で、教会を探して祈っていたという。その時、小高い丘の上から浮かび上がるように十字架が見えたのだ。
「もう、ジェッタイミチビキ思ったね、」
と、彼女は片言の日本語で興奮気味にまくし立てた。
 そしてもう一組は……
「えーつ、焼き肉屋と間違ったの?」
明日美は彼らの来会理由を聞いて素っ頓狂な声を上げた。そう言えば、本場のプルコギを扱う店で、時々十字架をライティングさせてあるところがあったりするが、それと間違われたのか……
「でも、近くに来てもそんな店どこにもないし、帰ろうかと思ったら讃美歌が聞こえてきたんですよ」
彼らが教会前に着いたのはちょうど燭火礼拝の真っ最中で、その歌声に引き寄せられて教会の門を叩いたらしい。
 そして、先に来ていたイさんと韓国ドラマの話で盛り上がり、見事に枝につながった。

「主よ、あなたの御業に限界を設けていた私をお許しください」
後日、そんな悔い改めをした拓也だった。
 


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theme : オリジナル小説
genre : 小説・文学

姉妹の味

 12月、後数日で第4週を迎えようというこの日、菅沼家の台所は甘い匂いに包まれていた。
 この家の新米主婦明日美が、新米とは思えないほどの手際の良さで伸ばした生地をジンジャーマンやらもみのきやら靴下などの様々な型で抜いている。ダイニングテーブルには既に出来上がったものが粗熱を取るために置かれている。24日のカロルの後、回ってくれた子供たちに、それから25日の燭火礼拝のあとの交わり(集会後の雑談をこう呼ぶ)の茶菓子に供するためだ。
「ホント、教会の人たちって、こういうの忠実(マメ)だよな」
出来上がったクッキーを手で触りながら、この家の主、拓也はしみじみとそう言った。牧師の妻である明日美は、礼拝前日にはスポンジを焼き、当日に飾り付けながらポトラック(持ち寄りの食事会)の料理も作るという。
「ま、ある意味鍛えられるよね」
明日美は、抜き終わった生地をオーブンに入れながらそう言って笑った。
「確かに鍛えられるって感じだよな。
母さんも、最初の何年かは毎年この時期目が血走ってたもんな」
 拓也が教会に通い始めたのは、彼が中学二年の春。きっかけは明日美の父の死だった。同僚だった両親は前夜式(仏式でいう通夜)に参列したのがきっかけで教会に通い始め、入信した。
 そして彼らは初めて、料理を持ち寄って行う食事会のことを知った。男連中はただ食べるだけなので、いろんな人の得意料理が食べられてラッキーだと思っていただけだった。弟の健斗などは、これに釣られて率先して教会生活を始めたと言っても過言ではないと拓也は思っていたのだが、菅沼家唯一女性の母には、たとえ一品とは言え何かを作らねばならないというのがかなり負担だったようだ。
 さずかり婚で拓也と弟の健斗ががほんの小さな内にしか家に居ずずっと働いていた母冴子は、自分の料理に対してコンプレックスを感じていた。他の婦人たちの料理はみな手が込んでいて、自分の料理がみすぼらしく思えるのだ。
 それで母教会(洗礼を受けた教会のこと)では、月に一度の聖餐の度にポトラックが行われていたのだが、毎月毎月何をしたらいいのかと、冴子は唸りまくって父篤志や子供たちに聞きまくる。当然男共から果々しい返事が返ってくる訳もなく、メニューが決まるまでいつもカリカリしていた。
 しかも、12月は世間様まで挙って祝う一大イベントだ。おかずだけではなく、スイーツも一品と言われて、冴子のイライラは頂点に達した。
冴子は、年末で残業の続いている篤志を、
「男の方が腕力あるでしょ」
と、帰るのを待ってまで、シフォンケーキ作りを手伝わせたのである。篤志もまた、一言も言わずに手伝い、結果、冴子の機嫌がすっかり良くなったのを見た時、拓也は父の母操縦術を見た気がした。
 その内、冴子はいつの間にか当たり前のように季節にあわせてメニューを考え持って行くようになった。
 それに、その人の十八番みたいなものがやはりあって、特にこのイベントの時には、各自が『鉄板』を持ち寄るのが暗黙の了解で、逆にこのときには考えなくて良くなったというのもある。だから拓也の覚えている12月4週の朝の母の顔が、不安顔からドヤ顔にすり替わって久しい。

 そうだ鉄板と言えば……
「関屋のおばあちゃんのおはぎ食べたいな」
ぽつりとそう言った拓也に、明日美も頷く。
 関屋のおばあちゃん-関屋ハツ-は母教会の婦人だ。彼女のおはぎはやさしい家庭の味で、どんなにケーキを食べていても、別腹で納まった。しかし、ハツは拓也が神学校在学中に天に凱旋してしまったので、今後任地が運良く母教会になったとしても、二度と味わうことができない。そう思うと、何だか余計に食べたくなってしまうから不思議だ。まさにおふくろの味のようなものだ。いや、教会では信者同士で兄弟・姉妹と呼び合うので、『姉妹の味』と言った方がいいかもしれない。
 そして、そんな記憶に残る『姉妹の味』が他にもたくさんある。拓也は今度は明日美の料理がこの教会の『姉妹の味』になっていくのだなと思った。

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